06
ともかく、早急に居場所を突き止めたい人間はもう一人いた。
「……彼女が敵に回れば厄介なことになる」
スザクと同レベルの身体能力とまではいかなくても、互角に戦える可能性がある唯一の人間。
だが、彼女の行方を何と言って探させようか。ルルーシュがその口実を探して悩んでいたときのことだった。
「ルルーシュ、いいかな?」
待ち合わせていたスザクが駆け寄ってくると同時に声をかけてくる。
「どうした? また宿題でも忘れたのか?」
そういえば、昨日、ブリタニア語の宿題が出ていたはず。そう考えながらルルーシュは問いかける。
「それも教えて欲しいけど……」
珍しくスザクが言葉を濁しながらこう言ってきた。
「違うのか?」
では、何なのだろうか。彼の顔を見つめながらルルーシュは心の中でそう呟く。
「とりあえず、つきあってくれない? 神楽耶も車で待っているから」
スザクはそう言いながら、ルルーシュの手を握りしめてくる。
「スザクさん!」
その手をロロが叩く。ルルーシュの手には被害を及ぼさないあたり、さすがと言っていいのだろうか。
「僕がルルーシュに危害を加えるはずがないだろう?」
スザクが彼をにらみつけながらそう言い返す。
「それに、本当に緊急事態なんだって」
遅刻したくないでしょう? と彼は続ける。
「確かに遅刻はまずいな」
ルルーシュはそう言ってうなずく。
「神楽耶様もお待たせするわけにはいくまい」
さらにこう付け加えた。
「兄さん!」
ロロが言外にやめるようにと言ってくる。
「神楽耶様とスザクが俺に危害を加えるはずがないだろう?」
安心しろ、とルルーシュは微笑んだ。
「それに聞かないで後悔するよりは、聞いて後悔した方がいいからな」
さらにそう付け加えた。
「……わかりました」
それについては何も言わない。ロロはそう言い返してくる。
「でも、なれなれしく手を握るという行為は、また別問題だと思います!」
だが、すぐにこう主張した。
「……そのくらいは許してよ。学校でもやっているんだし」
ため息とともにスザクはこう言ってくる。
「君が騒ぐほど、気にしている人間はいないよ」
何よりも、その方が守りやすい。そのセリフはどうなのだろうか。ルルーシュは首をかしげたくなる。
だが、確かによくつまずいて転びそうになったところを支えてもらっているのは事実だ。
「ここは実家ではないんだ。あまり細かいことは気にするな」
ルルーシュはそう言って微笑む。
「ともかく、スザク。神楽耶様のところに案内してくれ」
自分達まで学校に車で乗り付けるわけにはいかない以上、早めに話を終わらせる必要があるのではないか。ルルーシュはそう言った。
「校門まで行かなきゃいいんだし……少し、時間かかると思うよ」
いろいろと説明をするのに、と告げるスザクが、どこか疲れているように見えたのは、ルルーシュの錯覚ではないだろう。
「……わかった」
ここは逆らわない方がいい。そう判断をして、ルルーシュはうなずいて見せた。
スザクの案内で駐車場へと向かえば、やたらと大きなリムジンが停車しているのがわかった。ブリタニアでなれているとはいえ、日本で見るとどうしても驚いてしまう。
「大きいですね」
ロロもそうだったのか。こう口にしている。
「いくら神楽耶でも、普段はこんな派手なのは使わないけどね」
今日は人数が多い。全員乗れるとすればこれだけだった。視線を彷徨わせながら、スザクはそう説明してくれる。
「多いって……俺たちの他に誰かいるのか?」
ルルーシュはそう問いかけた。
「……皇の分家――と言っていいのかな?――の人間が一人。いとことかはとここか言うよりも遠い相手だけどね」
ただ、無視できない相手だ。スザクはそう言った。
「はっきり言って、体術は僕と互角かな」
この言葉に、ルルーシュはいやな予感を覚える。
自分が知っている限り、スザクと互角に戦えるのは母か藤堂、あるいはラウンズの他には二人しかいない。
その一人は、中華連邦を移動していないことは確認済みだ。
そうである以上、残りは一人と言うことになる。
だが、違うという可能性だって否定できない。第一、彼女が皇の分家だと言う話は聞いたことはなかった。
それとも、こちらでは違うのだろうか。自分が知らなかっただけ、と言う可能性も否定できない。
「かなり強烈だから」
ため息とともにスザクがそう言ってくる。
「家の親戚よりも強烈な人間がいるとは思えないが」
自分の母や兄姉たちのような、とルルーシュは言外に告げた。
「会ってみればわかるよ」
それにスザクはこう言い返してくる。
「……お前にそこまで言わせるとは……怖いな、会うのが」
ルルーシュの言葉に、スザクは苦笑を浮かべた。そのまま、ドアに手をかける。
「連れてきたよ」
そのままドアを開けながら中へと声をかけた。
「遅いわよ」
彼に返された声は神楽耶のものではない。だが、ルルーシュはその声の主を知っていた。もっとも、相手の方は自分を知らないだろう。
だが、それももうなれた。
それは、やり直せると言うことと同義だと実感したからだ。
「仕方がないだろう。説明するのに時間がかかったんだから」
自分が口べただと言うことは知っているだろう? とスザクは反論している。
「なら、抱えてくればよかったじゃない!」
「君じゃあるまいし、そんな目立つまねはできないよ」
「普段から死ぬほど目立っている人間が何を言っているのよ」
このセリフに、ルルーシュは『そんなに目立っているのか?』と首をかしげる。
「二人とも、いい加減にしてください」
そんな二人の口論に神楽耶の声が割って入った。
「このままでは遅刻します。とりあえず、ルルーシュ様とロロ様に乗っていただきましょう」
スザクはどうでもいいが、と続けるあたりさすがと言っていいのだろうか。
「そうね。何にせよ、逃げられないようにしてからの方がいいわ」
それに同意をする声に、苦笑しか浮かんでこない。
「兄さん」
ロロが不安そうに声をかけてくる。
「大丈夫だ。神楽耶様とスザクがいる」
二人が一緒にいて自分達に危害が加えられるはずがない。そう言ってルルーシュは微笑んだ。
「いざとなれば、スザクが自分を盾にして守ってくれるだろう」
なぁ、と口にしながら彼に視線を向ける。
「もちろんだよ」
スザクはすぐにうなずいて見せた。
「と言うことで、乗って」
後の話は車内で、とスザクは言う。
「ロロ」
彼の言葉に小さく首を縦に振ると真っ先に車に乗り込んだ。
その瞬間、燃えるような赤い色の髪の毛が視界に入ってくる。
やはり、とルルーシュは心の中で呟く。
「彼女が僕たちの幼なじみというか、僕のけんか相手のカレンだよ」
紅月カレン、とスザクが教えてくれる。
「初めまして、カレンさん」
それにルルーシュは微笑むと、彼女に向かって手を差し出した。