僕らの逃避行
14
ルルーシュが相手と交渉しているのを横目に、スザクは放置されていた車を確認していた。
「……とりあえず、動くかな」
と言っても、もちろん、キーが付いているわけではない。だが、こういうときにどうすればいいかもしっかりと教えてもらった。
「日本なら犯罪だけどね」
しかし、この状況ならば仕方がない。それよりも、ルルーシュの安全を確保する方が優先だ。スザクはそう判断する。
「しかし、機動性を取るか、乗り心地を取るか。難しいところだよな」
後でルルーシュと相談した方がいいのではないか。
「でも、どれも燃料は残っているから、すぐに動かせるね」
と言うことは、ここから避難した者達は自家用車を使わなかったと言うことになる。バスか、あるいは鉄道だったのかもしれない。
それならば、きっと、避難したという事実も気づかれにくかったのだろう。
「やっぱり何かあるな、ここ」
何があるのかまではわからない。それでも早く移動した方がいいと思う。
「……話がまとまった」
そんなことを考えていれば、ルルーシュの声が耳に届く。
「何だって?」
彼女の表情から判断して悪い結果にはならなかったのではないかと思うが。そう考えながら問いかける。
「こちらから行く必要はない。迎えが来てくれるそうだ」
「その方が楽だけど、敵か味方かわからないね」
自分達があちらの本拠地に行くのと違って、と続ける。
「私もその点が不安だったんだが……」
「どうしたの?」
「ジノが来ているらしい」
「……はぁ?」
何で、と思わずにいられない。
「ジノって、確か皇帝陛下直属だよね?」
それなのに何故、と思う。
「私達がこちらで行方不明になったかららしいぞ。探すのに顔を知っている人間がいた方がいいという兄上の判断だそうだ」
確かに、ルルーシュの顔は知っている人間は多いだろうが自分の顔を知っているものはあまりいないだろう。
アリエスの人間ならば知っているかもしれないが、その多くは非戦闘員だ。戦場に連れてくるわけにはいかない。
「そう言う意味なら、確かにジノは最適かもしれないけど……」
別の意味で不安になる。
「来るとき、目立たないよね?」
敵を引きつけるような、と続けた。
「あー……その可能性があったな」
ルルーシュが今にも頭を抱えそうな表情で呟く。
「最速で迎えに来ると言っていたが……あいつのことだ。絶対に自分のナイトメアフレームで来るぞ」
確かに早いかもしれないが、敵もおびき寄せないだろうか。
「……何か対策を取ってくれていればいいんだけど……」
ユーロの部隊を派遣するとか、とスザクは心の中で呟く。
「どうだろうな。あいつも侯爵家の一員だから、それなりの言動はとれるだろうが……」
「自分だけで動く方が早いと言い出しそうだよね、ジノ」
「それが問題なんだ、あいつは」
自分のことは認めてくれているとはいえ、とスザクは呟く。
「実力がありすぎるから周囲が鬱陶しく思えるんだろうな」
さらに付け加えれば、ルルーシュも同意をするように頷いて見せる。
「ともかく、だ。少しでも早く合流できるようにしないといけないが……」
どこから来るのか、とルルーシュは呟く。
「こちらの居場所は伝えたの?」
「……あいつに理解できると思うか?」
スザクの問いかけにルルーシュがそう言い返してきた。
「じゃ、広いところに行こうよ。ついでに、何か目印でも……ブリタニアの国旗でもあればよかったんだけどね」
あれならば目立つだろう。そう思いながらスザクは口にする。
「なら、日本の旗の方がいいのではないか? あれがここにあれば、お前がいるという証拠になるだろうし」
「そうかな?」
「何よりも、作るとすれば簡単だろう?」
「それは否定しない」
白い布と赤い塗料があればいいだけだから、とスザクも頷く。
「布はあそこのカーテンをもらえばいいか。赤い塗料は……」
「レストランならケチャップぐらいあるんじゃないか?」
ルルーシュがすぐにこう言ってきた。
「それしかないよね」
食べられるものを無駄にするようで気が引ける。だが、ペンキや何かを探している時間がない以上、仕方がない。
「じゃ、準備するから。ルルーシュは適当に座っていて」
体力温存で、と笑った。
「……すまない」
多分、自分が役に立たないとわかっているからのセリフだろう。
「気にしなくていいよ。でも、僕の視界の範囲内にいてね。何かあったとき、すぐに対処とれないから」
わかっているとは思うが、と思いつつそう告げる。
「あぁ」
機嫌悪そうだな、と思いながらスザクはさっさと目をつけていたレストランへと入った。当然、ルルーシュも後を付いてくる。
「……ひょっとして、食材も残っている?」
厨房の中を覗き込んだスザクがこう呟いたときだ。
「使えそうか?」
即座にルルーシュが反応を見せた。
「どうだろう。でも、時間がないからそんなに作れないんじゃ……」
「サンドイッチと飲み物で十分だろう。とにかく、調理された食事を食べたい」
よっぽどこれまでのサバイバル――スザクに言わせるとまだ甘い――が辛かったらしい。
「やっぱり、ルルーシュは後衛向きだね」
まぁ、それでいいんだけど。スザクは苦笑とともにそう続ける。
「どういう意味だ?」
厨房内を探索する手を止めてルルーシュが問いかけて来た。
「この前、コーネリア殿下の親衛隊の方々とサバイバル訓練をしたんだけどね。ナイフ一本で富士の樹海を一週間、と言うコース。コーネリア殿下が平然と蛇を食べていらっしゃったから、日本側の参加者がびっくりしていたんだよ。」
あの光景は自分もびっくりした、とスザクは付け加える。一応、彼女が食べられるような野草その他は確保してあったのだ。
「姉上が?」
「そう。『軍にいれば、このくらいは当然だ』とおっしゃっておられたよ」
その気になれば、いくらでも特例扱いされるだろうに。スザクはそう思う。
「……そう言われれば、このくらいで根を上げては恥か?」
「でも、ルルーシュの場合、自分が調理して食べたい方でしょう?」
ついでに食べさせたいと、と付け加える。
「まぁ、な」
「だから、それなりに設備の整ったところで指揮を執る立場でいいんだよ。シュナイゼル殿下みたいに」
実戦は自分達の役目だ。そう付け加えれば、今度は納得したようだ。
「あ。バターがある」
「よこせ」
「うん。後、野菜とハムかな?」
「やはりサンドイッチか」
「お願い。僕はケチャップで日の丸書くから」
それぞれがやるべきことを確認する。それが終わると同時に、行動を開始した。
14.04.04 up