24
実際にスザクとゆっくり話しができるようになったのは、それから一週間も経ってのことだった。
「……あれ? ロロは」
部屋に入った瞬間、彼はこう問いかけてくる。
「ジェレミアのところだ。今日は帰ってこられないだろうな」
ルルーシュはそう言葉を返す。
「ひとりで危なくない?」
「あれがいるからな」
スザクの問いかけに、ため息とともにルルーシュは視線を移動した。
そこにはご機嫌な様子でピザを口に運んでいるC.C.の姿がある。
「……いつ来たの?」
かすかに眉根を寄せるとスザクはそう問いかけてきた。
「戦闘中にな。トレーラーを襲ってきた連中を片付けてくれた」
おかげで毎日食事作りに追われている。ルルーシュはわざとらしいため息とともにそう告げる。
「当然だろう。それだけの働きを私はしたからな」
それに、と彼女は続けた。
「別段、お前の懐が痛んでいるわけではない。何が問題なのだ?」
「事態の収拾に関われないことだ」
報告だけは受けているし、指示も出してはいる。だが、それではどうしても後手に回ってしまうのだ。
「別に行ってもいいぞ?」
「それで『腹が減った』と言ってさんざん邪魔してくれるわけだ」
しかも、だ。C.C.自身がシャルルやマリアンヌの友人というポジションだから、ジェレミア達では文句が言えない。結果として、自分が動く羽目になる。
「全く……V.V.様に言って早々に回収させるべきなんだろうな、お前を」
家にいるだけならばV.V.の方がいい。少なくとも、彼はここまで大量の料理を消費したりしないのだ。
何よりも、彼はこんな風に嫌みを言ってこない。
「文句があるならそいつに言え」
C.C.が苦笑とともにスザクを指さす。
「何で僕?」
いきなり矛先を向けられて、スザクが焦ったように声を上げた。
「そうだ。そいつに話を聞きたかったからな」
それなのに、今まで姿を見せなかった。だからここに転がり込んでいたのだ。C.C.はそう続ける。
「……それは……こっちにもいろいろとあったから……」
スザクはそう言いながら視線を彷徨わせ始めた。
「怒られたな」
ぼそっとC.C.が呟く。
「まぁ、そうなんだけどね……でも、しなきゃないことをしただけなんだけど」
神楽耶も味方をしてくれたのに、とスザクはため息をつく。
「……俺の所為でもあるな」
スザクをランスロットに乗せたから、とルルーシュは口にする。そんな選択をしたから、彼が戦場に出ることになったのだ。
「何言っているんだよ、ルルーシュ。それは関係ないから」
怒られていたのは別の理由だ、とスザクは告げる。
「……スザク?」
「藤堂さんに言われていたんだよ。適当なところで日本軍を合流させるから合図を送るように、って」
戦いに夢中になってそれを忘れてたんだよね、と彼は苦笑を浮かべた。
「交渉ごとで日本が有利になるようにか」
C.C.が笑いながらスザクに問いかけている。
「父さん達はそのつもりだったらしいよ」
もっとも、とスザクは続けた。
「その前段階でつまずいていたようだけどね。主戦力がたどり着けなかったというのに、僕が怒られるのは理不尽だと思わない?」
それなのに軍人と来たら、と彼は堰を切ったように言葉を吐き出す。
「僕はルルーシュを守りたかっただけなんだし」
それ以外の理由なんてない。彼はそう続けた。その言葉を耳にした瞬間、ルルーシュは自分の頬が赤くなったのを感じる。
「よかったな、ルルーシュ。愛されているようだぞ」
「黙れ、魔女!」
反射的にこう叫ぶ。
「それよりもスザク」
話題を変えようとルルーシュはスザクへと視線を向ける。
「どこであんな動きを身につけたんだ?」
あの後、ロロとジェレミアに確かめた。少なくともあの事件の直前の訓練ではあんな動きはしていなかったらしい。
つまり、その訓練からあのときまでのわずかな間に、彼はあの動きを身につけたと言うことになる。
はっきり言って、普通の方法ではそれは不可能だ。
可能性があるとすれば、この魔女がかかわった場合だろう。もっと正確に言えば《ギアス》を与えたときではないか。
「……どこって……強いて上げるなら、夢?」
しかし、スザクの返事は予想の斜め上を行っていた。
「夢、だと?」
「そう、夢。ランスロットに乗って、次から次と敵を倒していく……でも、微妙に形が違っていた」
だから、夢だと思っていた。スザクはそう続ける。
「でも、ルルーシュもいたよ、その夢に」
ついでにC.C.も、と彼はさらに言葉を重ねた。それを耳にした瞬間、本当にそれは《夢》なのか、とルルーシュは思う。
「白くて、宝石が一杯ついている服を着ていた。でも、あれって微妙に趣味が悪いような……」
「……いったいどんな服なんだ?」
白いと言うことはゼロの時の衣装でもアッシュフォード学園の制服でもないだろう。と言うことは、悪逆皇帝の時の衣装だろうか。
それならば、ランスロットの形が違うというセリフも納得できる。
「目玉模様になっているのかな、あれ」
やはり皇帝服か。
趣味が悪いと言われると、微妙にショックなのはどうしてだろう。
それよりも、だ。何故、あのときのことを《今》、ここにいるスザクが何故夢見たのだろうか。そちらの方が気にかかる。
「……しかし、夢を見たぐらいで、あれだけ動けるものか?」
意味がわからない、とルルーシュは呟いてみた。
「何だろう……こつがつかめたって感じ?」
実際に動いていたような感じだったし、とスザクは言い返して来る。
「シミュレーターみたいなものだったと」
つまりそういうことなのだろう。
「……まぁ、そのおかげでさっさと解決できたんだ。いいことにしておけ」
C.C.がそう口を挟んでくる。何か思惑があるのだろうが、その理由がわからない。
「それは否定しないが……カレン達はそれで納得したのか?」
「してくれたなら、もっと早く顔を出していたよ」
秘密の特訓をしていたのではないかとか、さんざん言われた。スザクは不満そうにそう告げる。
「仕方がないから、一昨日、ダンボールで適当にコクピットもどきを作ってこれで練習したって言ったよ」
適当なのを、と彼はため息をつく。
「それで納得されたのはどう判断すればいい?」
そこまでバカだと思われているわけ? と彼は続ける。
「と言うより、それで安心したいんだろう」
身内が人外レベルのパイロットだったのは努力の結果だと、とルルーシュは彼の肩に手を置く。
「俺としても信じがたいが……ないことではないだろうからな。実際、お前に助けられたし」
だから、スザクの話が嘘ではないだろうと思う。
「……そう言ってくれて安心したよ……」
苦笑とともにスザクはそう言ってくる。
「君にまで疑われたらショックで落ち込みそうだった」
そのまま、彼はルルーシュに抱きついてきた。
「おい、スザク!」
「ごめん。安心したら、力が抜けちゃった」
その気持ちがわかる。しかし、自分に彼の体重をさせられるかというとちょっと難しいという結論が導き出されてしまう。
その結果、二人とも床にへたり込むことになった。
「全く……本当にお前は……」
C.C.が肩をふるわせている。それに文句を言う気にもなれない。
「まずは落ち着け、スザク」
それよりも彼を落ち着かせようと口を開く。
「……好きだよ、ルルーシュ」
不意にスザクがこう言ってきた。
「俺も好きだぞ」
今更だろう、と笑い返す。
「本当に好きだからね」
「あぁ」
言葉を返しながら彼の背中をそっとなでる。それにしても、ずいぶんと参っているな、と心の中で呟いた。
だから、だろうか。
「お嫁にもらってもいい?」
「あぁ……?」
彼の言葉に微妙な反応を返してしまったのは。
「やった!」
「ほう。嫁に行くのか。マリアンヌに教えてやらんとな」
そして、それに二人の表情が妙に輝く。
「……二人とも、俺をはめたな?」
いったい、いつから共謀していたんだ、こいつらは。そんなことを考えながら、ルルーシュは二人をにらみつけた。
もっとも、後の祭りだろうが。