12
ロロを通じて杉山の身辺調査を嚮団に依頼した。もっとも、そこから《ゼロ》につながるとは思っていない。それでも、可能性があるなら手をつけるべきだ、と考えたのだ。
「むしろ、カレンの方からたどる方が早いかもしれないな」
ルルーシュはこう呟く。
「兄さん」
それが耳に届いたのだろうか。ロロが呼びかけてきた。
「どうした、ロロ」
柔らかな声とともにルルーシュは視線を向ける。
「兄さんはどうして《ゼロ》をそんなに敵視するの?」
放っておけばいいのに、と彼は続けた。
「俺があいつを怖がっている理由か」
過去の自分が関係していると言ってもも理解されないだろう。だから、とルルーシュは事情を知らない者達用に考えておいた説明を口にすることにした。
「それは、あいつが表に出ずにブリタニアへの憎悪をふくれあがらせているからだ」
あの頃の自分のように、と心の中で付け加える。
「正面から向かってくるならば、母さんや姉上達にお任せすればいい。だが、裏から影響力を増してくるというのであればそうはいかない」
そして、あいつの悪意に染まった人々がさらに増えたらどうなるか。
いつ、誰が自分達の敵に回るかわからない。最悪、自分の家族が敵になる可能性だってあるのだ。
今はまだいい。
それはまだ実行に移されていないのだ。
だが、それは先送りされていると言うだけだ。その分、人々の中で悪意が育っていく。
やがて抑えきれなくなった悪意は《ゼロ》の合図で一斉に爆発をする。そうなったら、世界はどうなってしまうのか。
あちらでは全ての悪意を自分に集めることでばらばらになった意識を一つにまとめることができた。しかし、この世界の《ゼロ》にその覚悟があるのだろうか。自分にはわからない。
「……嚮団も同じことができるかもしれないが、V.V.様がきっちりとまとめているからな。馬鹿はでないだろう」
C.C.もいるし、と続ける。
「……わかりました。余計な事を申し上げてすみません」
ロロはそう言って頭を下げた。
「気にするな。お前の立場では当然のことだ」
聞きたいことがあるなら遠慮せずに質問しろ。そう付け加える。
「はい」
「わかったなら、お茶を淹れてくれないか?」
そう言った。
「はい!」
ロロが嬉しそうに頷く。
そのまま彼がキッチンへと向かおうとしたときだ。奥の部屋へと設置していた通信機が着信を告げてくる。
「……誰だ?」
ここに直接連絡が来るのは珍しい。ルルーシュは眉根を寄せながらこう呟く。
「確認してきます」
ロロはそう言うとそちらに向かって駆け出した。
「厄介事でなければいいが」
その背中を見送りながら、ルルーシュはそう呟く。しかし、それならばあの二人のうちどちらかが押しかけてくるはずだ。だから大丈夫だろう、と結論を出す。
それが錯覚だったとわかるのは、それからすぐのことだった。
「もう一度、言ってくださいますか?」
兄上、とルルーシュはこめかみを押さえつつ口にする。
『君の友人にロイドが作ったナイトメアフレームのパイロットのテストを受けて欲しいのだよ』
ブリタニアであれに適正があるのはマリアンヌだけだった。さらりと怖いセリフを彼に口にしてくれる。
しかし、だ。
「スザクは日本人ですよ」
ナイトメアフレームはブリタニアの機密ではないのか。言外にそう問いかける。もちろん、彼が操縦できないなど微塵も考えていないが。
『君に何かあるよりも、そのくらいを妥協した方がいいからね』
何よりも、とシュナイゼルは笑う。
『あれの製造はもちろん、整備もロイドでなければ不可能だ』
そもそも、あの男が
確かに、スザクにはあれの構造を理解することは不可能だろう。もっとも、乗りこなすことに関しては疑っていない。彼の身体能力はあちらでもこちらでも変わりがないのだ。
「つまり、決定事項なのですね? しかし、父上がよく許可を出されましたね」
そう言うとモニターの中でシュナイゼルは苦笑を浮かべる。
『陛下はすぐに許可をくださったよ』
その言葉にルルーシュは頭痛を覚えた。
だが、とすぐに思い直す。
「ついでにカレンの測定もしてもらおうか」
彼女も十分に乗りこなせるはずだ。
「後は、ロロが使えるグラスゴーなりサザーランドも持ってきてもらえれば、ありがたいですね」
スザクがいくら身体能力に優れているとは言え、あれを乗りこなすには時間がかかるだろう。そのフォローをロロにさせればいいのではないか。
『そのくらいなら私の権限でもすぐに許可を出せるね』
任せておきなさい。彼はそう言って微笑む。
『あぁ、そうだ。君が言っていたシステムももうじき完成しそうだよ』
その言葉にルルーシュはふっと微笑む。
「それはよかった」
うまくいけば自分用の機体を作れるかもしれない。もっとも、他の者達がその操縦システムを理解してくれるかどうかはわからないが。もっとも、ロイドとラクシャータはおもしろがってくれるだろう。
『しかし、二人乗りの機体とは……いざとなれば、私も戦場に立てるかもしれないね』
騎士達の志気を高めるのに利用できるだろう。シュナイゼルはそう言って笑った。
「そうですね。もっとも、兄上がそのようなことをされることはないと思いますが」
シュナイゼルがそんなミスをするはずがない。ルルーシュはそう言い返す。
「むしろ、式典などの時の方が利用価値があるかもしれませんよ」
さらにそう付け加える。
『ふむ。確かに、視覚的効果は高いだろうね』
ナナリーやカリーヌがとんでもないことに使ってくれるかもしれないが。シュナイゼルはそう続けた。
『もっとも、あの子達の暴走を抑えるにはいいだろうね』
そばに騎士がいれば、と頷く。
「あの子達以上に、ユフィが心配ですよ、俺は」
苦笑とともにそう言い返す。
『あの子のことはコゥが何とかするだろう』
どうやらシュナイゼルは『我関せず』を貫くつもりらしい。
「ですね」
そういうことにしておこう、とルルーシュも頷く。
「ともかく、ロイドがいつ来るのか。予定を教えていただけますか? こちらも準備がありますから」
周囲に説明をしたり根回しをするなどの、と付け加えた瞬間だ。シュナイゼルが不意に視線を彷徨わせ始める。
「なるほど。もう、こちらに向かっているわけですね」
しかも、ロイドのことだ。軍の特権を使いまくっているのだろう。
「明日には到着していると……」
いったいどうしてくれようか。
「ロロ。ロイドの飲み物に睡眠薬を混ぜるのは可能か?」
それとも、いっそのことこちらの準備が整うまで入院させてしまうか。投獄でもいいかもしれないな、とついつい考えてしまう。
「兄さんが『そうしろ』というなら、いつでも」
即座に彼はこう言ってくる。ならば、最悪の時には実行に移すべきだろうか。
『ルルーシュ』
苦笑とともにシュナイゼルが彼の名を呼ぶ。
『あれでも軍ではそれなりの地位にいるのだからね。手加減をしてくれるかな?』
まぁ、頭さえ無事ならばかまわないだろうが。そう付け加える彼に、どこまでロイドは大切にされているのかと思わずにいられない。
「善処しましょう」
苦笑とともにそう言い返す。
「もっとも、あいつが俺の指示に従ってくれている間は、ですが」
ロイドはきっとスザクを気に入る。その結果、授業や何かを全て無視して引っ張り出そうとするだろう。それを認めるわけにはいかない。
今のあいつはただの学生なのだ。
昔のように戦うことを優先させたくはない。
『それについては、私からも釘を刺しておこう。マリアンヌ様のお名前も借りてね』
さすがのロイドもマリアンヌには勝てない。だから、とシュナイゼルは言ってくれた。
さすがのロイドも母にはかなわないのか。部地の意味でルルーシュは感心したくなる。
「ぜひともお願いします。俺はともかく、他の者達は学業優先ですから」
『わかっているよ』
ルルーシュの言葉にシュナイゼルはしっかりと頷いてくれる。これならば大丈夫だろう。いざとなればお仕置きしてもいいという言質もとったし、とルルーシュは心の中で呟いていた。