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僕らの逃避行

15


 広場のポールに即席の日の丸を揚げ、ルルーシュが作ったサンドイッチを食べていたときだ。
 上空から一機のナイトメアフレームが現れた。
「あれは?」
「ジノのトリスタンだと思うが……」
 ルルーシュはそう言いながら紅茶のカップを口元へと運んでいる。
「……ナイトメアフレームって、空を飛べたの?」
 自分が知っているものは地上戦専用だと思っていたが、とスザクは言外に問いかける。
「開発していたらしいが……まぁ、ラウンズの専用機は一種のテスト用でもあるからな」
 おそらく、飛行用の機能をつけたのもその一環だろう。ルルーシュのその言葉にスザクは頷く。
「ジノはそういうの好きそうだよね」
「それ以上の開発陣が好きだな。ロイドもとんでもない機体を作っているし」
「……むしろ、趣味に走りまくってない?」
 何故か強引に知り合いにさせられた某マッドサイエンティストの顔を思い出しながらスザクは呟く。
「おかげで未だにパイロットが決まっていないらしい」
「えり好み激しそうだよね、ロイドさんの機体」
「兄上があきれておられたからな。だから、覚悟しておけ」
「何を?」
 ルルーシュの言葉にスザクは首をかしげる。
「お前を狙っているからな、ロイドが」
 彼ならばやりそうだと思う。しかし、だ。
「僕は日本人だけど?」
 ナイトメアフレームはブリタニアの最高機密ではないのか。言外にそう告げる。
「お前だからいいんだろう」
 そんな会話を交わしている間に、ジノが日の丸を見つけたのだろう。目の前に彼の機体が降下してくる。
「ルルーシュさま! それにスザクも……無事でよかった」
 こう言いながら彼がコクピットから飛び出してきた。
「……早かったね、ジノ」
 微妙な表情とともにスザクはそう言う。
「迎えに来なかった方がよかったか?」
 即座にジノが突っ込んできた。
「と言うより……それに三人乗れるのかなって、思っただけ」
 二人ならば無理をすれば乗れるだろうが、とスザクは続ける。
「それでは、誰か一人が残らなければいけないだろう?」
 ルルーシュが表情をこわばらせつつそう口にした。
「大丈夫です、ルルーシュさま。私がそいつを見捨てるなと、あるはずないじゃないですか」
 笑いながらジノがそう言う。
「ルルーシュさまは細いですし、スザクなら多少の無理は気にしないでしょう?」
 それはどういう意味だ、とスザクは言いたくなる。
「僕だって普通の人間なんだけど」
 とりあえず、とこう主張してみた。
「安心しろ。別にトリスタンに抱きついていろとは言わないから」
 即座にジノが言い返して来る。
「単にルルーシュさまのクッションとして、座席とハッチの間にいろと言うことだ」
 Gはすごいかもしれないが、別段つぶれないだろう? と彼は続ける。
「だから、大丈夫ですよ」
 ルルーシュに向かって満面の笑みでジノはそう言った。
「それとも、アスブルンド伯爵の機体を運んで来た方がよかったでしょうか」
 さらに彼はこう付け加える。
「だから、何でみんなして僕にロイドさんのフォローを押しつけようとするんだろう」
 スザクはため息とともにそう言う。
「第一、僕、ナイトメアフレームの操縦法、知らないから」
「……知らないって?」
「教わってないよ。マリアンヌさんにも誰にも」
 何を言っているのか、と言外にスザクは言い返す。
「……てっきりマリアンヌ様か誰かから教わっているものだとばかり思っていた」
 ジノがそう呟く。
「だが、それならば私が教えればいいだけのことだな」
 しかし、すぐに彼は復活するとこう言った。
「ルルーシュさま、よろしいでしょうか」
「……とりあえず、安全な場所に移動してから相談しよう」
 ルルーシュがため息とともに言葉を綴る。それが最優先だろう、とスザクも思う。
「スザク」
「必要なら残るけどね。一人なら間違いなく逃げ切れるし」
 ルルーシュが狭い思いをするよりはマシではないか。そう思いながらこう言った。
「却下」
 即座にルルーシュが言い返して来る。
「お前を残していくくらいなら、ジノに地上を移動させる。そうすれば、肩や手のひらの上でもいいわけだしな」
「確かに。戦闘にさえならなければ、その方が快適ですね」
 ジノも頷く。
「ですが、今回は陛下直々にルルーシュさまとスザクを2時間以内にペテルスブルグまで案内するようにとのご命令ですので」
 よほどルルーシュのことが心配なのだろう。自分はきっと、日本政府に対する配慮ではないか。
「仕方がないな。スザク、覚悟を決めろ」
「皇帝陛下の命令なら仕方がないよね」
 ルルーシュの言葉にスザクは頷く。
「では、移動をお願いします」
 ジノがこう言いながらルルーシュに手を差し出す。しかし、目の前の隙間はルルーシュには超えられないとスザクは思う。
「スザク、頼む」
 それを自覚しているのか、ルルーシュはジノではなくスザクに向かってこう言ってきた。
「了解」
 言葉とともにルルーシュの体を抱き上げる。そして、ジノの隣へと移動した。
「残念。こういうときならば私を頼ってくださるかと思ったのに」
「私の守護者はスザクだからな。お前は父上の騎士だろう?」
 つまりそういうことだ、とルルーシュは歩笑みながら言う。
「まぁ、仕方がありませんね」
 ジノは苦笑とともにそう告げる。しかし、すぐに彼は表情を引き締めた。そのまま体の向きを変える。
「ルルーシュさまは補助椅子に。スザクは私のシートの背をつかんで立っていてくれ。極力、無理な操縦はしないつもりだ」
 一足先にコクピットに入りながらジノが言葉を投げかけてきた。
「ただし、戦闘になったら責任は持てない」
 それはそうなんだろうな、と思いながら頷く。
「極力そうならないように祈っているよ」
 そう言うフラグを立てるようなセリフを言うな、と心の中で通焼きながらスザクは言い返す。
「しっかり捕まっていてくれ」
 そのセリフには気づかないのか。それともあえて無視しているのか。ジノは言葉とともに機体を発進させる。
 即座に襲ってくるGにスザクは椅子をつかむ指に力を込めることで耐えた。
「大丈夫か?」
 ルルーシュが不安そうに問いかけてくる。
「このくらいならね。軍の訓練のえぐいのよりはマシ。僕は戦闘機のパイロットにも落下傘部隊やレンジャー部隊の一員になる予定にもないっていうのに」
 おかげでこの状況でも何とかなっているのだからかまわないが。
「そうか。何かすごいな」
「マリアンヌ様に鍛錬をつけていただけば最強じゃないか、スザクは」
「それは出来ればパスしたいかな」
 こんな会話を交わしつつ、とりあえず三人はミカエル騎士団に合流するために移動していた。



14.04.25 up
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