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僕らの逃避行

16


 目の前に何かがいる。
「ジノ!」
「……敵だ。しかし、何故、こんな所に……」
 それは当然だろう。ここはすでにユーロ側の防衛圏を抜けた位置だ。それなのに、何故、と口にしたくなっても無理はない。
「……前方に、何か飛行物体があるね」
 目を細めながらモニターをにらんでいたスザクがそう呟く。
「確認した。しかし、あちらが飛行できるナイトメアフレームを開発していたとは聞いていないぞ」
 ジノがそう言いながら操縦桿を握り直した。
「自力で飛んでいるわけじゃなさそうだ。カイトかハンググライダーのようなものを使っているようだけど」
 その間にも観察を続けていたスザクはこう言う。
「相変わらず信じられない視力だな」
 その言葉を受けて、ルルーシュがあきれたような声音で呟いた。
「でも、この状況では助かります」
 ジノがこう言ってくる。
「敵の正体がわかれば対策の取りようがありますから」
 彼はそう続けた。
「逃げ切れる?」
 ルルーシュがいなければ戦闘を選択してもいいだろう。しかし、今はルルーシュの安全を最優先すべきではないか。そう判断してスザクは問いかける。
「高度を上げれば可能かもしれないな」
 即座にジノが言い返して来た。
「ただ、個人的にはあれのデーターも欲しい。新型なら、なおさらだ」
「……ユーロに任せるという選択肢はなし?」
 本国の人間があまりで張らない方がいいのではないか。スザクは言外にそう付け加える。
「そうだな。マンフレディに手柄を譲るのもいいかもしれない」
 ルルーシュもそう言って頷く。
「今回のことはかなり無理を通したのではないか?」
 さらに彼女はこう付け加えた。
「ルルーシュさまを失うことにかかわる厄介事よりもマシです」
 万が一、そんなことになれば、シャルルをはじめとした国の中軸が使い物にならなくなる。
 同時に、たがが外れたマリアンヌ達が何をしでかすか。
「……マリアンヌさんがその気になればEUの主要都市が一日で灰燼に帰すんじゃないの?」
 スザクがこわごわとそう告げる。
「自分の母親のことなのに、否定できない」
「むしろ、喜々として参加しそうな同僚が片手の数ほど……」
 ジノがため息とともにそう呟く。
「と言うことで、不本意ですがあれらに関してはミカエル騎士団に任せましょう」
 彼はそう続ける。
「それが無難だろう。あぁ。画像が保存できるならしておけ。ロイドが喜ぶ」
「Yes.Your Highness」
 ジノはそう言うと、一瞬だけ機体のスピードを緩める。だが、相手がそれに気づく前に上昇へと転じさせた。
「あの構造なら上昇は難しいだろうな」
 おそらく推進器は付いていないだろう、とスザクは告げる。
「でも、そうだとするなら、どこから飛んできたのかな?」
 そう言って首をかしげて見せた。
「スザク?」
 ルルーシュが即座に聞き返してくる。
「なんて言うか、あれはパラシュート部隊みたいなもんなんだと思うよ? ブリタニアのナイトメアフレームでも、輸送機から飛び降りるのは可能なんだし。でも、あの装備ならもっと高いところからだよね?」
 それが可能なのかどうかはわからないが、と言外に続けた。
「なるほど。私達が乗った飛行機を撃ち落としたのも連中かもしれんな」
 地上から撃墜されたのではないかもしれない、とルルーシュは眉根を寄せながら呟く。
「どちらにしろ、ロイドに話をしなければならないか」
 そう言って彼女はため息をつく。
「その結果次第では、これを量産するなり他の機体を開発するなりする必要があるだろうな」
 どちらにしろ、今までの常識を捨てる覚悟が必要だろう。ルルーシュはそう続ける。
「ブリタニアなら心配いらないと思うけどね」
 マリアンヌならば多少型破りでも有効だとわかれば受け入れるだろう。彼女が受け入れるなら、軍は問題ない。何よりも、シャルルが諸手を挙げて賛成するはずだ。
「……よく理解できているな、スザク」
「それは、夏休みになるごとに拉致同然にブリタニアに連れて行かれればね」
 おかげで宿題をやり損なったり、大事な行事に参加できずに後から嫌みを言われたりもした。
 それについて散々抗議をしたからだろうか。それとも誰かが口添えをしてくれたからか。中学を卒業する頃にはなくなったが。
 ついでに言えば、一年目は冬休みも拉致しに来られたのだ。だが、日本人にとって《正月》と《お盆》の大切さを切々と語り、その二つとも欠席することは名家の跡取りとしてはゆるされないことであると説明したことで冬休みの拉致はなくなったと言っていい。
 単に、夏休みの方が長いから、と言う話しもあるけど。スザクは心の中でそう付け加える。
「それに関しては……すまん。予想以上に母さんがお前のことを気に入っているからな」
「おかげで『夏休みごとにレベルアップして帰ってくる』とみんなには感心されているけど」
 あの鍛錬漬けの日々を送っていればそのくらい当然と考えるのは自分だけではない、とスザクは確信している。
「個人的に言わせてもらえれば」
 機体を水平に戻しながらジノが口を開く。
「あれはラウンズでも脱落者が出るレベルだ。もちろん、向き不向きを考慮しての話だが」
 自分は大丈夫だろう。アーニャとノネット、それにドロテアあたりは大丈夫だろう。しかし、ルキアーノは性格的に無理。モニカはどちらかと言えば後衛向きだから途中脱落だろう、と彼は続ける。
「七人のうち母さんにつきあえるのは五人か……多いのか少ないのか、判断に悩むな」
「……多いんじゃないかな? マリアンヌさんって、ヴァルトシュタイン卿と互角なんだし」
 スザクの言葉にルルーシュも頷いて見せた。
「そうだな。そう考えれば仕方がないのか」
「何か釈然としません……」
 ジノがそう言ってため息をつく。
「それ以上に釈然としないのは、この状況でも平然と会話をしているスザクだがな!」
 さらに彼はこんな叫びをもらす。
「このくらいなら、戦闘機と同じだから」
 某飛行技術教導隊の曲芸飛行に付き合わされたときよりもまだマシ、とスザクは言い返した。
「……そうか。お前もそれなりに苦労しているんだな」
 それがどのような状況なのか理解できたのだろう。ジノがこう言ってくる。
「もう開き直って楽しんでいるけどね」
 自分の年齢で国防の最新鋭機や技術に触れられるのだから、とスザクは口にした。
「これだってそうだろうし」
 ブリタニアの中でも最高機密ではないのか、と逆に聞き返す。
「使われている技術が理解できるならな」
 ルルーシュがあきれたようにこう言ってくる。
「……僕が悪うございました」
 普通の高校生にそんなものが理解できるか。そう思いながら言い返す。
「まぁ、着いたらアスプルンド伯が丁寧に説明してくれる思うよ」
 それはそれで怖いとしか言いようがない。
「僕はラウンズでもブリタニアの軍人でもないんだけどねぇ」
 ため息とともにそう告げる。
「あきらめろ」
「今更だろう」
 即座に二人のありがたい言葉が返ってきたことに、思い切り肩を落とすしか出来なかった。



14.05.23 up
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