僕らの逃避行
26
「それで、状況はどうなっている?」
優雅に茶器を扱いながらルルーシュが問いかけの言葉を口にする。
「あまり芳しくありませんな」
それにマンフレディはため息とともに言葉を返す。
「敵の移動手段はわかりましたが……それをどうやってつかむか。それが問題です」
彼はさらにそう続けた。
「あれらは空から来たな」
ルルーシュがそう呟く。
「多分、もっと高いところから下りて来たんだと思うよ」
スザクがあのナイトメアフレームの装備を思い出してそう言う。
「セシルさんが言っていたけど、多分、専用の拠点があるんじゃないかな?」
それと彼らが出てくる条件があるのではないか。スザクはさらに言葉を重ねる。
「そうだな……連中が出てきた条件を教えてもらえれば、推測できるかもしれん」
ルルーシュもそう告げた。
「おそらく一個小隊規模だろう。あれがそう簡単に作れるとは思えん」
さらに彼女はそう続ける。
「わかりました。後でお届けしましょう」
マンフレディはそう言って頷く。
「ロイドさんが気にするだろうね」
スザクがそう呟く。
「その分、こちらの被害が減るんじゃないか?」
即座にジノがささやき返してきた。
「だといいけど……」
深いため息とともにスザクは言い返す。
「ロイドさんはそれが終わった後に、成果をランスロットにぶつけるからなぁ」
その後のテストに付き合わされるのは、もちろん、自分だ。
「新学期が終わる前に日本に帰れるかな」
テストだけでも受けに戻りたい。それが無理ならレポートで勘弁してもらえるように手を回さないといけないだろう。それはそれで面倒だ。
「スザク……やっぱり、ブリタニアに留学してこないか?」
その話を聞いていたらしいルルーシュがそう声をかけてくる。
「僕個人としてはそれでもいいんだけどね」
問題は父親だ、と言外に告げた。
「そのあたりは父上かシュナイゼル兄上に任せるとするか」
マリアンヌに任せるよりはほっぽどいい。ルルーシュのこのセリフにスザク達三人は失笑を漏らした。
「とりあえず、データーだな。至急頼む。下手な小細工はしないように頼むぞ」
自分達の端だからと言って、まけた部分のデーターを改ざんする。そう言う指揮官がたまにいるらしい。ルルーシュはそのことを言っているのだろう。
「わかっております」
マンフレディが苦々しげな表情を作ったと言うことは、以前にそんなことをした者がいるのかもしれない。
「お前たちを疑っているわけではない。そういうことに関してはEUの方が得意だからな。あそこの新聞記事だけを見ていると、連戦連勝に思えるぞ」
撃墜される前に見た新聞を思い出しているのだろう。ルルーシュは苦笑とともにそう告げた。
「都合の悪い戦いはなかったことにしているようだね。負けた戦も、だいたいは無事に帰ってきているし」
ここまで言ったとき、スザクはあることに気づく。当然ルルーシュもだ。
「ルルーシュ」
「多分、お前の考えは間違っていないと思うぞ」
スザクの呼びかけに彼女は頷いて見せる。
「おそらく、その無事に帰ってきた撤退戦と関係があるだろうな。正確なところはデーターを見なければわからないが」
だが、その考えは間違っていないだろう。ルルーシュはそう続けた。
「何かわかりかけておられるようですな。それならば少しでも早くデーターをお持ちしましょう」
マンフレディはそう言って従卒を呼び寄せる。そして、何事かを指示した。
「……それにしてもEUにもロイドにまけないマッドサイエンティストがいたようだな」
いつものメンバーだけになったところでルルーシュは苦笑とともにそう言った。
「ですが、これほどの損害を与えられているのであれば見過ごせないかと」
ジノが即座にそう口にしている。
「相手もそれは同じじゃないかな?」
スザクが首をかしげながら言い返す。
「と言うより、ロイドさん並の変人がまだいたのかという方が問題だよ」
彼はさらに言葉を重ねた。
「常識では考えられない方策を採りかねないという訳か
確かに、とルルーシュが頷く。
「と言っても、私達はあまり深いところまでかかわるべきではないだろうな。マンフレディもそう考えてくれているらしいし」
「ひょっとして、首都に来いとか言われた?」
ルルーシュにそう問いかける。
「らしいぞ。この衣装も万が一そうなったときのために、と用意されたものらしい。帰る前には行かないといけないだろうがな」
面倒くさい、とルルーシュは吐き捨てた。
「ジノに押しつけて逃げ出す、と言う方法もあるが」
「それだけはやめてください!」
あそこは苦手なのだ、とジノが叫ぶ。
「ジノがそう言うなんて珍しいね」
「私にだって、苦手なものはある。あそこの儀礼は指先の角度から決まっているようなものだしな」
もちろん、ユーロの人間でも常に大公のそばにいるものでなければ多少の事は目こぼしをしらもらえる。
しかし、ブリタニア本国の人間としてはそれではいけないのだ。
「いっそのこと、クロヴィス殿下に迎えに来てもらえば?」
礼儀作法と言うことならば、彼が適任ではないか。そう思いながらスザクは口にする。
「そうだな。兄さんにとってもプラスになる。母さんに頼んでおこう」
ルルーシュはそう言って頷く。
「ロイドの所の施設を借りる。お前たちも付き合え」
それはパスしたいんだけど、無理だろうな。スザクはそう考えると小さなため息をつく。
「出来れば、今日はベッドで寝たいんだけどな」
そしてこう呟いた。
しかし、それに誰も頷いてくれない。つまり、二人とも無理だと考えているのだろう。
「後で覚えておいてよね、ジノ」
「何で私!」
「ルルーシュに八つ当たりなんて出来るか。ブリタニアに帰ってから、おいしいものを食べさせてくれるだけでいいよ」
そのくらいは得意だろう、と言外に告げる。
「わかった。うちが懇意にしているレストランを借り切ってみせる」
どこまで本気かはわからない。状況によってはまっすぐ日本に帰ることになるだろう。
「楽しみにしておくよ」
とりあえず、とスザクは口にした。
14.11.01 up