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僕らの逃避行

12


 しかし、やはり最前線となると瓦礫が多い。と言っても、一帯を埋め尽くすほどではないが、それでも気を付けなければタイヤをパンクさせてしまうだろう。
「問題は、ユーロの騎士団がどこにいるか、だね」
「……私が記憶している配置図は古いからな。変わっている可能性はある」
 前線が移動しているようだ、とルルーシュは続ける。
「それならばそれで何とかなるかな?」
 どこかと合流できればそれでいいのではないか。スザクはそう呟く。
「もっとも、出来ればミカエル騎士団と合流したい」
 それにルルーシュはこう言い返してきた。
「どうして?」
 何か理由があるのか、と言外に問いかける。
「あそこの総帥は元ナイト・オブ・ツーだ。当然、私の顔も知っている」
「説明が楽なのね」
「あぁ。もっとも、この顔と瞳の色でだいたい話は通ると思うが……」
 その時はその時で厄介な事態が待っているだろう、と彼女は付け加える。
「大変だね、皇女様」
 からかうようにスザクはそう言った。
「お前な……」
 それにルルーシュは不満げな声音で言葉を返してくる。
「それでも私はお前がいるだけマシだがな」
「はぁ?」
「他国の、しかも異性の守護者だ。あちらが勝手に婚約扱いしてくれている」
 おかげで、自分の所にはその手の話題が回ってこない。ルルーシュはそう言った。
「それはよかった」
 スザクにしてみれば、それは間違いなく本音だ。
 出来れば、本当に婚約ぐらいはしたいけど、と心の中で呟く。
「母さんは乗り気だけどな、いろいろと」
「はぁ?」
 だが、その後に続けられた爆弾発言に、思わずバランスを崩してしまう。もっとも、それはすぐにリカバリ可能なものだったが。
「……スザク」
 だが、それをどう判断したのか。ルルーシュが恨めしげに彼の名を呼んだ。
「ルルーシュが驚かせるからだろう!」
 こういうときにマリアンヌの名前を出すな、とスザクは言い返す。
「あの人だけは、未だに勝てる気がしないんだから」
「……そうか……悪かった」
 しかし、それで納得するのか。でも、マリアンヌの性格を一番よく知っているのは娘である彼女だから、当然なのかもしれない。
「でも、ナイト・オブ・ラウンズってやめられたんだ」
 知らなかった、と話題をそらす。
「あいつの場合はな……元々、母君がユーロの方だそうだし、父君は陛下の命令で軍師としてこちらで過ごしていたそうだ」
 つまり、本国よりも知人の数が多かった、と言うことなのだろう。
「ついでに、こちらへのてこ入れの意味もあったとか?」
「その通りだ」
 あっさりとルルーシュが頷いて見せる。
「他のメンバーの実力が伸びたのと、新しい人材が見つかったのも許された理由だろうな」
 一人抜けても大丈夫な状況になったからこそ、ラウンズからユーロの四大騎士団の団長への転身が認められたのだ。彼女はそう言う。
「スザクもブリタニアにいたならラウンズに選ばれていたかもしれないな」
「お世辞でも嬉しいよ」
 最後に付け加えられた言葉に、スザクはこう言い返す。
「何を言っている。新しくラウンズに選ばれた人間と互角にやり合えるんだ。実力だろう」
 と言うことは、自分の知っている相手なのか。
 いったい誰だろう。
 そう考えて、真っ先に思い浮かぶのは、彼だ。
「ひょっとして、ジノ?」
 確認するように問いかける。
「あぁ。今のナイト・オブ・スリーだ」
 そうすれば、即座に肯定の言葉が返された。
「後はアーニャだな」
 さらに付け加えられたのは、予想外の名前だった。
「アーニャって……ナナリーが悲しむだろうに」
 彼女はナナリーの幼なじみで、マリアンヌが彼女の騎士にと考えていた少女だ。
「ナナリーよりも母さんがぶち切れていた」
 そのままシャルルのところに行って暴れてきたらしい。そう付け加える。
「結果は聞きたくないな」
 あの壮麗な宮殿は無事だったのだろうか。一度だけ見たことがあるシャルルのいる太陽宮を思い出しながら考える。
「母さんがさらに怖がられることになっていたな」
「やっぱり」
 半壊とはいかなくてもかなり破壊されたんだろう。それも生身のマリアンヌに、だ。
「皇帝陛下にけがは?」
「なかった」
 なるほど、と呟く。
「陛下に対する鬱憤を、全部建物に向けたのか、マリアンヌさん」
 愛されてるね、と微妙に棒読み口調で告げる。
「そういうことにしておいた方が無難だろうな」
 ルルーシュですら否定しない。
「それでも仲がいいんだろうな」
 さらに彼女はこう付け加えた。
「けんかするほど仲がいいって言うしね」
 それでも怒るときは怒るのだろうが、とスザクは心の中だけで呟く。そして、自分はその場に立ち会いたくないが、とも続けた。
「その光景を見せられる者達はたまらないだろうが」
 しかし、ルルーシュは平然とそんな感想を漏らす。間違いなくマリアンヌの娘だよな、とスザクは思う。
「ところでルルーシュ」
「なんだ?」
「いい知らせと悪い知らせ、どちらから聞きたい?」
 この問いかけにルルーシュは首をかしげたらしい。
「悪い知らせから、か?」
 だが、すぐにこう言い返された。
「ガス欠です。そろそろ、これは放置しないとだめだね」
 後はまた徒歩だな、と続ける。
「そうか」
 ルルーシュが言葉とともに深いため息をつく。どうやら徒歩地獄を思い出したらしい。本当に体力がないものな、と心の中だけで付け加えた。
「いい知らせは?」
「ペテルブルクまで後十五キロぐらい。うまく行けば、ぎりぎりかな?」
 そうでなかったとしても、乗り物が確保できるかユーロに連絡が取れるかもしれない。
 市街地ならば隠れる場所も多いだろう。
「風呂には入れればいいが」
 さすがは女の子。第一に気にするのはそこか、とスザクは感心する。
「着替えの確保もだね」
 だが、自分も同じ気持ちだから仕方がない。そう考えながら、目の前の穴を避けた。



14.03.17 up
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