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僕らの逃避行

24


 ここは本当に戦場なのか。
 そう言いたくなる料理が次々と運ばれてくる。
「無骨な料理で申し訳ありません」
 だが、マンフレディには今ひとつ不満らしい。そう言うところは、彼も貴族という所なのか。
「気にしなくていい。むしろ、この場でこれだけの料理を用意してくれた料理人をほめてやりたいくらいだ」
 それにルルーシュはこう言い返す。
「戦場であれば携帯食料でも十分だと母さんが言っていた」
 さらに彼女はそう付け加える。
「そうだね。日本軍でも必ず携行しているよ。実際、僕も持っていたし」
「そのおかげで助かった」
「もっとも、すぐになくなちゃったけどね。次からは最低でも倍、用意しておくよ」
 それを使う状況にはならないで欲しいと思うが、とスザクは続けた。
「確かに。こんな経験は一度で十分だ」
「私もです」
 ルルーシュだけではなくジノまでこう言って頷いている。
「ヴァルトシュタイン卿がおられなければ、マリアンヌ様を止められたかどうか……」
 彼の言葉にマンフレディまでもが表情をこわばらせた。
「……いくらヴァルトシュタイン卿でも、お一人でマリアンヌ様をお止めするのは骨だったのではないか?」
 そして、こう告げる。
「私を含めたラウンズも参戦しましたから……もっとも、役に立てたかどうか……」
「大丈夫だよ。一瞬でもマリアンヌさんを止められたなら、ビスマルクさんには十分だ」
 スザクはそう言って笑う。
「スザクがそう言ってくれるなら、そうなんだろうな」
 それにジノはどこかほっとしたような表情で頷いて見せる。
「まぁ、母さんが暴れても被害を受けるのは父上かラウンズだけだ」
 ルルーシュが意味ありげな表情でそう口にした。
「その中にはお前も入っているぞ、ミケーレ」
 さらに彼女はそう続ける。
「本当ですか?」
 マンフレディの顔から血の気がひいていく。
「あきらめるんだな」
 ルルーシュはそう言うと洗練された仕草で皿の上の料理を口に運んだ。
「早々に結果を出せばいいだけだと思いますよ」
 何か一つでも、とスザクは言う。
「手柄を立ててマリアンヌ様の怒りをそらす、か」
 マンフレディがため息とともに言葉を吐き出す。
「どのみち、我らはあれの正体を確認せねばなるまい。今しばらくご助力いただきたいのですが」
 居住まいを正すと彼はルルーシュに向かって声をかけてきた。
「私はスザク達と行動を共にする予定だが?」
 それに彼女はこう言い返す。
「父上からの厳命だと、使いの者が言っていた。我が父ながら過保護だな」
 わざとらしいまでの苦笑を浮かべつつルルーシュは言葉を重ねた。
「それでもいいならかまわないぞ」
 彼女の言葉にマンフレディは眉根を寄せる。
「姫に何かバカなことをしでかした者でもおりましたか?」
 その表情のまま彼は問いかけてきた。
「私は既に婚約者が決まっている。大公殿にはそうお伝えしてくれるか? それで収まらなければ、少々手荒な行動に出なければならないだろうな」
「……それは当然のことでしょう」
 ルルーシュが言葉の裏に隠した意味に気づいたのだろう。
「仕方がありませんな」
 困ったものだ、とマンフレディは続ける。
「……スザク……」
 こちらは意味がわからなかったのか。ジノがそっとスザクの名を呼んだ。
「おそらくだけどね。ルルーシュにちょっかいをかけているのは中央でも名家と言われる家の関係者だと思うよ」
 ブリタニア本国とのつながりを求めているのだろう。婚約者がいても実力で何とか出来ると判断しているのか。
「……バカだな」
 ジノがこう呟いている。
「マリアンヌ様の剣を最低でも3回は避けないと認めてもらえないだろう。もっとも、そんなことが出来るのはヴァルトシュタイン卿以外はお前だけじゃないか?」
「今のスザクならば十分近くは打ち合えるだろう?」
 ジノの言葉に重ねるようにルルーシュも口を開く。
「逃げるだけならね」
 まともにやり合えばどうなるだろうか。相打ち狙いでも勝てないような気がする。
「マリアンヌさんって、いくつになられても身体能力が落ちないよね」
 むしろ、さらに洗練されているような気がするのは錯覚だろうか。
 いや、それは少し違うな、とスザクは心の中で呟く。
 彼女はきっと、次々といらない動作などをそぎ落としているのだ。日本でも武芸の達人がそんな感じだったし、と藤堂の師匠の顔を思い出しながら付け加えた。
「あの方は……我々と別次元においでだからな」
 マンフレディの言葉にジノも頷いて見せる。
「そういうことならば、明日、一勝負してもらおう。枢木卿の実力を知れば手出しをしようとするものは減るはずだ」
 確かにそれも理由の一つだろう、とスザクは思う。
「単にお前がスザクと戦いたいだけだろう?」
 ルルーシュが深いため息とともに言葉を吐き出す。
「否定はしません」
 あっさりと認められてはどう反応すればいいのかがわからない。
「ご許可いただけますか?」
 マンフレディがルルーシュにそう問いかけている。
「……不本意だが仕方がないだろうな」
 それに彼女はうなずき返す。
「スザク、すまないが……」
「ルルーシュのためなら仕方がないよ」
 そう言ってスザクは微笑む。
「僕はルルーシュの騎士だしね」
 この言葉に彼女は同じような笑みを浮かべた。
「ついでに婚約者だろう?」
「今は、ね。そのほかにマリアンヌさんのおもちゃ、と言う称号もあるような気がするんだけど」
 そして、それに関しては他の者達が故意に利用してくれそうな気がするが。そう付け加える。
「あきらめろ」
 ルルーシュが即座にそう口にしてくれた。
「いざというときは、骨ぐらい拾ってやる」 「それはないよ」
 思わず肩を落としてしまう。それを見てマンフレディとジノは笑い声を漏らす。
「ジノ……後で覚えていてね」
 スザクは低い声でそう言うのが精一杯だった。



14.10.04 up
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