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ロロとジノのおかげでスザクとカレンもそれなりに戦えるようになった。そして、ジェレミアもすぐそばの基地へと配属替えになりこちらに顔を出すようになった、そんなある日のことだ。
まるでそれを待っていたかのようにあちらが動き出した。
「……福岡の領事館が襲撃された、だと?」
休み時間を狙ってかかってきた電話の内容に、ルルーシュはかすかに眉根を寄せる。
同時に、これからどうするか。いくつかの選択肢を脳裏に思い浮かべる。
「引き続き情報を集めろ。それと、昼休みにあわせて、秘密裏に車を回せ」
ロロとジノを連れて行かないわけにはいかない。そして、神楽耶達に情報を伝えておくべきだろう。そう判断をして、ルルーシュはそう告げる。
『Yes.Your Highness』
ジェレミアが静かな声でそう言い返してきた。
「決して先走らせるな。いいな」
ここは
そのせいか、ここに配属された兵達の中には『左遷』と言っているものすらいるのだ。
しかし、自分が来て雰囲気が変わったらしい。
彼らにとって《皇族》と言うのがどれだけ特別なのか。改めて認識させられた。同時に、厄介だとも思う。
「俺が望むのは、功を焦って作戦を台無しにする人間ではない」
さらに釘を刺すように続ける。
『わかっております』
打って響く鐘のようにジェレミアは言い返して来た。
「では、昼休みに」
そう言うと、ルルーシュは通話を終わらせる。
「何かあった?」
いつの間に近くまで来ていたのだろうか。スザクがこう問いかけてくる。
「わからない」
ルルーシュはそう言い返す。
「だが、俺が行った方が良さそうだからな」
情報を集めるにしても何にしても、と続けた。
「僕も……」
「ロロとジノを連れて行く。だから、心配はいらない」
それよりも、とルルーシュはスザクを見つめた。
「とりあえず、ノートを取っておいてくれ」
読めるかどうかはわからないが、と心の中だけで付け加える。
「でも……」
「今回は、まだ、ブリタニアのことだけだからな。どのみち、お前たちも放課後には来るんだ。そのときでかまわないだろう」
それまでに正確な情報をつかんでおく。ルルーシュはそういった。
「……でも……」
「お前が優先すべきなのは勉強だろう?」
テストが近いぞ、と付け加える。その瞬間、スザクの表情が微妙にこわばる。
「最悪、俺はテストどころではなくなるからな」
そう言った瞬間、チャイムがなった。
「ほら。授業が始まるぞ」
こう言いながら、彼の背中を押す。そして、教室へと戻った。
「何かわかりましたら、すぐに連絡をくださいませ」
ルルーシュの話を聞いた神楽耶がこう言ってくる。
「もちろんです」
最悪、日本軍にも協力をしてもらわなければいけない。心の中でそう呟きながら、ルルーシュはそう言う。
「そういうことだから、スザク。弁当の中身は適当に片付けておいてくれ」
視線を移動すると彼に言葉をかける。
「それは嬉しいけど、やっぱり、僕も一緒に行こうか?」
スザクは即座にこう言ってきた。
「大丈夫だ、と言っただろう? ロロもジノもいる。あちらにつけばジェレミアも待っている。現状で、最強の布陣だ」
例え百人で襲ってこようとも、彼らがいれば心配はいらない。ただ、周囲への被害も多いだろうが。
「……でも、一緒に行きたいんだよな」
自分が、とスザクは呟く。
「お前が次のテストを自力で乗り越えられるならな」
ルルーシュが小声でそう呟けば、彼の表情がこわばる。
「山ぐらいかけてくれるよね?」
「それも自力でやれ」
追い打ちをかけるようにルルーシュは微笑んだ。
「それでもいいなら、ついてきてもいいぞ」
しばらく悩むようにスザクは視線を彷徨わせる。
「……放課後まで我慢する」
やがてあきらめたように彼はそう言った。
「最初からそう言え」
「そうですわよ、お従兄様。あきらめの悪い」
ルルーシュの言葉の後に続いて神楽耶が彼を非難する。
「……何か、いやな予感がするんだよ」
ぼそっとスザクが言い返して来た。
「何かが起きるような……だから、そばにいたいんだけど」
「大丈夫だ。私達が何があろうとルルーシュ様を守ってみせる」
ジノがきっぱりと言い切る。
「そもそも、それが僕の存在意義です」
さらにロロもだ。
「そう言うセリフを口にするな、といつも言っているだろう?」
困った奴だ、と呟きながら、ルルーシュはロロの肩を叩く。
「すみません、兄さん」
肩を落としながらロロが言い返して来る。
「次から気をつければいい。それよりもそろそろ車が来ている頃だ」
移動する、と言外に告げた。
「はい」
「準備はできています」
二人はそう言ってくる。
「お気をつけて行ってきてくださいませ」
神楽耶が声をかけてきた。それにうなずき返すとルルーシュは歩き出す。
「学校が終わったら、すぐに行くからね!」
そんな彼の背中をスザクの声が追いかけてきた。
移動中にも次々と情報がルルーシュの手元に届けられていた。
「……厄介だな」
それらに目を通しながら、ルルーシュは呟く。
「ルルーシュ様?」
何がですか、とジノが問いかけてくる。
「最悪、戦闘になる」
ここがブリタニアであればそのようなことは気にしない。むしろ、一気にあぶり出せると喜ぶところだ。
しかし、ここは日本だ。
この国の民衆を巻き込むわけにはいかない。
さて、どうするか。
「いっそ、どこかにおびき出すか?」
だが、相手がうまく乗ってくるだろうか、と言う問題がないわけではない。それでも、何とかしなければいけないだろう。
「それについても、ジェレミア達と相談だな」
本国も交えて、だ。
「でも、どうしていきなり動き出したのかな? 今まで、こんな派手なことしなかったのに」
ロロがそう問いかけてくる。
「おそらく、準備が整ったんだろうな」
だから、隠れている必要がなくなったのだろう。
「それは俺が対処できる範囲内だといいがな」
ルルーシュはそう言うとまた新しい資料を確認する作業へと戻った。