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「すごいわね。あいつらが連絡をよこさなかったなんて初めてだわ」
二日後、カレンがこう言ってくる。
さすがはシュナイゼル、と言うべきなのだろうか。
「でも、何と言って圧力をかけたの?」
興味津々といった様子でスザクは問いかけてきた。
「母さんが興味を持ちそうだから、俺の方で確保しておきたい。そう言ったんだ」
自分達以外ない、と言うことを確認して、ルルーシュはそう告げる。
「マリアンヌ様かぁ」
確かに最強の言い訳よね。こう言ってきたのはミレイだ。
と言うよりも、自分達が彼女の元に押しかけたといった方が正しいのかもしれない。
「そう言うお前も、もう、生徒会を掌握していたとはな」
さすがだな、とルルーシュは言い返す。
「いやぁん! ルルちゃんにほめられちゃった」
わざとらしい仕草でミレイは喜んで見せた。それにあきれたくなる。
「ともかく、これで校内の情報は集めやすくなったな」
それを無視してルルーシュはこう言った。
「別に必要ないんじゃない?」
スザクが問いかけてくる。
「そうとも言えないな。勧誘するなら大人よりも学生の方が簡単で、しかも大勢、集められる」
だから、校内に関係者が潜んでいたとしてもおかしくはない。何よりも、とルルーシュは続けた。
「ここには六家の関係者が三人もいる。連中にしてみれば、何が何でも取り込みたいはずだ」
実際、カレンは知り合いから勧誘を受けていたのだろう? とルルーシュは問いかける。
「不本意だけどね」
今日も言われたわ、と彼女はうなずき返す。
「とりあえず、主義主張を確認したいから、資料をよこせ、と言っておいたわ」
よかったのよね? とカレンは確認するように口にした。
「あぁ。助かる」
少しでも相手の思考パターンがわかれば対策の糸口が見つかるだろう。それはこちらにとってプラスになる。
「そう言うものなんだ」
スザクが感心したように呟く。
「あんたはもう少し頭を使った方がいいわね。何でも力押しじゃすまないでしょ」
カレンが即座に嫌みを言う。
「大丈夫。ルルーシュが僕の分も考えてくれるから」
それににこやかにスザクが言い返す。ひょっとして、今のカレンの言葉をイヤミと受け取っていないのだろうか。
「ルルちゃんは人一倍考えるけど、体力がないからちょうどいいのかもしれないわね」
ミレイはミレイでこんなことを言ってくれる。
「それがわかっているなら、俺の体力を余計な事で奪うな」
即座にルルーシュはそう言い返す。
「ここでは絶対につきあいませんからね」
さらにこう続けた。
「わかっているわよ。昨日、おじいさまにも念を押されたし」
どこまで本気なのかわからない言葉をミレイは口にしてくれる。
「まぁ、全部終わったときに盛大にやるから、教えてね?」
にっこりと微笑みながら口にされた言葉にルルーシュは肩を落とす。
「考えておく」
協力する気はないが、と心の中だけで告げた。もっとも、それを口に出すととんでもないことになるのもわかっている。だから、あえて言葉を濁しておいた。
「そういうことだからミレイ。教職員のデーターを確保してくれ。できれば、家族の氏名も三親等までは欲しい」
後はV.V.に頼んで詳しいデーターを入手してもらおう。そこに怪しい動きがなければそれでいい。データーは即破棄させるだけだ。
「わかったわ。明日までに用意しておく」
任せて、とミレイは胸を叩く。こういうことに関して彼女は嘘は言わない。だから任せても大丈夫だろう。
「……後は、カレンの友人達か」
さて、彼らをどうするか。ルルーシュはそう呟く。
「いっそ、餌付けしちゃえば?」
それが聞こえたのか。スザクがこう言ってくる。
「ルルーシュの手料理を食べれば意識が変わるんじゃないかな」
カレンも落ちたし、と彼は笑う。
「否定はしないけどね、確かに」
それにカレンがため息混じりに言い返す。
「でも、なんて言って食べさせるのよ」
それが問題でしょう、と彼女はスザクに詰め寄っている。
「おばさんに料理を習いに行くという口実なら? おばさんも料理上手だし、ルルーシュの知らないレシピも知っているんじゃないかな」
カレンと自分が紹介したと言えばいいだろうし、とスザクは言う。
「確かに、それならばいいか」
「だろう? ついでに、僕たちが藤堂さんに稽古をつけてもらっているときなら他の人たちにも声をかけやすいんじゃないかな」
山ほど作ったと言えばいい。その言葉に、ルルーシュはあきれたくなる。
「結局、自分が食べたいだけだろう、お前は」
「いいじゃん。ルルーシュの手料理なら、三食食べてもあきないと思うし」
本音を言えば、三食食べさせて欲しい。真顔でスザクはそう言う。それは深い意味はないセリフだとわかっている。それでも、深読みしたくなるのはどうしてだろうか。
「いっそ、お嫁に来て欲しいくらいだ」
さらに彼はこんなセリフを口にしてくれる。
「お前な」
ルルーシュはため息とともにこう言い返す。
「俺は男だぞ」
日本では男同士で結婚できるのか。言外にそう問いかけたつもりだった。
「気にしないよ。ルルーシュだし」
しかし、スザクは別の意味に受け取ったらしい。こんな言葉を返してくれた。
これは、そう言う意味なのだろうか。それともただの冗談なのか。ルルーシュはそれを確認しようとする。
だが、それより先にロロと神楽耶の鉄拳が彼の後頭部に飛んできた。
「ルルーシュ様に何をおっしゃっているんですか!」
「兄さん嫁にもらおうなんて百年も早い!!」
口々に彼らはスザクを怒鳴りつける。
「……そこまでにしておいてください。スザクだって本気で言ったわけでは……」
「何を言っているんだよ、ルルーシュ! 僕はいつだって本気だよ」
せっかく人がごまかそうとしているのに、何を言っているのかこいつは。本当に空気が読めない奴、とルルーシュは頭を抱えたくなる。
「この件が終わったら、一緒に暮らそうね」
一方、スザクは満面の笑みとともにこう言ってきた。このまま彼の戯言につきあっていては話が進まない。
「ロロ。中等部で変わったことはなかったか?」
そう判断をして、ルルーシュはロロへと声をかけた。
「僕の方は特に。でも、神楽耶様が教育実習生に絡まれていました」
この言葉に、ルルーシュは視線をスザクの襟首をつかんでいる神楽耶へと移す。
「神楽耶様?」
「おそらく、ルルーシュ様が考えておられるとおりだと思いますわ」
間違いなく、あちらの関係者だろう。神楽耶はそう断言する。
「ミレイ」
「任せておいて。すぐに調べさせるわ」
ルルーシュの呼びかけにミレイはこう言葉を返すと立ち上がった。そのまま部屋の隅に置かれたパソコンへと歩み寄っていく。
「ひょっとして、ルルーシュなら自力で何とかできるんじゃないの?」
ミレイに頼まなくても、とスザクが問いかけてくる。
「できる人間がいてくれるんだ。その間に別のことをした方がいい」
自分一人で全てを背負おうとすれば後々破綻を来す。だから、とルルーシュは心の中だけで付け加える。あのときの失敗は二度と繰り返さない。そのためにも、仲間にはできるだけ隠し事はしないのだ、と続けた。
「しかし、思ったよりも大胆になってきたな」
それとも、神楽耶に声をかけてきた人間が馬鹿なのか。どちらなのだろう。
「ちなみに、その実習生の名前は?」
ミレイがこう問いかけてくる。
「杉山賢人、だったかしら」
神楽耶が確認するようにロロに問いかけた。
「確かそうです」
聞き覚えがありすぎる名前に、ルルーシュは頭を抱えたくなる。この分では扇や玉城もかかわっているのだろう。
それはある意味、予想できていたことだ。
しかし、それならば《ゼロ》は誰なのか。
まずはそれをつかまなければいけない。その手がかりはどこにあるのか。
早急に見つけなければいけないか、とルルーシュは心の中で呟いていた。