僕らの逃避行
18
『無事で何よりだよ、ルルーシュ』
モニターの中で満面の笑みを浮かべていたのはクロヴィスだ。
「ご心配をおかけして申し訳ありません。」
そんな彼に向かってルルーシュが言い返す。
『いや、謝ることはないよ。悪いとするならば、君をそんな危険なところに行かせた連中だ』
クロヴィスはそう言いながら視線をスザクへと向けてくる。
『唯一の救いは、連中が君の同行を許可してくれたことかな』
「……そうですね」
確かに同行していなかったらどうなっていたか。スザクはそう考えながら頷く。
「ところで、マリアンヌさんとナナリーは?」
そこはアリエスですよね、とスザクは聞き返す。
『間違いなくアリエスだよ』
言葉とともにクロヴィスが視線を彷徨わせ始めた。
「では、どうして母さんとナナリーがいないのですか?」
ルルーシュも今更ながら異常に気がついたのだろう。そう問いかけている。
「まさか! 二人に何かあったのでは……」
表情を曇らせると彼女はさらに言葉を重ねた。
『二人とも元気だから安心しなさい』
即座にクロヴィスがルルーシュの不安を否定してくる。
「では、どこに?」
ルルーシュがさらに質問した。
『陛下の所だよ……兄上と姉上方がとりあえず追いかけて行ったね』
目的は確認しなくても想像がつく。
「陛下がご無事だといいなぁ」
スザクは思わずこう呟いてしまった。
「私達の無事は二人の耳には入っていなかったのですか?」
それにため息を一つつくと、ルルーシュはクロヴィスをにらみつける。
『無事は伝わっているよ。問題は別にあってね……』
そう言ってクロヴィスはため息をついて見せた。
『まぁ、あの二人が殴り込まなくても陛下が許可を出すとは思えないが』
「ルルーシュの婚約話ですか?」
『マリアンヌ様の条件を満たせる人間ではないし……それ以上に、ブリタニアにとって不利益にしかならない相手だよ』
もちろん、自分達も反対だ。クロヴィスはそう続ける。
「相手はスザクがいると知っての行動ですか?」
ルルーシュの声が微妙に低くなった。
『正式な話ではないのだろうと……』
「なら、今すぐにでも話を進めてください」
彼女は真顔でそう呟く。
「かまわないだろう?」
スザクの顔を見つめるとルルーシュはこう言ってくる。
「ルルーシュが僕でいいならね」
自分もそろそろ誰かと婚約しなければいけないのだ。ルルーシュであれば父はもちろん神楽耶達も文句は言わないだろう。
「でも、文句言われない?」
「母さん達なら喜ぶと思うよ。父上は……知らない」
それが一番問題ではないだろうか。
『そうだね。彼ならば君を傷つけないから適任だね』
今のところは、と言外に付け加えられたような気がするのはスザクの錯覚ではないだろう。
『それに……そろそろ皇とブリタニアの血は混ざらなければいけない』
「……僕の子供と神楽耶の子供は婚約が決定しているし……そうなれば、皇の本家筋にブリタニアの血が入ることになるな」
皇本家の跡取りではないかもしれないが、と呟く。
「枢木の跡取りかもしれないだろう?」
からかうようにルルーシュが笑う。
「いずれまた、ブリタニアの皇族に戻ってくるかもしれないしな」
「それはどうだろうね」
「ナナリーの子孫ならそうするだろう」
「言われてみれば納得」
ルルーシュとともにこんな会話を繰り広げる。
『本当に仲がいいね、君たちは』
苦笑とともにクロヴィスが口を挟んできた。
「つきあい長いですから」
「そうだね。半年に一回は必ず一緒に旅行するし」
「週に一度は通話しているし」
「メールは毎日だよね」
そう考えると、すぐそばにいる友人達よりもこまめに連絡を取っているのではないか。
でも、相手がルルーシュだから仕方がない。
スザクはそう考えてしまう。
「どんなことがあるのか。共有しておかないといけないから」
それが個人的なことでも、だ。
「まぁ、内緒にしておきたいこともあるけどね……男同士の話とかは、特に」
「それは仕方がないか」
以前、藤堂にも言われた。ルルーシュは苦笑とともにそう言ってくる。それは初耳だ、とスザクは心の中で呟いた。
『本当に君たちは……それがおかしいと思えないあたり、私達も毒されているのだろうね』
苦笑とともにクロヴィスはそう言う。
『その前に、枢木君にはナイトメアフレームの操縦を身につけてもらおう。シュナイゼル兄上がアスプルンド伯に話をつけているはずだ』
この言葉を耳にした瞬間、スザクの頬が引きつる。
「ロイドさんに、ですか?」
他の人にしてくれないかな、と心の中だけで呟く。
『あきらめてくれ』
即座にこう言われた。
『万が一のことを考えると、君の実力はあまり広めたくない。マンフレディ卿も七年前のあれしか知らないはずだしね』
ジノはこれからユーロ側とともに行動する。そうなれば、残るのはロイドしかいない。
その理屈はわかる。
しかし、だ。
「間違いなく、ロイドさんのおもちゃにされる」
「……あきらめろ、としか言えないな、それに関しては」
ルルーシュですらスザクの言葉を否定できないらしい。苦笑とともにこう言ってきた。
「ただ、そばで見ているぐらいはしてやるから」
教えるのは無理だが、とさらに彼女は続ける。
『そう言うところは私達に似たんだね』
苦笑とともにクロヴィスはそう言う。
『でも、枢木君が一緒なら大丈夫か。ルルーシュのためにもがんばってくれたまえ』
その言葉に頷くしか出来ないスザクだった。
14.06.20 up