僕らの逃避行
29
EUの部隊が撤退を始める。
いや、正確に言えば敗走だろう。
それをマンフレディ率いるミカエル騎士団が許すはずがな。即座に追撃を始めた。
「さて、連中はこの誘いに乗ってくるかな?」
ルルーシュが小さな声でそう呟く。
「今までのデーター通りでしたら出てくるでしょう」
マンフレディがそう言い返している。今、彼の体を包み込んでいるのはパイロットスーツだ。そのせいか、その鍛え上げられた筋肉がよくわかる。
「ジノ」
ルルーシュは彼の言葉に小さく頷くと、そばにいた相手に呼びかけた。
「Yes.Your Highness」
嬉しそうな表情で彼は前に進み出てくる。
「好きなだけ意趣返しをしてくるがいい」
「もちろんです」
そう言うと彼はきびすを返す。そのままG−1ベースを出て行く。
「地上に降りた者達は我らの獲物でよろしいのですね?」
それを見送っていればマンフレディの部下が問いかけてくる。
「もちろんだ。スザクは私の護衛だからな」
ルルーシュが即座にそう言い返す。
「貴殿らも連中には思うものがあるだろうし」
暗に、好きなように復讐しろと言っているのだろう。そして、スザクがルルーシュの《護衛》と言うのは正確ではない。ようやくランスロットを動かせるような自分にはまだ実戦は早いとルルーシュたちが判断したからだ。
だが、彼らにすれば彼女の言葉でスザクがここに残る理由は十分だったらしい。
「では、我らも出撃準備をしてまいります」
そう言うと彼を中心とした者達が出て行った。
「スザク、わかっていると思うが……」
「ロイドさんの《お願い》を無視すればいいんでしょう?」
ルルーシュの言葉にスザクは笑いながらこう言い返す。
「今も大騒ぎをしているらしいからな」
この言葉で現状が想像付いてしまう。
「後でセシルさんに何か差し入れないと」
「そうだな」
あのロイドを細腕で押さえているのだ。いくら慣れているとは言えそれなりの苦労はあると判断したのだろう。
「本国に戻った後で何か差し入れをしよう」
ルルーシュもこう言って頷く。
「ルルーシュが作ったプリンをロイドさんの前でみんなで食べるのが嫌がらせには最適なんだけど」
それをした後が怖い、とスザクは呟くように口にした。
「……それは別の機会にするべきだな。あるいは、一週間、セシルの手料理だけにするかだ」
「それは死活問題だと思うよ」
彼女の料理はあまりに独創的すぎてものすごい味になることが多い。おいしいと思えるのは一%あるかどうかだ。
「だからいいんだろうが」
ルルーシュはそう言い返してくる。
「ちゃんと食べるところを監視させるぞ」
サラに彼女はこう付け加えた。それはまさしく刑罰としか言いようがないだろう。
「……ロイドさんにとって予算削減とどちらがきついだろうね」
もっとも、それで懲りるとは思えないが。スザクは心の中だけで付け加える。
「ロイドだからな」
「相変わらずのようですな」
マンフレディが苦笑とともに口を挟んで来た。おそらく、彼もロイドに迷惑をかけられたことがあるのだろう。
「兄上が容認しておられるからな」
それが問題なのだ。ルルーシュは言外にそう続ける。
「それ以上にマリアンヌさんだと思うけどね」
絶対煽っているはずだ。スザクはそう確信している。
「……母さんだからな……」
「マリアンヌ様なら、あり得るか」
納得されて嬉しいのかどうか。それ以前に、それでいいのかと思わずにいられない。
「ここで暴れられないだけましと言うことにしておくか」
ルルーシュはそう結論を出したようだ。
「ともかく、だ。上空の様子を確認していてくれ。おそらく、敵は成層圏から降下してくるはずだ」
この場にいる者達に向かってルルーシュはそう告げる。
「わかりました」
それだけ出刃の空気が変わるのは流石と言うべきなのだろう。
「では、私も出撃の準備をしてまいります」
マンフレディがルルーシュに向かってこう告げた。
「やはり前線に出るか」
「ルルーシュさまがいらっしゃいますからな」
つまり、ルルーシュがいないときには我慢してG−1ベースにいると言うことか。そう言うところもマリアンヌの薫陶を受けているのだろう、とスザクは判断する。
「……全く、余計なところだけ母さんに似て」
同じことを考えたのか。ルルーシュがそうぼやく。
「仕方がありませんな。私はマリアンヌ様のそばで戦うことが多かったですし」
「ビスマルクは父上のそばにいるのが仕事だからな。それは当然だが……」
しかし、と彼女は続ける。
「それと部下の負担を増やすのは違うだろうが」
全くだと言うように周囲の者達が頷いているのが微妙に笑える。
「お前たち……」
「私は確かにブリタニアの皇女だが、彼らにしてみれば海のものとも山のものともつかぬ存在だぞ。それに預けられて安心していられると思うのか?」
マンフレディの言葉を遮ってルルーシュはそう言いきった。
「もちろん、部下を傷つけられてきたお前の気持ちもわかる。だから、今回は止めはしない」
ただし、と彼女はサラに言葉を重ねる。
「今回のことが終わったら、部下達をねぎらってやれ」
「もちろんです」
マンフレディはそう言って頷く。
「では」
「あぁ。武勲を祈る」
この言葉に頭を下げると彼もまた出て行った。
「僕もランスロットに行った方がいいのかな?」
彼の背中を見送りながらスザクは誰に問いかけるともなくこう言う。
「いや、いい。まだお前はここにいろ」
即座にルルーシュがこう言い返してくる。
「ランスロットのコクピットに座った瞬間、ロイドが騒ぐぞ」
他の誰かであればともかく、彼ならば絶対にやる。スザクにもそれは簡単に推測できる。だから彼女の言葉に頷くしか出来ない。
「それに、お前が早々に動いては周囲の者達が不安がる。ぎりぎりまで私のそばにいろ」
「わかったよ」
そんな彼女にスザクはそう言い返した。
15.01.24 up