僕らの逃避行
30
「上空にアンノン発見!」
不意に兵士がそう叫ぶ。
「皆に警戒を呼びかけろ! 分離するものがないか、さらに確認を頼む」
ルルーシュがそう指示を出す。それは間違っていないはずだ。
周囲にはマンフレディ達もいる。
ここはこの戦場では一番安全な場所であるはずだ。
それなのに、どうして首筋の後ろがちりちりとするような嫌な予感が消えないのだろうか。
「ルルーシュ」
それをどう伝えていいのかわからないまま、スザクは隣にいる彼女に呼びかける。
「どうした?」
「ランスロットに乗ってもいいかな?」
この言葉にルルーシュは秀麗な眉根を寄せた。
「何故だ?」
その表情のままルルーシュは問いかけてくる。
「何というか……勘?」
首をかしげつつスザクはそう言い返した。
「何かこう、ちりちりと嫌な予感がするんだよね」
だから、と続ければルルーシュは考え込むようにあごに手をやる。
「お前の勘は当たるからな」
やがて小さなため息とともに言葉を綴り出す。その様子はそうすることで自分の考えをまとめているようでもある。
「セシルさん達に来てもらえば、ルルーシュも安全だと思うし」
スザクはそうも口にした。
「わかった。そうしよう」
お前がそう言うなら、とルルーシュは頷く。
「ただし、出撃は私の許可が出てからだぞ」
「わかっているよ」
苦笑とともにスザクはそう言い返す。自分が敵に突っ込んでいっても的になるだけだとわかっている。
ただ、万が一のときに何も出来ないのはいやなのだ。
「ならばいい」
ルルーシュはそう口にすると同時にスザクの頬に触れてくる。
「だが、決して無理はするな。いいな?」
そのまま彼女はまっすぐにスザクの目を見つめながら言葉を綴った。
「もちろんだよ」
間髪入れず、スザクはこう言う。
「だから、ロイドさんを制止してね」
少なくとも、彼が通信に出ないように……と苦笑とともに言葉を重ねた。
「……善処しよう」
そう言いながら視線をそらしたのはどうしてなのか。確認した歩がいいのかもしれない。だが、ルルーシュに言いくるめられて終わりのような気もする。
それならば、時間を無駄にしない方がいいのではないか。
先ほどの感覚が次第に強くなっているのだ。
「じゃ、行くね」
それを悟られないように、と思っても無理だろう。それでも出来るだけいつもの声音で言葉を綴る。
「あぁ。とりあえず突っ立たせておけ」
「了解」
言葉とともにスザクもG−1ベースを出る。そのまま特派のトレーラーへと向かった。
「あら、どうしたの?」
スザクの姿を見つけたのだろう。セシルがこう問いかけてきた。
「ランスロットで待機です……何もなければいいのですが」
こう答えれば、彼女は何かに気づいたかのような表情を作る。
「それなら、私達はルルーシュさまのそばに移動した方がいいわね」
そして、すぐにこう口にした。本当に察しのいい人だ。スザクはそんな感想を抱く。
同時に、そんな人がどうしてロイドの副官に収まっているのか不思議に思う。だが、逆に言えば彼女でなければあのロイドの手綱を握れないのだろう。
「お願いしたいのですが……」
ロイドのことがなければ無条件で、とスザクは口の中だけで付け加える。
「大丈夫よ。とりあえず椅子に縛り付けておくから」
にこやかな表情でセシルはそう言い返してきた。
「と言うか、もう縛ってあるし」
「はぁ?」
「だって、うるさいのよ。さっきまでマンフレディ卿やらヴァインベルグ卿に絡んでいたの」
それは簡単に想像できる光景だ。しかし、いいのかとは思う。
「ロイドさんって、一応上官ですよね? セシルさんの」
おずおずと問いかけてみる。
「いいのよ。いつものことだから」
セシルはさらっと言い返して来ているが、内容はとんでもないと思う。
同時に、やはり彼女は怒らせない方がいいなと認識できた。
「ユーロの方が驚くだけですか」
「そういうことよ」
ロイドの評価が下がってもかまわない。と言うより、今より下がりようがないの、とセシルは笑う。
「はぁ」
それを言ってはロイドがかわいそうな気はする。だが、ロイドだからいいのか、と納得できることも事実だ。
「とりあえず、ランスロットを起動して、いつでも動けるようにしておきたいんですけど」
今までのやりとりの間で嫌な予感は消えるかと思っていた。だが、逆に強くなってきたと言うことは、G−1ベースの空気が問題だったわけではなさそうだ。
これは本物かと思いつつ、スザクは言葉を口にする。
何が出来るのかはわからないが、少しでも時間稼ぎが出来ればそれで十分だろう。後はジノ達が何とかしてくれるはずだ。
「わかったわ。スザク君はコクピットに」
「お願いします」
セシルに軽く頭を下げるとランスロットへ足を向ける。
その途中で簀巻きと言うにふさわしいくらい縛り上げられたロイドを見かける。しかし、あえて彼の存在を無視した。
幸いと言うべきか。
この場にいる者達は皆、ロイドのこんな様子は見慣れている。だから、気にする者は誰もいない。ついでに、ロイドにはしっかりと猿ぐつわがかまされているから、騒いでも外には聞こえないようだ。
これならば、後から無理は言われないだろう。
「データーぐらいはセシルさんが取っていてくれるだろうしね」
それで今は満足してもらおう。
さっさとランスロットのコクピットに体を滑り込ませながらそう考える。
「力を貸してね」
自分の力となってくれる愛機へそう声をかけるとシートへと身を沈めた。
手早く発進の準備を整えていく。これにもようやく慣れた。
『スザク君、G−1ベースの横で待機、だそうよ』
スピーカー越しにセシルの声が耳に届く。
「わかりました」
そう言いながら、ランスロットをトレーラーから出した。
まさにその瞬間だ。
『敵襲!』
悲鳴のような報告がコクピットないに響き渡った。
15.02.07 up