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僕らの逃避行

19


「スザクくん、いらっしゃぁい!」
 ロイドがめちゃくちゃ上機嫌で出迎えてくれる。それがまた怖いと思わずにいられないのはどうしてなのだろうか。
「ルルーシュさまもご無事で何よりです」
 ただ、これだけは本心のようだ。そうでなければ付き合っていられないとも言えるが。
「……とりあえず、ジノから報告を受けているとは思うが……」
 ルルーシュがため息混じりに問いかける。厄介事は早々に片付けたいのだろう。その気持ちもいたいほどよくわかった。
「敵の新型ですねぇ! ロングでの映像しかないのではっきりとは言えませんが、おそらく、機動力重視で開発されているでしょうねぇ」
 一機、欲しいなぁ……と付け加えられたのは、間違いなくロイドの本音だろう。
「と言うわけで、スザク君! がんばってランスロットを乗りこなしてね」
 しかし、それとこれとがどう繋がるのかがわからない。
「……はい?」
 ルルーシュではないが、こう言う予想外の状況に置かれると、一瞬、脳みそがフリーズするんだ、と改めて認識した。
「だからぁ! 僕のランスロットのパーツとしてがんばってねって言っているんだよぉ」
 ロイドが大げさに手を振り回しながら再度口を開く。
 だが、そんな彼がいきなり悶絶する。
 何があったのだろうか。
「パーツ扱いしないでと言われているでしょう!」
 そう思った瞬間、言葉とともに彼の背後からセシルが姿を見せた。
「セシル……」
「申し訳ありません、ルルーシュさま。この変態にはよく言い聞かせておきますので」
 彼女はそう言って頭を下げる。
「いや、気にするな。お前が悪いのではないとわかっている」
 ルルーシュは苦笑とともにセシルにこう言った。
「それよりもスザクの教育はお前に頼んでかまわないか? あれは信用できん」
「わかりました。と言っても、私が教えられるのは基本だけですが」
「かまわない。必要なのは基本だろう?」
 ルルーシュはそう言いながらスザクへと視線を向けてくる。
「まずは基本で……ロイドさんだといきなり実戦になりそうで怖いです」
「……ロイドならやりそうだな」
「否定してあげられないわ」
 女性陣二人がそう言って頷く。
「いくらボクでもぉ……グホッ!」
「いいから、あなたは黙っていてください」
 ロイドの背中を踏みにじりながらセシルがそう告げる。
「セシルさん、一応上司じゃ……」
 スザクがそう問いかけた。
「気にするな。セシルのあれは兄上公認だ」
 それにルルーシュがこう言ってくる。
「母さんもおもしろがって、セシルにあれこれ教えていたし……」
 通りで見た覚えがある攻撃だと思ったんだ。スザクは口の中だけでそう呟く。
「ともかく、セシルに任せておけば基本は間違いない。彼女はパイロットとしても優秀だからな」
 だからこそ、ロイドのお守りを押しつけられたのだ。ルルーシュは苦笑とともにそう告げた。
「それって、セシルさんの負担が大きいんじゃ……」
「……そうは思うが、他に出来る人間がいないからな」
 ロイドのテンションに流されることなく、なおかつ彼をうまく操縦できる人物となるとすぐに思い浮かばない。ルルーシュはそう続ける。
「間違っても、母さんと一緒には出来ないしな」
 そうなれば、誰もロイドの暴走を止められなくなる……とルルーシュは遠くを見つめるような表情になった。
「……うん、簡単に想像できたよ」
 混ぜるな危険だ、とスザクも頷く。
「と言うことで、これは放っておいて……今日はシミュレーターを使って基本だな」
 ロイドご自慢の機体はまだ当分、お蔵入りにしておけ。ルルーシュはそう続ける。
「そうですね。あれになれてしまえば他の機体の操縦が難しくなるかも」
 くせが強いから、とセシルも頷く。
「でも、あれはスザク君以外に動かせないと思うよぉ」
 セシルの足元からロイドが口を挟んでくる。
「だから、大丈夫だってぇ!」
 そう付け加えるが、スザクにはそう思えない。普段ブリタニアにいない自分に最新鋭機を与えることは、他の軍人達から反発があるに決まっている。
 それよりは汎用機でお茶を濁しておくのがいいのではないか。
 操縦技術に関しては、ルルーシュを守るためにもあった方がいいとは思うが、とスザクは考える。
「……少なくとも、ヴァインベルグ卿と互角に戦えるスザク君にそういうことを言う人間はいないと思うけど」
 セシルがこう言った。
「いたとしても、母さん達が黙らせるだろうな……実力行使で」
「うん、それは十二分にあり得る光景だね」
 苦笑とともにこう言うしかスザクにはゆるされていない。
「ともかく、細かいことは全部後回しにして、一回、やってみましょう。今日はサザーランドのデーターを使うから」
 セシルが場を和ませるかのようにそう言う。
「そうだな。グラスゴーではスザクの反射神経について行けないだろう。かといって、グロースターはくせがあるらしいからな」
 まずは基本となる機体から慣れるべきだろう。ルルーシュもそう言ってくれる。
「二人がそう言うなら、それでいいよ」
 スザクはそう言って笑った。

 もっとも、ここで黙って引き下がらないのがロイドと言う男だ。

 先ほど写真を見ながら説明してもらったのと微妙に配置が違うのは何故だろうか。
「とりあえず、一回下りて……それからかな?」
 そう思って、スザクはハッチを開けようとする。だが、何故か外からがっちりとロックされていた。
 それだけではない。
 おそらくスザクの反応を予想していたのだろう。それを機動条件にモニターに文字が表示されるようにしていたに違いない。
『シミュレーションを終わらせたら出してあげるよ〜 byロイド』
 その文章を見て、スザクはシートにすがりつく。
「初心者になにをさせる気なんだ、あの人は」
 放っておいてもルルーシュたちが出してくれるだろう。しかし、何かそれではおもしろくない。
「まぁ、ちょっと鬱憤もたまっているし……やってみるか」
 ここならば多少羽目を外しても誰にも迷惑をかけないだろう。そう判断して、シートに腰を据える。
「さて……と。壊しても僕のせいじゃないよね」
 悪いのは閉じ込めたロイドだ。そう呟くとともに覚えた手順通りに起動していく。配置は微妙に異なるが、基本は変わらないから大丈夫だろう。
 そう考えながら、モニターに映し出された光景を見つめる。
「……無双タイプのゲームだと思えばいいか」
 あまりの敵の多さに笑いも出てこない。
「とりあえず、まずは移動してみないとね」
 歩かせられなければ何も出来ないし。そう呟くと操縦桿を握りしめた。

 その後、クリアする前に外に出してもらえた。その時ロイドがどのような状況になっていたのか。それはあえて口に出さなくてもいいだろう。
「初めてであれだけのシンクロ率だなんて……やっぱり、スザク君はランスロットのためのパーツなんだ!」
 こんなセリフを口にすればどうなるのか、当然彼もわかっているはずだろうに。
「ロイドさんって、頭はいいのにバカだよね」
 そう呟くしか出来ないスザクだった。



14.07.06 up
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