僕らの逃避行
09
その後はあちらこちらに案内してもらったり、ルルーシュが仲良くしていたきょうだい達を紹介してもらったりと結構楽しく過ごした。
しかし、そんな時間も終わりを迎える。
「……もうじき帰るんだよな、日本に」
カレンダーを見つめてこう呟く。
「何か、実感わかない」
こちらに来るときは嫌々だったのに、今は帰るのがいやだと思える。
それはどうしてなのか。
「ルルーシュたちに会えなくなるからなぁ」
理由があるとすればそれだけだ。
「皇女様だから、仕方ないんだろうけど、な」
他国の人間がほいほいと会えるわけがない。それはわかっている。しかし、それが不満に思えてならないのだ。
それはきっと、ここが居心地よかったからだろう。
いや。居心地がよかったのはルルーシュの隣だろうか。
彼女と一緒にいると何でも出来るような気がする。正確には、立案がルルーシュで実行が自分だが。それで失敗したことはない。
はっきり言って、それが快感だった。
しかも、だ。
自分達があれこれやらかしても誰も頭ごなしに怒らない。ちゃんとその理由を聞いてくれる。
そして、うまく表現できない自分の代わりにルルーシュが説明してくれるのだが、その説明がきちんとスザクの心情を代弁してくれている。
「ルルーシュがそばにいてくれれば、かんしゃくなんて起こさないのにな、俺だって」
日本だと、最初から自分が悪いという前提であれこれ進められることが多いし、と心の中で付け加えた。
「でも、帰らないわけにはいかないんだよな」
不本意だが、とそう続ける。
「手紙ぐらいじゃ満足できないし……メールなら」
あれならばタイムラグは手紙ほど発生しない。字の汚さも気にしなくてすむ。
でも、出来れば声も聞きたい。
そんなことを考えながらスザクはベッドの上でごろごろと転がっている。
「ルルーシュも同じ気持ちでいてくれるといいんだけどな」
小さな声でそう呟く。
そうならば、何とかなるかもしれない。そう考える自分がいるからだ。
「ルルーシュが皇女様でなければ、もっと簡単だったのかな?」
自由に会えるという点では、と続ける。
「本当、どうしよう」
言葉とともにそう呟いたときだ。
「素直にルルーシュさまに相談されればよろしいかと」
頭の上からいきなり声が降ってくる。
「咲世子さん……」
いったいいつから見られていたのだろうか。ひょっとして最初から、と考えただけで恥ずかしさで死ねそうになった。
「いったい、何の用事ですか?」
とりあえず、と必死に表情を取り繕いながら問いかける。
「マリアンヌ様がお呼びです」
すぐにお支度を、と彼女は続けた。
「マリアンヌさんが?」
それならばすぐに行かないとまずい。そう判断して体を起こす。
「……服は……シャツと綿パンでいいかな?」
「ご用意いたします」
咲世子が当然のように動く。
「自分でやります」
慌ててベッドから下りたときにはもう、準備が終わっていた。
「では、外でお待ちしております」
言葉とともに咲世子は部屋を出て行く。
「……とりあえず、着替えるか」
咲世子さんに勝てる気がしない。そう思いつつスザクは今着ているシャツに手をかけた。
「……あの……」
いきなり何を、とスザクは聞き返す。
「だから『帰る前に試合をしてね』と言ったの」
ふふふ、と笑いを漏らしながらマリアンヌは繰り返した。
「試合って……」
誰と、と呟く。
「軍の若手ね。私があなたを教えていると聞いた連中がぜひとも一戦させて欲しいと言いだしたの。面倒だから、トーナメント形式にしましょう」
スザクの理解の速度を超える速さでマリアンヌが言葉を口にしていく。
「……軍の若手? みんな、俺より年上だよな?」
その連中がどうして自分と、とぶつぶつと呟いてしまう。
「母さん。少し落ち着いてください。スザクが理解できていません」
ルルーシュがマリアンヌに注意をしてくれる。
「あら、ごめんなさい」
言葉とともにマリアンヌがぺろりと舌を出した。
「簡単に言えば、母さんの指導を受けたお前をうらやんだバカが実力を確認させろと騒いでいるらしい」
それはあまりに意訳しすぎではないだろうか。
「……そう言うことなら、俺はかまわないけど?」
自分の実力がどこまで通用するか、それを確認したいし。そう続ける。
「そう言ってくれると嬉しいわね」
マリアンヌがそう言って微笑む。
「大丈夫よ。今のスザク君なら十分決勝までいけるわ」
彼女はさらに言葉を重ねた。
「がんばった子にはご褒美があるからね」
意味ありげな表情で微笑むマリアンヌが微妙に怖い。
「……そうですか」
頬を引きつらせながらこう言い返すのが精一杯だった。
14.02.14 up