僕らの逃避行
23
ルルーシュとジノはともかく、自分は何を着ればいいのだろう。スザクはふとそんな疑問を抱く。
もっとも、それは杞憂だった。
「……これって、騎士服?」
マリアンヌがロイド達に預けていてくれた服のサイズがぴったりなのは、あえて突っ込まないでおく。
「正装と言うことにしておけ」
ルルーシュが苦笑を浮かべながらこう言ってきた。
「流石に皇族服は無理だと判断したんだろう」
それはそうだろう。
「あれは皇族専用でしょ? 僕には無関係だよ」
「だが、お前は私の《守護者》だぞ。そして今は婚約者だ。そう考えれば、皇族に準じる存在だと言える」
スザクの反論をルルーシュがすぐに否定してくる。
「婚約者はこっちに来てからじゃん。輸送の時間を考えればそこまでは無理でしょ」
縫製自体、ほとんど手作業な訳だし、と続けた。
「今回は、な」
ため息とともにルルーシュは頷いて見せる。
「だが次はちゃんとしたものを用意させる」
それが似合わないとは言わないが、と彼女は呟きながら届けられた騎士服をスザクの肩に当てていた。
「お前なら、黒より白だよな」
そして彼女はこう呟く。おそらく服の色のことだ。
「そのあたりはクロヴィス兄さんに相談してみよう」
この言葉を耳にした瞬間、スザクは無意識に顔をしかめていたらしい。ルルーシュ楽が苦笑を浮かべて見せた。
「お前とは性格があわないかもしれないが、こちら方面では無条件で信頼できる」
確かにセンスは悪くないのだろう。問題は、自分の趣味と合わないことだ。スザクはそう心の中で呟く。
「……神楽耶とは話が合いそうだけどね」
彼女の趣味はクロヴィスのそれとよく似ている。だから、間違いなく話が合うだろう。
「そう言うお前は母さんと話が合っているか」
「僕もマリアンヌさんも、動きやすい服が好きだからね」
何かあったときに対処できるように、と言うセリフは口の中だけで付け加える。
「それに、個人的に正装はやはり和服じゃないかな、と思うわけで」
日本人だし、とスザクは続けた。
「最初にあったときにお前が来ていたあれか?」
「そう。流石にここじゃ無理だしね」
そもそもそれが正装だとわかる人間がどれだけいるだろう。同じ和服でも女性のそれは知名度があるのに、だ。
理不尽だよね、と心の中だけで付け加える。
そのまま手渡された騎士服を確認した。
「これ、武器が隠せる」
間違いなくこれはマリアンヌの指示によるものだろう。
「……母さん……ばれたら厄介だぞ」
ルルーシュがそう言ってため息をつく。
「ばれても困らないものを持ち込めばいいよ。鉄扇とか」
あれならば『日用品です』と言い切ればいいだけだし。
「今は仕方がないから、そこいらの紙ではりせんでも作ろうか。ジノへの突っ込みように」
日本のお笑いで定番のそれを思い出しながらスザクは口にしてみる。
「あぁ。それはいいな」
確かにあれならば殺傷能力があるとは思われない。それでいてそれなりの威力がある。ルルーシュはそう言って頷く。
「ジノ専用と主張するならミケーレモ文句は言えまい」
彼女がそう言って笑ったときだ。
「ルルーシュさまもスザクも、私を何だと思っているんですか!」
今まで壁際で黙っていたジノが参戦してくる。
「……とりあえずは暇つぶしと八つ当たりの相手か?」
ルルーシュがきっぱりと言い切った。
「流石に、それはひどいと思うよ、ルルーシュ」
気持ちはわかるけど、とスザクは付け加える。
「だが、実際にそうだろう? ここについてからの厄介事の大半はジノ経由だ」
さらに彼女は追い打ちをかけた。これはかなり煮詰まっているらしい。
「……僕がいない間に何かあった?」
スザクはとっさにこう問いかけた。
おそらく、それは自分がロイドのところに行っていた間だろう。ジノがそばにいてくれるからと安心していたのだが、と思いながらルルーシュを見つめる。
「そいつがミケーレと話をしている間に変な男に言い寄られた」
そうすれば彼女は素直に白状してくれた。
「マジ?」
「……そんな……気づかなかったなんて……」
スザク以上にジノにとってその事実はショックだったらしい。思い切り肩を落としている。
「そう言うわけだ。八つ当たりされてもお前に拒否権はない」
ルルーシュの言葉に、流石のジノも反論できないようだ。
「これからはスザクがテスト中、特派で待っている」
さらに彼女はこう言ってくる。
「それが一番安心できるかな」
スザクもそう言って頷く。
「しかし……こういうときはジノよりもアーニャの方が信頼できるね」
「そうだな」
「あるいは咲世子さんだよね。本当に咲世子さんが来てくれればよかったのに」
彼女であれば確実にルルーシュを守ってくれるだろう。
「でも、今言っても仕方がないよね」
いくら咲世子でもすぐに駆けつけられるわけがない。
「ともかく準備をしないと」
遅れていくわけにはいかないのだから、とスザクは告げる。
「そうだな。ジノ、出て行け」
ルルーシュが冷たい声音でそう命じた。
「何故!」
ここで追い出されたら名誉挽回が出来ないと判断したのか。ジノがそう問いかけてきた。
「……お前、私の肌を見たいのか?」
ますますルルーシュの声が低くなる。
「バカ」
本当に、これ以外のセリフが出てこない。
「失礼しました!」
これ以上の失態を避けようとしたのか。ジノは勢いよく出て行く。
「じゃ、僕は向こうで着替えてくるから。背中のファスナーをあげるときには呼んで」
そう言うとスザクも服を抱えて寝室へと移動する。
もっとも、すぐに呼び出されることになったのだが……この警戒感のなさをどうすればいいのか。後でマリアンヌに相談しておこう、とスザクは心の中でそう呟いていた。
14.09.20 up