僕らの逃避行
27
マンフレディからもたらされたデーターを分析すれば、自分達の推測が当たっていることがわかった。
後はどうやって空からナイトメアフレームを落下させるか、だ。
「……多分だけどねぇ」
がりがりとペンの後ろで頭をかきながらロイドが口を開く。
「ルルーシュさまとスザク君が昔やってた遊びがヒントになっていると思うんだよぉ」
いったいどれのことだろう、とスザクは首をかしげる。ジノも同様だ。
「ペットボトルに水を圧縮して飛ばす奴、か?」
ルルーシュがかすかに首をかしげながら口にした。
「正解。それですよぉ」
そう言ってロイドは目を細める。
「おそらくですが、サクラダイトを使って大きな磁石のようなものを二つ作ったのでしょう。それの極を反発させれば……」
「勢いよく飛び出すと言うことか」
その光景を脳裏に思い描いたのだろう。ルルーシュがこう呟いている。
つまり、磁石のN極とS極が反発する性質を利用して空高く放り出すと言うことか。
「可能なんですか?」
スザクは思わずそう問いかけた。
「細かい数値は計算しないとすぐに出ないけどねぇ。不可能じゃないと思うよぉ」
と言うより、どうして自分がそれを思いつかなかったのか。彼はそう言いながら頭をかいている。
「まぁ、ラクシャータも気づいていなかったし、いいとしますけどぉ」
でも悔しい、と彼は付け加えた。
「それで対策はとれそうなのか?」
ロイドの意識を現実に戻そうというのか。ルルーシュはそう問いかける。
「そぉですねぇ……そのものを感知するセンサーは今しばらく無理でしょう」
これから開発しなければいけないというのであればそれは当然だ。
各国も宇宙という未知の世界には手を出していない。それを逆手に取られたと言うことなのだろうか。
「これからは頭の上にも気を付けなければいけないな」
そのようなものを大量に作られてはブリタニアはもちろん、日本にもいつ、誰が攻めてくるかわからない。
「それに関してはあの腹黒殿下に任せたらいかがですかぁ?」
予算との兼ね合いもあることだ。何よりもシャルルを説得しなければいけない。
そう考えれば、確かにシュナイゼルが適任だろう。
「後は……そうですねぇ。今までのパターンから推測するぐらいですねぇ。こちらならプログラムを作ればいいだけですから、手間はかかりませんよぉ」
主に撤退線で味方が有利になるように動くのだ。それならば、出没する地域は特定できる。
後は空を気をつければいい。
ロイドはそう言うが、それが一番難しいのではないか。
「……その状況が整えばジノも意趣返しが出来るだろうな」
ルルーシュが意味ありげに笑う。
「もちろんです。今すぐにでも再戦したいくらいです」
ジノはそう言って頷く。
「私にも意地はあります。何よりも、他の連中にあれこれ言われたくありません」
彼はさらにそう続けた。
「飛行型のナイトメアフレームの有効性も見せつけたいですし」
「だよねぇ。あぁ、ランスロットも飛ばせてあげたい」
ロイドのこのセリフにスザクは思わずため息をつく。その場合、苦労をするのは自分だ。でも、思いとどまってくれないのだろうとあきらめる。
「その前に初陣だよぉ! ルルーシュさま、最高の舞台を用意してください」
スザクにも箔をつけないと、と彼は続けた。
「……お前と話をすると、どう見てもスザクがランスロットの付属物だな。私にとっては逆だぞ」
「わかってますぅ」
ルルーシュの言葉に即座に彼はこう言い返す。だが本当にわかっているのかどうか疑問だ。
「スザクに危険が及ぶようなら、無条件で却下するからな」
いいな、とルルーシュは力を込めて続ける。
「それでも強行するようなら、兄上に頼んで予算停止だ」
「それだけはごかんべんをぉぉぉぉぉ!」
彼女の言葉を耳にしたロイドが悲鳴のような声を上げた。だが、ルルーシュはきれいにそれを無視する。
「とりあえず、急いで敵の出没パターンを推測するプログラムを作れ」
話はそれからだ、とルルーシュは続けた。
「状況次第では、予算増額の件を兄上に話してみてもいいぞ」
何と見事な飴と鞭なのか。
隙のない手際に感心するしかない。
「わかりましたぁ」
一気に浮上するロイドの様子を横目に、スザクはひたすらルルーシュに感心していた。
ロイドが忙しくしていてもランスロットの訓練はなくならない。
「いざというときにルルーシュさまを連れて敵陣を駆け抜けられる程度にはなっておかないと」
何か、昔読んだ戦記物に出てきた武将のようなことを求められているような気がするのは錯覚か。
「それは冗談にしても、いざというときにはお前にも出てもらわなければならないだろうな」
ため息とともにルルーシュはそう告げる。
「と言っても、ほとんどが私のいる場所のそばであれを立たせておくのが役目になる。戦場で実際に剣を振るうのは今回はジノの役目だ」
当面はだが、と彼女は続けた。
「……ルルーシュは大きな戦闘があると考えているの?」
スザクは眉根を寄せながらこう問いかける。
「あるな。それも近いうちに」
ルルーシュはそう断言した。
「了解。じゃ、そろそろ本気で動かしてみるよ」
操縦のしかたも機体のくせもわかってきたし、とスザクは笑う。
「……スザク?」
「なれない機体を本機で振り回して壊したら、後が怖いじゃん」
特にロイドが、と言外に付け加えた。
「そうだったな……お前も母さんと同じ人外だった」
ルルーシュがそう言うと苦笑を浮かべる。
「え〜! マリアンヌさんほどじゃないよ……多分」
未だに彼女には勝てる気がしないから、と続けた。
「あの方は、いくつになっても衰えると言うこととは無縁でいらっしゃる」
何か覚えがあるのだろう。どこかげんなりとした表情を作るとジノもそう言って頷いている。
「と言うことで、スザクの訓練には私が付き合います。本気を出されても何とか対処できると思いますので」
すぐに表情を作ろうと彼はこう言った。
「そうだね。ジノなら遠慮はいらないよね」
スザクはそう言って笑う。
「そう簡単に勝てると思うな」
「わかっているよ」
ジノにそう言い返すとスザクは立ち上がる。
「ロイドさんの牽制をよろしく」
こう言い残すと、そのままジノとともにその場を後にした。
とりあえず、トリスタンと同レベルの動きが出来ることが確認できたからいいことにしよう。ルルーシュのわきでセシルに縛り上げられているロイドの姿を見なかったことにして、スザクはランスロットを下りた。
14.11.29 up