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僕らの逃避行

11


 懐かしいことを思い出した。
 心の中でそう呟きながら次第に近づいてくるオートバイをにらみつける。
「間違いなく偵察だよな。GPSがついていないといいんだけど」
 ついていれば敵に居場所を知らせることになるから、と呟く。
「まぁ、いざとなれば壊せばいいんだけど」
 乗っている人間は適当に縛り上げて放り出しておけばいい。
「でも、顔を見られるとまずいのか?」
 自分が誰か特定されるだろうか。もっとも、それも今更なような気もする。
「最優先すべきことは、乗り物を確保すること。僕の正体がばれないようにするのは優先順位は低いよね」
 いざとなればゲンブ達がうまくごまかすだろう。自分がルルーシュの守護者だというのは彼らもよく知っているのだから、と思い直す。
「じゃ、そういうことで」
 やりますか、と呟くとスザクは行動を開始する。
 見つけた獲物は、こちらに向かってくるオートバイ一台だ。
「……出来ればサイドカー付きがよかったんだけど、文句は言えないか」
 そう呟くとともに先ほどまで準備しておいた罠を確認する。後はあちらがうまく引っかかってくれることを祈るだけだ。
 だが、確実に引っかかってくれるだろう。そのための仕込みもしてあるし、と付け加える。
 それでも100%大丈夫だと言い切れないのが辛い。
「あ、来た!」
 などと言っているうちに仕込みが聞いたのだろう。こちらに向かってやってくる。
 まぁ、そうでないとわざわざ上着を木に引っかけておいた意味がないんだけど、とスザクは笑う。
 そうしている間にも、バイクはこちらに近づいてくる。
 間違いなくEUの偵察バイクだ。
 救援でないことも十二分に確認できる。
 これで、ゼロに近かった罪悪感を完全に消えた。
「まぁ、よっぽど運が悪くなければ死なないとは思うけどね」
 罠と言っても、ものすごく単純だ。地面をひたすら柔らかくした上に普通の土とか落ち葉をまいて境目をわからなくしただけである。
 それでも何の対策もなく突っ込めばタイヤを取られてバランスを崩すだろう。
 そのまま吹き飛んだ偵察兵を気絶させて、オートバイをもらっていけばいい。
 ある意味、一番リスクが少ない方法だ。その分、体力は使ったけどね、とスザクは心の中だけで呟く。
 道具があればもっとマシだったのかもしれない。だが、サバイバルの最中にそんな贅沢は言えないだろう。
「こういうのも楽しいし」
 楽しんではいけないのだろうが、と口の中だけで付け加える。
「今度、ルルーシュと一緒にキャンプに行こうかな。テントじゃなくてコテージなら、ルルーシュでも大丈夫だよね」
 そんなことを考えていたのは、一種の現実逃避なのかもしれない。
 それも無理はないだろう。
 目の前で横転しているものの中には確かにオートバイもある。だが、そのほかにもっと厄介なものも転がっているのだ。
「移動砲台だよな?」
 間違っても、あれはナイトメアフレームではないよな、とスザクはそう呟く。
 それとも、EUではあれが普通なのか。
「……見なかったことにしよう」
 それが一番いいのではないか。
 きっと、すでに前線から報告が上がっているに決まっている。
 だから自分が見なかったふりをしても問題はない。
 そう結論を出すと、さっさと目星をつけていたオートバイへと駆け寄った。そして、それに乗っていた人間をナイトメアフレームもどきの方へと蹴飛ばす。
 いくら何でも、味方を踏みつけてまで追いかけては来ないだろう。
 そう判断しての行動だ。
「エンジンは無事、と。ブレーキも大丈夫そうだな」
 タイヤも曲がってないし、これならば乗れるだろう。そのままエンジンを始動させる。
「よし、っと」
 ちゃんとエンジンもかかる。燃料もそれなりに残っているから、結構な距離を稼げるだろう。
「じゃ、そういうことで」
 こう言うと同時に、スザクはさっさとその場から逃げ出す。
 もちろん、直接ルルーシュの元へ向かったわけではない。
 オフロード仕様なのをいいことに思い切り遠回りをした。その途中で崖だの谷だのをそうはしたのは言うまでもないことだ。
「軍で訓練していてよかった」
 オフロードレースの経験があるとは言え、さすがに軍との追いかけっこは勝手が違う。しかし、幸か不幸か、スザクにはその経験もあった。
 ルルーシュの守護者に選ばれたとした藤堂が『今後必要になるだろう』と言って、あれこれと教えてくれたんだ。オートバイの運転もその一つである。
「と言っても、あまり余裕はないし……まずはここいらでGPSを使えないようにしておこうっと」
 これは回路を一つはかいすればいいだけだから、すぐに終わるだろう。
「それから、ルルーシュを拾って移動かな」
 出来れば50キロぐらいは距離を稼ぎたい。そうできれば、ユーロ側の支配権に入れるのではないか。
「……そのあたりはルルーシュに相談だね」
 GPSとついでに通信機、後は何かわからないが厄介そうな計器の線を切っておく。
 もし必要なものだったら、後でつなげばいいだろう。
 そう考えると、ふっと笑みを漏らす。
「僕の強運も捨てたものじゃないかな?」
 さて、と呟くと、スザクはまたオートバイを移動させ始めた。

 まだ眠っていてくれるといいけどと言う願いはかなえられなかった。
「どこに行っていたんだ、スザク」
 落ち葉上に座ったままルルーシュが問いかけてくる。
「乗り物の確保?」
 首をかしげながらかわいらしい口調を作ってスザクは言葉を返した。
「ちょうど、あちらさんがくれたから」
 さらにそう続ける。
「……勝手に、か?」
「ううん。転んでもらった。ナイトメアフレームもどきと一緒に」
「はぁ?」
 何なんだ、それは。彼女はそう呟く。
「とりあえず、詳しい話は移動してからにしよう? ここもいつ発見されるかわからないし」
 この言葉にはルルーシュも賛成だったらしい。素直に頷くと立ち上がった。同時に軽く汚れを落とした。
「その前に、一応確認させて」
 何を、と言われなくてもわかる。
「一応、GPSと通信機と、何かわからないけど後からつけられた機械は殺したよ」
 そう言っておく。
「自分で確認しないと安心できないだけ」
 言葉とともに彼女はゆっくりと歩み寄ってくる。その足取りは先ほどよりもしっかりとしている。
「ルルーシュならそうだよね」
 その事実に少しだけ安堵しながらもスザクは言葉を返した。
「当然だろう」
 ルルーシュはそう言って笑う。そのままざっとオートバイを確認した。
「大丈夫だね」
 そしてすぐにこう言ってくる。
「なら、後ろに乗って」
 さっさと移動しよう、と言外に告げるスザクにルルーシュは行動で答えを返してくれた。



14.03.10 up
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