13
二人のテストの結果は、初心者と思えないものだった。
「すごいじゃなぁい」
その事実にロイドだけではなくラクシャータも驚いたような表情を見せる。
「これなら、私の機体を預けてもいいかもしれないわね」
彼女はそう続けた。
「スザク君は僕のだからねぇ!」
即座にロイドがこう言ってくる。その彼の足をルルーシュは思い切り踏みしめた。だけではなくセシルが彼の脇腹に肘鉄を入れている。
「スザクはスザクだ。誰かの所有物ではない」
悶絶する彼に向かってルルーシュは冷たいまなざしを向けた。
「いい加減にしないと、二人を連れて帰るぞ」
さらにそう続ける。
「ルルーシュ様。私までプリント同列ですか?」
ラクシャータが不本意だというように問いかけてきた。
「そう言うわけではない。一人を残しておくと、その男がうるさいだろう?」
強引に自分の開発した機体に乗せようとして、とルルーシュは言葉を返す。
「そういうことですか。納得しましたわ」
確かに邪魔してくれそうだ、とラクシャータも頷く。
「ロイドさんですから」
学生時代から少しも学習していない。そう言ってため息をついたのはセシルだ。
「確かに。一度マリアンヌ様に教育的指導をしていただきたいくらいだわ」
日常的にマリアンヌと顔を合わせているからだろうか。ラクシャータはあっさりと彼女の名を口にする。しかし、ロイドはそうではない。
「それだけは……」
珍しくも顔色を失うとこう言ってくる。
「そういえば、ロイドは以前、母さんにお仕置きされていたな」
マリアンヌの許可を取らずに自分とナナリーをナイトメアフレームに乗せたときだっただろうか。しかも、彼はすぐに自分の研究に夢中になってしまい、コクピットの開け方を知らなかった自分達は丸一日近く閉じ込められたのだ。
マリアンヌとシュナイゼルが探しに来てくれなければどうなっていたことか。
そう。あの頃はまだ、自分は《
記憶を取り戻した後ならば、あのくらい簡単に開けることができた。そして、ナナリーをすぐにでも外に出してやれただろうに。
だから、別にロイドがマリアンヌにお仕置きをされたとしても当然だとしか思えない。
しかし、ロイドにとっては『当然』ではなかったようだ。
「マリアンヌ様のお仕置き……あの地獄……」
あれはいやだ、と呟きながら彼は頭を抱えてうずくまる。
「それこそ、自業自得だろ」
あきれたようにラクシャータが口にした。
「ロロ」
それを横目にルルーシュは彼に呼びかける。
「お茶ですね、兄さん。全員分ですか?」
「あぁ、頼む。セシルには説明とロイドの見張りを頼みたいからな」
基本的に味覚は悪くないのに、何故、余計なトッピングを足すのか。しかも、全てが思いつきでだ。おかげで、最終的にはとんでもない代物が出てくることになる。
それを避けるためにルルーシュはこう言った。
「仕方がないですね。あぁ、ロロ君。必要なものはいつもの場所にあるから」
さすがにこう言われては『自分が動く』とは言い出せなかったのだろう。セシルはロロにこう声をかけていた。
「ねぇ」
話が一区切りついたと思ったのか。カレンが口を開く。
「何だ?」
「あんたのお母様って、どんな人なの? 噂しか知らないし」
ちょっと気になる、と彼女は付け加えた。
「一言で言えば『人外』だな」
ためらうことなくルルーシュはそう言い返す。
「見た目はルルーシュ様によく似ているわよぉ。マリアンヌ様は髪にウエーブがついていて少し垂れ目気味かなとところぐらいかしら、違いは」
瞳の色は当然として、とラクシャータが続ける。それはこの紫の瞳が皇族以外にでないものだからだと言える。
「身体能力と家事能力は雲泥の差だけどな」
もちろん、身体能力はマリアンヌが上で、家事能力はルルーシュの方が上だ。
「一人でラウンズの半数は相手ができるな、とりあえず」
日本であれば、東京ぐらいは制圧できるかもしれない。もっとも、後に残るのはがれきの山だろうが。
「ブリタニアで最強の女性だよぉ」
少し浮上したのだろうか。ロイドが口を挟んでくる。
「ナイトメアフレームのテストパイロットをしていて、そのお披露目で父上の目にとまったのがラウンズに取り上げられたきっかけだそうだ」
その後、あれこれあって結婚したそうだ。
「しかし、今となっては父上ですら母さんの手綱を取れないからな」
逆に、シャルルの方が微妙に尻に敷かれている。そう言った意味では『ブリタニア最強』というのは間違っていないのかもしれない。
「……いっぺん、手合わせしてみたいな」
スザクがこう呟く。
「やめておけ、と言いたいところだが、鍛錬なら殺されることはないだろう。今回の件が終わったら相談してみる」
今はスザクが戦力外になると辛いから、と続ける。
「そうだよな。先にこっちを何とかすべきなんだよな」
あっさりとスザクは頷く。
「そのためにも、ナイトメアフレームぐらい動かせないと、ルルーシュたちを守れないし」
あちらが開発していないとは限らないし、と言う彼の推測は正しい。もっとも、現状でブリタニアの技術が頭一つ抜け出しているのは事実だろう。
「そうね。神楽耶様のためにも必要になるかもしれないし。このまま、つきあってもいいわ」
カレンもそう言ってくる。
「わかった。セシル、頼んでかまわないか?」
ロイドの無茶ぶりを止めろ、と言外に問いかけた。
「任せておいてください」
セシルの返事にルルーシュは満足そうに頷く。
「でも、どうしてルルーシュはナイトメアフレームに乗らないの?」
ふっと思いついたというようにスザクが問いかけてくる。
「乗れないことはないが……俺は今ひとつ才能がないからな」
とりあえず、一般の兵士相手ならば何とかなるだろう。しかし、周囲には母や妹を始め並以上のパイロットがそろっている。それならば、自分は別のことで皆をフォローする方がいいのではないか。そう考えたのだ。ルルーシュはそう説明する。
「どうしても反応が遅れるしな」
これだけは生まれ直しても治らなかったらしい。
「いっそ、アクションを全て記憶しておいて、必要な時にキーボードで組み合わせる方が俺には合っているのかもしれない」
そう言う機体を使っていたしな、と心の中だけで付け加える。
「そういえば、ルルーシュってゲーム機だと弱いけど、パソコンだとめちゃくちゃ格闘ゲーム、めちゃくちゃ強いよね」
あれもアクションは最初から記録されているから? とスザクは問いかけきた。
「たぶん、そうだろうな」
あれがゲーム用のパッドや何かだとどうしても指の反応が遅れる時がある。それがどうしてなのか、と言われても自分でもわからない。
「……なるほど。そういうことなら、何か考えてみようかしら」
なかなか楽しい機体ができそうだし、とラクシャータは頷く。
「それなら、僕がぁ!」
即座にロイドもこう言ってくる。
「コンセプトだけ作れ。それを見て決める」
もっとも、とルルーシュは続けた。
「今の機体が完成してからだな」
まずは彼らを優先しろ、と命じる。
「Yes.Your Highness」
ルルーシュの言葉に、研究者三人はそう言い返してきた。この反応ならば、しばらくは暴走を抑えられるだろう。
その間に全てが終わってくれればいいが、と心の中だけで呟く。
「兄さん、お話し終わった?」
ロロがそう言いながら紅茶の入ったカップを手渡してくれる。ついでというように他の者達にもだ。
「あぁ」
その香りをかぎながらルルーシュは頷く。
「お前にもいろいろとがんばってもらう。後はジェレミアか」
最悪、彼にもこちらに戻ってきてもらわなければいけないだろう。
「問題は、二人が実戦に出られるようになるまで、あちらが待ってくれるかどうかだな」
そうあって欲しい。しかし、自分が決められることではない。
「学業の妨げにだけはならないようにしないとな」
こう呟くと、ルルーシュは紅茶を口に含んだ。