僕らの逃避行
06
ここでの生活も何とか慣れてきた。もっとも、マリアンヌとの鍛錬にはまだ体が付いていかないことがあるが。
そんなこんなで、マリアンヌが出かけた後はルルーシュやたまにナナリーが加わって日本の手遊びをすることが多かった。
今日も、ナナリーの体調がいいというので三人でおりがみをしていた。
スザクは唐突にその動きを止める。
「……スザク?」
「どうかしたのですか、スザクさん」
そんな彼の動きの理由がわからないのだろう。二人が即座に問いかけてくる。
「ごめん。ちょっと外から妙な気配がしたから」
そう言いながらも、スザクは改めて周囲を探る。なにやら押し問答が繰り広げられているような気がするのは錯覚だろうか。
スザクがそう考えて眉根を寄せたときだ。
「失礼いたします」
言葉とともに咲世子が姿を見せた。
「何かありましたか?」
ルルーシュが問いかけの言葉を口にする。
「暴漢が侵入してきました。現在、執事様をはじめとする方々が応対中ですが、どうやら、お帰りいただけないようです」
「そうか」
淡々とした会話にスザクの方がついて行けない。
「なら、私達は早々に避難した方が良さそうですね」
不本意だが、とルルーシュは続ける。そうすれば、皆も避難できるだろう、と付け加えた。
「咲世子さんはナナリーをお願いします。それと母さんに連絡を」
ルルーシュはためらわずに指示を出す。
「お姉様」
「先に、兄さんにところに行っておいで。そこで合流しよう」
ナナリーの呼びかけに微笑み返すと彼女はさらに言葉を重ねる。
「スザク、巻き込んですまないが……」
「気にしなくていいよ」
それよりも、と続けた。
「こんなときに聞くことじゃないかもしれないけど、ルルーシュとナナリーって、実はものすごく偉かったりする?」
誰かに狙われるくらいに、と問いかけてみる。
「……まさかと思うが、何も知らずにここに?」
「父さんの知り合いの所だ、ぐらいしか聞かされてないよ、俺は」
ただの貴族でないことはすぐにわかったが、高位貴族と皇族の差はわからないから、と続けた。
「……母さんも、言っていなかったな、そういえば」
きっと、藤堂は知っていたはずだ。
「気づくかどうかもテストだったとか?」
思わずこう呟いてしまう。
「それはあるかもしれないな」
ルルーシュはそう言いながら立ち上がる。
「後で母さんに確認してみよう」
「そうだな。今は避難するのが先決か」
ルルーシュの言葉にスザクも頷く。
「ナナリーの準備も終わったようだし、窓から出る?」
そして、今度はこう問いかけた。
「ここは二階だが?」
「難しくないぞ。多分、ルルーシュを背負ってでも大丈夫かな?」
でも、スカートをはいたままだと難しいかも、と続ける。
「ご心配なく。ルルーシュさまの御衣装も用意しております。すぐにお着替えいただけます」
咲世子がいつもの口調でそう告げた。
「その間に、スザク様はナナリー様を庭へお連れしてくださいませ。ルルーシュさまはお着替えが済み次第、私がお連れいたさいます」
それはきっと、ナナリーの方が軽いからだ。それはわかっていても、反論はできない。
「かまわないか?」
何よりも安全にここを抜け出すことの方が重要だから、とスザクは自分に言い聞かせる。
「お願いします」
ナナリーはこう言うと立ち上がった。それを見て、スザクはすぐに腰を落とす。
「しっかり捕まってくれていいから」
その方が自分も安心できる。スザクはそう言う。
「わかりました」
ナナリーは頷くとしっかりと腕に力を込める。それでも、スザクが苦しくないようにと気遣ってくれているのがわかった。
「じゃ、行くよ」
声をかけるとスザクは立ち上がる。そのままベランダに行こうとして方向を変えた。
「スザクさん?」
「ベランダは見張られてる可能性があるだろう? ルルーシュたちがどこから逃げ出すかわからないけど、俺たちも使わない方がいいと思う」
外から見ていたがこちらの窓からでも十分逃げ出せる。スザクはそう続けた。
「そうなのですか」
「あぁ」
実はこっそりと登ってみたというのは内緒だ。
「スザクさんに、お任せ、します」
これでいいのか、と言うようにナナリーが首をかしげた気配が伝わってくる。
「任せておけって」
言葉とともにスザクは行動を開始した。
どうやら、ルルーシュたちも発見されることなく脱出してきたらしい。庭の片隅で合流することができた。
「私とスザクは馬で逃げる。おそらく連中は私達をおってくるだろう」
ルルーシュが冷静な口調でそう言ってくる。
「大丈夫なのですか?」
即座にナナリーが反論を口にした。
「それに、スザクさんにご迷惑を……」
「女性を守るのは男として当然のことだから、気にしなくていい」
ナナリーの言葉をスザクは遮る。
「そういうことなら、早々に移動した方がいいな。でも、ルルーシュの体力……」
「私だって、必要なら最後まで走れる」
そうは言っても、あそこまで歩いて行くだけで結構息が上がっていたではないか。そう突っ込みたくなるのを必死にこらえる。
「途中で俺が背負えばいいか」
本当はお姫様だっこの方がかっこいいんだけど、腕が使えなくなるのはまずいだろう。代わりにそう言った。
「戦えなくなるからな」
万が一のときに、と続ける。
「大丈夫なのか?」
「一応、こういうときの対処法としてたたき込まれている」
神楽耶を守って逃げるのが子供の頃の自分の役目だったから、と笑った。
「今も子供だろう?」
「否定はしないけどな」
手を差し出しながらスザクはそう口にする。
「だが、今はそれがありがたい」
ルルーシュはそう言って笑う。
そして、彼女はスザクの手に自分のそれを重ねてきた。
「では、先に行く。咲世子さん、後をお願いします」
「ナナリー様はお任せください。ルルーシュさまとスザク様もお気をつけて」
その言葉に二人は頷いて見せる。そして、そのまま、移動を開始した。
13.11.29 up