僕の知らない 昨日・今日・明日 第三部

19


 彼らが福岡へと向かったのは、藤堂達と別れてすぐのことだった。内密にと言うことで、移動方法は特派のトレーラーである。
 そんな彼らが九州に入ったときだ。東京のブリタニア軍基地から連絡が入った。
「……ナイトメアフレームがでたってぇ?」
 嬉しそうなロイドの声が響いてくる。
「映像はないのぉ? 写真でもいいよぉ」
「落ち着け、プリン!」
 さらに続けられた彼の言葉をラクシャータが遮る。同時に、何かを殴りつけるような音が響いたのも錯覚ではないだろう。
「……相変わらずか」
 そのやりとりにルルーシュは微苦笑を浮かべる。だが、それはすぐにかき消えた。
「ロロ」
「わかっています。先行しているジェレミア卿に連絡を取ります」
 ルルーシュの呼びかけに、彼はすぐにそう言い返してくる。
「それと、残っているジノにも連絡を入れろ。目立つように駐屯地に移動しろとな」
 トリスタンであれば陽動には最適だ。
 それに、ジノの実力であれば、何があろうと対処できるだろう。
「日本政府への通達も忘れるな、と伝言させろ」
 面倒だが仕方がない。だが、やらないわけにはいかないだろう。そう呟いた時だ。
「別に、気にしないと思うけど?」
 スザクがこう言ってくる。
「そのために桐原のじいさん達がいるんだし」
「それでも、だ」
 彼らをあてにしすぎるのはまずい。政財界にも反ブリタニア派はいるのだ。そんな彼らに反発されてはいろいろとまずいことになるだろう。
 一手間かけることで物事が円滑に進むならその方がいいに決まっている。
「俺はお前たちはもちろん、神楽耶様の足を引っ張るようなことだけはしたくない」
 それでは自分がここにいる意味がない、と続けた。
「……そこまで気にしなくてもいいのに」
「いい加減にしなさい!」
 言葉とともにカレンが遠慮なくスザクを張り飛ばす。
「見事だな、カレン。ついでに『ありがとう』と言っておこう」
 にこやかな表情でルルーシュはそう口にした。
「そう言っていただけて幸いですわ」
 カレンはしとやかな口調でこう言ってくる。
「それで、あたし達は何をすればいいの?」
 だが、彼女はすぐにいつもの口調に戻ってこう問いかけてきた。
「当面は、ここの警護だな。俺たちの存在に気づけば、連中は間違いなくこちらに向かってくる。そいつらは好きに叩いていいぞ」
「了解。馬鹿と害虫は駆除しないとね」
 これも駆除したいところだけど、と呟きながらカレンはスザクをにらみつけた。
「あきらめろ。スザクの場合、馬鹿なのではなく空気が読めないだけだ」
 頭はいいが自分の興味がある事以外見えない人間よりはマシだろう。ルルーシュはロイドへと視線を向けながら告げる。そこにはすでにランスロットの実践データーをどうやって取るかを考えているロイドの姿があった。
「頭いいんだよね? ロイドさんって」
 スザクが頬を抑えながら問いかけてくる。
「確かにいいぞ。常識はないが」
「そうだねぇ。プリンの頭にあるのは、それこそナイトメアフレームとプリンのことだけだからねぇ」
 シュナイゼルですら予算という切り札がなければ操縦できないのだ。ラクシャータもそう言って頷く。
「まぁ、使えないとわかれば切り捨てるだけだが」
 ルルーシュがそう言ったときだ。
「ルルーシュさまぁ! それはやめてくださぁい!」
 他の誰に何を言われてもいいが、ルルーシュに言われるとショックが大きい。そう言いながら、ロイドがすがりついてくる。
 さて、どうするか。
 あれこれ言ってもこの鬱陶しい男が耳を貸すとは思えない。かといって、自分には実力行使は難しいだろう。そんなことを考えていたときだ。
「兄さんに余計な負担をかけないでください!」
 偉いぞ、ロロ。心の中でそう呟く。
「報告は終わったのか?」
 だが、それについてほめるのは二人きりになってからしよう。そう判断をして、こう問いかける。
「はい! 二人とも、すぐに行動するそうです」
 ルルーシュが満足そうな笑みを浮かべれば、ロロは嬉しそうに言葉を口にしてきた。
「それと……」
「それと?」
「嚮主様が動いておられるそうです」
 C.C.と一緒に出て行ったらしい。この言葉を耳にして、ルルーシュは思わず頭を抱えたくなった。
「V.V.はこちらの邪魔はしないだろうが……誰かを捕獲に行かせるか、魔女の」
 もっとも、おとなしく掴まってくれるようなかわいい性格はしていないだろう。それでも、邪魔をされるよりはマシではないか。
 何よりも、あれがそう簡単に掴まってくれるはずがない。そして、捕まえられる人材は、今、自分にとっても必要な者達なのだ。C.C.のために割く余裕はない。
「連絡がつくようならば、あの方には『気を付けて』と言付けを。魔女は放っておいていい」
 殺したって死なない、と言う言葉が真実だと知っているのは自分とロロだけだろう。
「ともかく、お前はすぐに動けるようにしておいてくれ」
「はい、兄さん」
 すぐに彼はこう言い返してきた。
「スザク達も一応、パイロットスーツに着替えておいてくれ」
 いつ、彼らの力が必要になるかわからない。言外にそう続けた。
「もちろん、問題ないよ。むしろ、今すぐやる」
 ついでに、暴れてきてもいいかなぁ。スザクはそう言って笑う。
「……あんたはさっきまでの話を聞いていなかったの?」
 それとも、あっさりと頭の中を通りすぐていったのか。カレンはそう口にしながら指を鳴らしている。
「それやると、指が太くなるってよ」
 わずかに頬を引きつらせながらスザクが言葉を口にした。
「あんたが毎回馬鹿なセリフを言うから悪いんでしょうが!」
 言葉とともにカレンはスザクのつま先を思い切り踏みつける。
「……ひどいなぁ」
 ため息とともに彼はそう言い返す。
「でも、確かに僕が悪い……かな?」
 この言葉に微妙な違和感を感じたのは自分だけだろうか。ルルーシュはそう思いながらかすかに目をすがめる。
「遊びじゃないんだよな、今回のことは」
 それに気づいているのかいないのか。スザクはさらに言葉を重ねる。
「ごめん、ルルーシュ」
「わかってくれればそれでいい」
 だが、その違和感の正体を探っている時間は、残念ながらない。何よりも、自分よりもつきあいが長いカレンが気づいていないのだ。錯覚なのではないか、と自分に言い聞かせる。
「ともかく、早々に今回の事態を収拾しないといけない。そのためにも、俺の指示には従ってくれ」
 いいな、と念を押す。
「わかっている。それだけは絶対だよね」
 スザクも素直にこれは受け入れてくれた。
「そうね。味方同士でぶつかるなんてことになったら大変だわ」
 カレンもそう言って頷く。
「基本的に、ランスロットと紅蓮のことは騎士候以上は知っているはずだ。俺の直属扱いだと言うこともな。だから、あちらから攻撃を受けることはないと思う」
 だが、絶対はない。
「とりあえず、俺かジノの指示に従ってくれればそれでいい。基本的に、お前たちは自由に動いてもらうしな」
 軍に組み込むよりもその方が機体の性能を引き出すことも簡単だろう。
「……がんばる」
 スザクはそう言って笑った。
「無理はしなくていいぞ。突き詰めれば人殺しだからな」
 そんな彼にルルーシュは冷静な口調で告げる。
「でも、日本を守るために必要なことだし……何よりも、ルルーシュを守りたいから」
 だから覚悟している、とスザクは言う。
「軍人になれば日常になるんだろうし」
 その言葉に、自分が知っている《スザク》の面影をはっきりと見つけてしまった。その事実に、自分が喜んでいると言うことをルルーシュは自覚している。それが無性に悲しく感じられた。



13.07.03 up