17
エントランスにはジェレミアとこの基地の司令官、それにロイド達が待っていた。
いや、彼らだけではない。
もう一人、ここで会うとは思っていなかった人物もいた。
「何をしに来た、C.C.」
反射的にこう問いかけてしまう。
「あいつらが動いたと聞いたからな。お前の手伝いをしてやろうと思っただけだ」
平然とC.C.が言い返して来る。
「V.V.が来るよりは平和だと思うぞ」
それはどうだろうか。少なくとも、彼は自分の作戦を邪魔することはない。しかし、それを指摘しても目の前の相手はのらりくらりと言い逃れをするはずだ。
「……とりあえず、こちらの邪魔はするな」
無駄とは思いつつ、ルルーシュはそう言う。
「もちろんだ」
どこまでわかっているのか。C.C.はそう言って笑って見せた。
「話半分に聞いておいてやろう」
ため息とともにルルーシュはそう言い返す。
「とりあえず、状況を報告しろ」
ルルーシュはジェレミアにそう命じる。
「福岡の領事館はほぼ機能停止状態です。領事および職員は駐屯地で保護させました」
「機密は?」
「物理的に破棄したそうです」
と言うことは、パソコンのたぐいはハードディスクを破壊し、書類は焼き捨てたと言うことか。襲撃を受けている最中によくやった、とほめるべきだろうな、と思う。
「……それで、領事館を襲った者達は?」
「現在、この国の警察とにらみ合っていると」
介入するか、とジェレミアが言外に問いかけてくる。
「いや、任せておけ」
下手に介入をすれば、それこそ、国際問題になりかねない。それよりも、とルルーシュは眉間にしわを寄せた。
「お前がこちらに戻ってきてすぐ、と言う方が気になるな」
まるでそれを待っていたかのようなタイミングは本当に偶然だろうか。
「……内部に内通者がいると?」
「別に内部でなくてもかまわないだろう。出入りをしている業者であればその程度の情報をつかむのは簡単だろうからな」
移動しながらそんな会話を交わす。
あのときのように明確な憎しみを受けているわけではない。それでも、ブリタニアを憎々しく思っているものは少なからずいるはずだ。
そして《ゼロ》の信奉者は民衆の中にかなり潜んでいるのだろう。あるいは、そう言う者達を優先して引き入れたか、だ。
どちらにしろ、厄介だとしか言いようがない。
「いっそ、ここに攻撃をしてきてくれれば口実ができるのだがな」
思わずこんなセリフを口にしてしまう。
「……ルルーシュ様」
「冗談だ」
半分はだが、と心の中だけで付け加える。
「ともかく、あちらの指揮官が誰か。それを早急に突き止めろ。その環境もだ」
それと、とルルーシュは続けた。
「日本政府に『72時間以内に解決できないなら勝手に動く』と通達」
この言葉に周囲から小さな声が漏れる。
「ここはブリタニアではない。だが、我が国の矜持を踏みにじられている以上、黙ってみているのはそこまでだ」
さらに言葉を重ねれば、兵達の表情が引き締まっていく。
「本国へは?」
「すでに連絡を入れてあります。シュナイゼル殿下が時間があれば通信を入れて欲しいとのことです」
さすがはジェレミア。自分を待っている間にできることは全てしていたらしい。
「そうか。ならば、司令室か?」
「ご案内します」
先に立って彼は歩き出そうとする。
「その前に、ロイド」
それを押しとどめると、ルルーシュは視線を移動させた。その瞬間、チェシャ猫のような笑みを浮かべている男が視界に入ってきた。
「はぁい。なんですかぁ?」
「スザクとカレンが来るかもしれん。そのときはお前が責任を持て」
「了解しましたぁ」
さらにすごい笑みを浮かべると、彼は頷いてみせる。
「僕のランスロットとあいつの駄作に突っ込んでおきます」
それもなんなのか。そう言いたいところだが、その時間も惜しい。そう判断すると、ルルーシュはさっさと歩き出す。
「……ロロ」
後をついてきた彼の名を口にすれば、すぐに駆け寄ってきた。
「嚮団に連絡を入れておいてくれ。最悪、協力を求めることになりかねない」
ジェレミアがいるからだろう。彼は「わかりました」と言うと、あっさりとそばを離れていく。
「私は何をすれば?」
「お前はとりあえずそばにいろ。ただ、トリスタンは動かせるようにしておけ」
ジノの問いかけに、ルルーシュは即座にそう言い返す。
「万が一、福岡に誰かを派遣しなければならいとすれば、お前に頼むしかないから名」
トリスタンであればさほど時間がかからないだろう。問題があるとすれば日本政府の許可を取ることではないか。
もっとも、先ほどの脅しがきけば、それにはさほど時間がかからないだろう。桐原が手を回してくれるはずだ。
「ともかく、兄上に連絡だな」
そう言ってルルーシュは顔をしかめる。
「すぐに準備をさせます」
ジェレミアはそう言うと近くにいた兵士に視線で何かを命じた。次の瞬間、彼は列から離れ駆け出していく。
「ともかく、状況の把握と犯人についての情報収集を優先させろ。今は、それ以外に何もするな」
福岡の者達にも厳命しておけ、とルルーシュは告げた。
「Yes.Your Highness」
周囲から即座に言葉が返ってくる。
それに頷きながら、ルルーシュはさらに奥へと向かう。
やがて、彼らは建物の一番奥へとたどり着いた。
「シュナイゼル殿下がお待ちです」
中で待っていた兵士がそう声をかけてくる。
「ご苦労」
そう言うと、ルルーシュは示された椅子へと腰を下ろした。その背後にジェレミアとジノが守るように立っている。
『ルルーシュ』
シュナイゼルに連絡を、と告げる前にモニターに彼の姿が現れた。
「兄上。お手数をおかけして申し訳ありません」
ルルーシュは素直に頭を下げる。
『当然のことだよ。しかし、てっきり狙いは東京の大使館か駐屯地だとばかり思っていたのだがね』
「俺もです。ですから、ジェレミアを呼び戻したのですが……」
まさか、それが裏目に出るとは思わなかった。それは間違いなく自分のミスだ。
これはやはり、こちらの世界で気が緩んでいたからなのか。
『連絡があってから調べたがね……軍内どころか宰相府にも食い込んでいたよ』
だから、ルルーシュだけのせいではない。彼はこう告げる。
「……日本政府には72時間の猶予を与えました」
それには直せず返事をせずにルルーシュはそう言い返す。
『妥当なところだろうね。私の方からも圧力をかけておこう』
シュナイゼルがそう言って笑う。
「ついでに、父上をお願いしてもかまいませんか?」
ここで日本に宣戦布告などと言うことになったら厄介だ。
『……暴走しないように気を付けておこう』
同じ不安を抱いたのか。シュナイゼルは一瞬のためらいの後に頷いてみせる。
『それと、ギネヴィアが一個艦隊を率いて太平洋沖に待機している。何かあれば連絡しなさい』
彼はさらりととんでもないセリフを口にしてくれた。
「兄上?」
『何もする気はないよ。私もコーネリアもね。だが、多少の圧力は必要だろう?』
にこやかにシュナイゼルは言葉を返してくる。
「そうですね。でも、兄上達は俺を甘やかしすぎです」
言葉とともにルルーシュはため息をつく。
『当然だろう。大切な弟なのだから』
それすらもかわいいと、シュナイゼルは笑った。