僕らの逃避行
07
あと少しで馬場に着く。そのタイミングで襲撃者に見つかってしまった。
「ルルーシュ、走れる?」
無理だろうな、と思いながら問いかける。
「……多分」
それに彼女はこう言い返してきた。だが、その息はかなり上がっている。
「無理しない方がいいな。負ぶさってくれ」
スザクはそう声をかけた。
「でも……」
「俺はまだ体力が残っているから大丈夫。捕まる方がまずいって」
そうなれば、ナナリー達も危ない。そう続ける。
「そうだな……ナナリー達を守らないと」
スザクの言葉にルルーシュも納得をしたように頷く。
「と言うことで、ほら」
言葉とともに彼はしゃがむ。先ほどナナリーにもした姿勢だ。
「すまない」
言葉とともに彼女の体重が背中にかかる。
「……軽っ!」
その軽さにスザクは思わず声を上げてしまった。
「ナナリーとあんま、変わらないんじゃね?」
「そんなに軽くない……ぞ」
「そうかな。ナナリーは結構筋肉質だったし」
さすがに寝込んでいたせいか多少落ちていたようだが、と心の中だけで付け加えた。
「でも、今はその方がありがたいけど」
言葉とともにスザクは立ち上がる。
「走るから、しっかりと捕まっててくれよ」
自分が多少苦しくてもいい。むしろその方が安心できるから、と注意をする。
「……わかった」
納得できないようにルルーシュはそう言い返してきた。それは彼女が優しいからだろう。
「じゃ、行くよ」
言葉とともにスザクは駆け出す。体が揺れるのが嫌なのか。反射的にルルーシュのルルーシュの腕に力がこもる。だが、そうしてくれた方が走りやすいからそのままにさせておいた。
後十数メートルで厩舎に駆け込める。
そこまで来たとき、追っ手の気配を感じた。
「鞍や手綱をつけている時間があるかな」
スザクはそう呟く。いくら乗馬になれてきたとはいえ、まだ、裸馬に乗って逃げるのは難しい。せめて鞍と手綱が欲しいところだ。
「……どうだろう」
ルルーシュがこう言い返してくる。
「一頭だけならば間に合うかもしれないが……」
二頭は厳しいだろう、と彼女は言外に告げてきた。
「二人乗りか。馬に負担をかけるよな?」
「大丈夫だろう。目的地まではそう遠くない」
スザクの不安をルルーシュはそう言って一蹴してくれる。
「なら、ルルーシュの馬の方がいいのかな?」
「そうだな。なら、手綱は私がつける。スザクは鞍を頼む」
「了解」
ついでに弓矢でもないかな、とスザクは心の中で呟く。それでなければ、刀の代わりになるようなものだ。
何の役にも立たないかもしれないが、少なくとも自分が安心できる。
そう考えながら厩舎の中に飛び込んだ。
「ルルーシュさま」
しかし、そこには完全に準備が整った馬が二頭と責任者の老人がいた。
「……どうして……」
スザクの背から下りながらルルーシュが彼に問いかける。
「このようなときにお役に立てずどうしますか」
即座にこう言い返された。
「だが……」
「ご心配召されるな。隠れる場所ならばいくらでもあります」
その程度の用意はしてある。彼はそう言って笑った。
「それよりも、お早くご避難を」
彼の言葉にルルーシュは困ったような表情を作る。どうやら彼女はまだ納得していないらしい。
「そうだよ、ルルーシュ。俺たちが速く逃げれば、それだけ彼も隠れる時間がとれる」
スザクはそんな彼女にこう声をかけた。
「……そう、かもしれないが……」
「大丈夫だよ。いざとなれば馬がたくさんいるじゃん」
自分達よりも格段に上手だし、とわざと明るく言う。
「そうですよ、姫様。お任せください」
彼はそう言って胸を張った。
「これでもマリアンヌ様の従者をしていたこともありますからな」
老人のこの言葉にルルーシュはため息をつく。
「後を頼む」
それでも何かを割り切ったのだろう。彼女は顔を上げるとそう言った。
「Yes.Your Highness」
老人が即座にこう言い返す。それにスザクは『あれ』と思った。ブリタニアに疎い自分でもその言葉は聞いたことがある。
同時に、どうして今まで疑わなかったのだろう、と思わずにいられない。
「まぁ、それも後でだな」
落ち着いた頃に確認すればいいだろう。
それよりも、ルルーシュを安全な場所に連れて行く方が先決だ。
「ルルーシュが何者でも、女の子であることには間違いないんだし」
そう呟くと、いつも自分が使っている馬へと歩み寄る。
「今日も頼むな」
そう言うと馬の首筋をなでた。
「スザク」
ルルーシュが呼びかけてくる。
「今、行く」
言葉とともに馬の手綱を握りしめた。そして、彼女の方へと歩いて行く。
「この先は私が先導するから」
「うん。頼む」
自分は道がわからないから、とスザクは苦笑で付け加えた。
「それだけは任せておけ」
彼の言葉にルルーシュはふわりと微笑む。そのまま鐙に足をかけると鞍へとまたがる。スザクもまた軽々と馬の背へと移動した。
「ご無事を」
老人の言葉を背に、二人を乗せた馬が歩き出す。厩舎を抜けたところで並足から早足、そして駆け足へ速度を上げていった。
一瞬、追っ手が驚いたような表情を作ったのが見える。
「後は……あちらが車を持ち出してくる前に目的地に駆け込めるかどうかだな」
こうなればスリルを楽しむしかない。
こういうことは開き直った方が価値だよな。そう心の中で呟くと、意識をルルーシュの背中へと戻した。
14.01.13 up