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僕らの逃避行

28


 ジノの意趣返しの機会はすぐに訪れた。
「……問題は、敵の目標が森だと言うことか」
 飛行形態では動きが制限される、とルルーシュは呟く。
「マンフレディ卿が何か作戦を考えていらっしゃるのでは?」
 スザクはそう問いかける。
「だとしても、トリスタンの長所がつぶされることは事実だ」
 彼女はすぐに言い返す。
「空から来るのがわかっているんだから、待ち伏せすればいいんじゃないの?」
 森の中に逃げ込まれる前に襲撃してしまえばいいのではないか。そう続ける。
「確かにな。だが、それで撃破できるのは一機ぐらいなものだぞ」
 問題はそこだ、とルルーシュは言い返して来た。
「あのとき、全部で四機いたはずだ。だが、それで全部とは思えない」
 別働隊がいるのではないか。彼女はそう続ける。
「……その時はその時でいいんじゃない? あまり難しく考えると前に進めないよ?」
 それに、とスザクは言葉を重ねた。
「ジノならそんな状況でもちゃんと結果を出せるよ」
 出来なければ、ラウンズに選ばれるはずがない。その程度は信用している。この言葉にルルーシュは小さなため息をつく。
「そうだな。戦場は水物だ。あまり難しく考えても意味はないか」
 ルルーシュは苦笑とともに言葉を口にする。
「それに、マンフレディの部下にも手柄を取らせなければな」
 自分達だけが成果を出せば後々問題になるだろう。彼女は納得したように頷いている。
「そうなれば、ジノにはまずは空中で一機、確実に始末させることにするか」
 後は適時フォローに入らせればいい。ルルーシュはそう呟いている。
 おそらく、既に彼女の脳内ではいくつもの事態を装丁したパターンができあがっているはずだ。
「ここであれこれ考えていても仕方がないな。後はマンフレディと話し合うべきだろうな」
 言葉とともにルルーシュが立ち上がる。
「ジノもあっちだよね?」
「予定ではな」
 何か予定外のことが起きていなければ、の話だろう。それはわかっている。
「ロイドさんはおとなしいと思うんだけど……」
 自分がルルーシュのそばにいられるのだから、とスザクは心の中だけで付け加えた。
 それに、彼はジノのトリスタンにはあまり興味がないらしい。自分が設計したナイトメアフレームではないから、と言うのがその理由だろうとスザクは考えている。
「でも、ロイドだからな」
 それが理由になると思っているのか。ルルーシュはきっぱりと言い切る。
「セシルさんもいるし」
 止めてくれるんじゃないかな、とスザクは口の中だけで続けた。
「セシル頼みというのが不満だが、仕方がないか」
 特に今は、とルルーシュも少しだけ視線を泳がせながら口にする。
「あいつのことは放っておくことにして、だ。スザク、エスコートを頼む」
「わかっているよ」
 言葉とともにスザクはルルーシュへとてを差し出す。それに彼女は自分の手を重ねてきた。
「では、行くか」
 その言葉にスザクは頷く。そのまま歩き出した。

 幸いと言うべきか。ジノはマンフレディとともにいた。
「とりあえず、私は遊撃と言うことになりました」
 ルルーシュの顔を見た瞬間、彼はそう言ってくる。だが、その言葉を耳にしたルルーシュの反応は予想外のもんだったようだ。
「……お前は?」
 つまり、他にも誰か参加すると言うことか。ルルーシュは言外にそう問いかける。
「そちらの少年も参加するのではありませんか?」
 それに対する答えはマンフレディの口からもたらされた。
「……自分、ですか?」
 スザクは思わずこう言い返してしまう。
「そう、君だよ」
 それでいいのか。そう思いながらスザクはルルーシュを見つめる。
「スザクは騎士ではない、と言っていたが……どこで使うつもりなのだ?」
 話はそれを聞いてからだ、とルルーシュは口にする。
「アスプルンド伯からは、十分に実戦で手柄をあげられると聞いておりますが?」
 そして、ジノもそれに異論は挟まなかった。マンフレディはそう続ける。
「……ジノ……お願いだから、否定してよ……」
 スザクはそう呟く。
「やはりロイドか。一度、本気でお仕置きしておくべきだな」
 ルルーシュが低い声で呟いたセリフに、ジノだけではなくマンフレディも身を震わせている。
 この迫力がマリアンヌに似ているせいだろうな、とスザクは心の中だけで呟いた。
「……ともかく、陣のわきに発っているだけでもいいので、彼には参加してもらいたいのですが」
 マンフレディがおずおずと口を開く。
「それに関しては、事前に妥協している。ただ、私に何の話もなく勝手に決められたのが気に入らないだけだ」
 ルルーシュは実にイイ笑顔とともにそう言い返す。
「大丈夫です。スザクの所に敵が近づく前に私が片付けますから」
 ジノはジノでこう言ってくる。
「その時はよろしく」
 スザクにしてみればこう言うしかない。
「……どこまで当てになるかわからないがな」
 ルルーシュはルルーシュで微笑みながらこんな毒をはいている。
「ルルーシュさまぁ!」
「仕方がないだろう。ここは戦場だ。訓練通りに行くはずがない」
 何があってもおかしくはない、と彼女は言外に続けた。
「お前もだぞ、スザク。何よりも、お前は圧倒的に経験が足りないのだからな」
 それは否定できない事実だ。
「わかっている。出来そうと思っても無理はしない」
 即座にそう言い返す。
「こういうことだ。かまわないな?」
 視線をマンフレディに向けるとルルーシュはこう問いかけた。
「もちろんです。初心者を最前線に立たせるような事態にはしません」
 即座に彼はこう言い返してくる。
 もちろん、それが実行可能かどうかは状況による。だが、現状ではそれしか言いようがないこともわかっていた。
「期待している」
 ルルーシュは満足そうに微笑むとそう告げる。
「では、出撃準備を」
 その表情のまま、彼女はこう告げた。



14.12.27 up
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