23
「ルルーシュさまぁ。終わりましたよぉ」
ロイドがこう言いながら駆け寄ってくる。
「ご苦労」
とりあえず彼にはこの一言だけを返す。
「ロロ、スザク……もう少しがんばってくれ」
そして、再びナイトメアフレームに乗り込んだ二人に向かってそう告げた。
『わかっています、兄さん』
『大丈夫。まだ戦えるから』
二人は疲れを感じさせない声で言葉を返してくる。本当に自分と体力が違いすぎる、と改めて認識した。
『それよりも、ルルーシュの方が心配だよ』
自分達がいない間、さっき逃げ出した連中が押しかけて来る可能性はある。スザクはそう続ける。
「心配無用だ。私がいるからな」
C.C.がいきなり口を挟んできた。
「それよりも、お前の方は大丈夫なんだろうな?」
負けることはないだろうな、と続ける。その態度が実に偉そうだ。
『当たり前だろう』
スザクの声のトーンが微妙に変わる。そうすると、記憶の中の《スザク》にそっくりだ。
「なら、さっさと行ってこい。西から急襲するつもりらしいからな」
「それを知っているなら、何故、もっと早くに教えない!」
反射的にルルーシュはそう怒鳴る。
「焦ってもいい仕事はできまい」
いつもの口調で彼女は言い返して来た。
「安心しろ。途中にマリアンヌ考案のトラップを作ってきた」
さらりとさらにそう付け加える。
「マリアンヌ様の……」
「……すてきにえぐそう」
見たい、とロイドが騒ぎ出す。
だが、彼を注意するよりも早くセンサーが爆発音を感知した。
「ロロ! スザク!!」
『了解です、兄さん』
『すぐに殲滅してくるから』
ロロはともかく、スザクは微妙に怖いセリフを口にしながら出撃していく。
「……性格変わったか?」
スザク、と思わず口にしてしまう。もっとも、口の中だけで呟いたから他の者達には聞こえなかっただろう。
「あれがあいつの本性だろう?」
そう思っていたのに、魔女はしっかりと耳にしていたらしい。
「まぁ、あいつのことだ。早々に終わらせて戻ってくるだろうよ」
彼女はそう言うと笑う。
「あいつがしぶといのは、お前もよく知っているだろう?」
いろいろな意味で、とC.C.は目を細める。それはあちらでのことも含まれているのだろうか。ルルーシュはその視線を受け止めながら考える。
C.C.はどこにいてもC.C.だ。
そう認識しても、最近はこちらの彼女が知らないはずのことまで口にしているような気がするのだ。
「そうだな」
いったいそれがどうしてなのか。自分は知らなければいけないような気がする。だが、それは今ではないはずだ。
そう自分に言い聞かせると意識的にC.C.の存在をシャットアウトする。
「ジノから連絡は?」
「まだ、ありません」
ルルーシュの問いかけにセシルがこう言葉を返してきた。
「それはそれで引っかかるな」
眉根を寄せるとそう呟く。
「ジェレミア達には連絡が取れるか?」
ひょっとしたら、と思いつつセシルに次の指示を出す。
「……確認してみます」
それだけで何かを察したのだろう。セシルはすぐに行動を開始する。
「どうやら、通信系を妨害されているようです。すぐに対策を取ります」
「頼む」
予想が当たったのはあまり嬉しくないな。ルルーシュはそう思う。
「カレン。聞いたとおりだ。お前からはスザクに連絡が取れるか?」
いったいどこまで通信が遮断されているのか。それを確認するためにそう呼びかける。
『……わかったわ』
状況が理解できたのか。カレンの声に今ひとつ精彩がない。
それとも、と心の中で呟く。
カレンにすら自分の声が届きにくくなっているのだろうか。
「その可能性はあるな」
自分の考えが当たっているならば、かなりまずい状況ではないか。センサーすら当てにならないかもしれない。
「ロイド」
「何ですかぁ」
「ランスロットと紅蓮のセンサーはどこまで信頼できる?」
この状況で誤情報を受け取らないのか。そう続ける。
「大丈夫ですよぉ。どんな状況でもエナジー・フィラーがある限り使えます」
ロイドは胸を張ってそう言い返してきた。
「そうか」
ならば彼らは無事だろう。それだけは安心できる。
「問題はこちらか」
無事に戻ることができればその点を改良させなければいけないだろう。
「後はスザク達に任せるしかないか」
不本意だが、と続ける。
「大丈夫だろう」
C.C.がそう言って笑う。
「守るべきものを持った人間は強い」
先ほどのスザクの動きを見ていれば、彼女の言葉は正しいのだろう。
「だといいが」
どうしても不安をぬぐえないのはどうしてか。自分でもわからない。
「あいつらは、お前の指示が的確だから……と考えているようだがな」
だが、あれは間違いなくスザクの才能だ。
それはルルーシュにもわかっている。
問題は、何故、それが今突然開花したか、だ。
「回線、復帰しました」
その思考を断ち切るかのようにセシルが声をかけてくる。
「外の様子を出してくれ」
「了解しました」
同時に、モニターに直接外の光景が映し出された。戦局を見るにはデーターの方がいいが、今の状況ならばこちらの方がいい。
もっとも、そう言うには少々衝撃が強い光景が繰り広げられていたが。
「……すごいな」
さすがのC.C.もこう言うしかないらしい。
そういえば、武術の達人の動きは舞を見ているようだと聞いたことがある。マリアンヌの動きはいつもそうだった。そして、記憶の中の《スザク》もだ。
すっと近づいたかと思えば一撃で相手を撃破する。
その一連の動きが流れるように続いているのだ。
「……スザク……」
本当に、お前は誰なんだ? とルルーシュは心の中で付け加える。
その間にもスザクは敵の機体を破壊していく。
「ヴァインベルグ卿から通信が入っています」
「回せ」
セシルの言葉にルルーシュはすぐに言葉を返す。
『ルルーシュさま、ご無事でしたか』
ほっとしたような声が耳に届いた。
「心配をかけたか?」
『私よりもジェレミア卿が』
彼ならばそうだろう。だが、やるべきことが残っているから動けないだけだ。
「そうか。これが終わったら連絡を入れる。それよりも、敵機は後何機、残っている?」
まずは、と問いかける。
『いません……どうやら、自分の出番はないようです』
いつの間に強くなったんだ、と続けているところから判断して、ジノもスザクの動きに驚いているようだ。
「そうか」
一通り片付いたら本人に確認しなければいけない。ルルーシュはそう決意していた。