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僕らの逃避行

13


 一キロほど手前で完全にガソリンが切れたオートバイを放置すると、二人は徒歩でペテルブルクへと入った。
 しかし、そこに人の気配はない。
「ついさっきまで誰かいたような感じだが……」
「よっぽど急いで避難したんだろうね」
 生活感が残っているこの光景は、とスザクは呟く。
「でも、建物が破壊されていないと言うことは……ここで戦闘があったわけじゃなさそうだね」
 おそらく前線が近づいてきたことで、万が一を考えて避難させたのだろう。
 いや、そうであればいい。
 一番嫌なパターンとしては、ここに敵を引きずり込むために民間人を避難させたというものだろうか。
 だとするならば、ここはすぐに戦場になる。
「乗り物、探そうか?」
 見たところ、それなりに使えそうな車やオートバイが放置されているし、とスザクは続けた。
「そうだな」
 ルルーシュはそう言い返してきながらも何かを考え込んでいる。
「あそこの電話ボックスは使えるかな?」
 やがて呟くようにこう告げた。
「使えるんじゃないかな? 盗聴されている可能性大だけど」
 おそらく根本でチェックされているだろう。もちろん、そのくらいのことはルルーシュだってわかっているはずだ。
「それでも迎えを頼むには十分だよな?」
「そうだね」
 迎えさえ頼んでしまえば、後は来てくれるまで逃げ回っていればいい。
「この街ならば、いくらでも隠れ場所があるし」
 ルルーシュの体力でもどうにかなるだろう。心の中でそう付け加える。
「ならばいい」
 ルルーシュはそう言って微笑む。
「お前がいてくれるから、多少無謀と言える策もとれる」
「それってほめ言葉だよね?」
「もちろんそうだが……それ以外に何かあるのか?」
 スザクの言葉に、ルルーシュは『意味がわからない』という表情を作って見せた。
「神楽耶がね。よく言うんだよ『体力バカ』って」
 どう聞いても悪口にしか思えない。だが、神楽耶は『ほめ言葉ですわ』と言うのだ。
「ちょっと疑心暗鬼になったとしてもおかしくないと思わない?」
「……まぁ、確かにな……」
 それはほめ言葉ではないだろう、とルルーシュも同意をしてくれる。
「ルルーシュはそんなことを言わないとわかっていても、ね」
 一度身についてしまったくせは抜けない。だから、気分を害したらごめん。そう付け加える。
「気にしなくていい」
 苦笑とともにルルーシュは言い返して来た。
「しかし、神楽耶様らしい表現だな。見習わないと」
「しなくていいから!」
 彼女の言葉に反射的にこう言い返す。
「とりあえず、連絡取るなら取ってみたら? その後のことはその結果で考えればいいよ」
 これ以上突っ込まれてはまずい。そう判断して、スザクは言葉を綴る。
「その間に、使えそうな乗り物を探すから」
「いや。一緒にいてくれ」
 ルルーシュは少し考え込んだ後、こう言い返してきた。
「ルルーシュ?」
 自分が聞いてもいいことなのか。そう思いながら聞き返す。
「迎えが来る来ないにかかわらず、お前にも理解してもらわないといけないからな」
 疑問があれば、その場で解消出来るだろう。その方が時間の節約になる。ルルーシュはそう主張した。
「でも、逃げるための足の確保も重要だよ?」
 スザクはそう反論してみる。
「どれを選択するかを考える上でも情報は共有しておくべきだろう」
 ルルーシュはあくまでもそう主張した。つまり彼女の基準ではそれが一番重要だと言うことだ。
「わかった」
 それならば彼女の判断に従おう。そう判断してスザクは口を開く。
「いざとなれば、また僕が君を背負って逃げればいいんだもんね」
 にっこりと微笑みながらそう付け加える。
「確かに、神楽耶様に体力バカと言われても仕方がないな」
 ため息とともにルルーシュがそう言った。
「ひどい!」
 わざとらしく顔をしかめて見せれば、彼女は小さな笑い声を漏らす。
「だから、反撃してやる!」
 言葉とともにスザクはルルーシュの体を横抱きに抱き上げた。
「スザク?」
「ただの反撃」
 そう言いながらさっさと歩き出す。
「とりあえず、電話ボックスを探そうか」
 まだ状況が飲み込めないルルーシュに向かってそう告げる。
「反撃でこれとは……私だけが楽しているようにしか思えないが?」
 ようやく自分が置かれた状況を認識できたのか。ルルーシュはため息とともに言葉を吐き出す。
「そう?」
 反撃だよ、とスザクは言い返した。
「じっくりと僕の体力を認識してもらうから」
 楽しみだね、と続ける。
「何をする気だ!」
「何って、このままこの街探索。電話ボックスを探さないといけないんだろう?」
 誰も見ていないんだからいいじゃないか。そう続けた。
「……そうだが……」
「それに、こっちの方が早いし」
 にこやかにスザクはこう付け加える。
「悪かったな!」
 意味がわかったのだろう。ルルーシュが頬を膨らませた。
「だから言っただろう。反撃って」
 でも、とスザクは笑みを浮かべる。
「ルルーシュも元気が出てきたね。これならば、交渉のときに相手に侮られないですむね」
 こう言えば、ルルーシュが目を丸くした。
「ひょっとして、それが目的か?」
「どうだろうね」
 スザクは笑ってごまかす。
「と言うことで、後はよろしく」
 交渉は苦手だから。そう続けた。どうしても、腹芸とか腹の探り合いというのが性に合わないのだ。
「わかっている。任せておけ」
 ルルーシュはスザクの腕の中からそう言って笑った。



14.03.24 up
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