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僕らの逃避行

31


 視線を向ければこちらに向かってくる機体が確認できる。それらがレーダーに引っかからなかった理由も、すぐに理解できた。
「……ゴキブリみたい」
 手足の動きが得にと思う。しかし、それだけあって素早い。
「セシルさん! ロイドさんの縄をほどいてください」
 今は彼の変態的なまでのナイトメアフレームに対する好奇心が必要だ。そう判断してそう声をかける。
『了解』
 せいぜい役に立ってもらいましょう、と笑う声が聞こえた。いったいどのような表情で言っているのか。しかし、対象が自分やルルーシュでないのならばよし、と割り切ることにする。
「僕にできることは……時間稼ぎ?」
 とりあえず、と思いながらスザクはランスロットの操縦桿を握りしめた。
「何処までできるかわからないけどね。でも、できればやられる前にジノかマンフレディ卿が戻ってきてくれるといいんだけど」
 できれば、ルルーシュにはかっこわるい姿を見せたくはない。だが、自分が経験不足だと言うことも事実だ。
「やれるだけのことをすればいいよね」
 そう言うと同時に思い切り機体を前進させる。
「とりあえず、二・三機つぶせればいいかな」
 それ以上だと厳しいだろう。そう思いながらまずは一番G─1ベースのそばまで迫っていた機体へと襲いかかる。武器はヴァリスよりもソードを選んだのは、そちらの方が生身で使い慣れているからだ。
「いっそ、これも太刀の形にしてもらった方がよかったかな」
 せめて片刃か、と思う。
 だが、今はそんなことをいっている場合ではない。
「まずは一機!」
 言葉ととも相手の足にソードをたたきつけるように切りつけた。
「……えっ?」
 それは後退すると形を変える。
「変形するんだ」
 それについてはどうでもいい。問題はその反応の仕方だ。ランスロットのソードは相手の右足を傷付けていた。その状況で変形をしようとしたからか、その傷がさらに広がっている。
「こいつ、反応が遅れた?」
 パイロットが乗っていればあり得ない反応だ。
「セシルさん! ロイドさんでもいいですけど」
『はいはぁい。ご指名かなぁ!』
 どうしてこの状況でそんなセリフを口にできるのか、この人は。一瞬、怒鳴りつけたくなる。だが、今はその時間も惜しい。
「こいつら、無人機かもしれないんで、確認してください!」
 多分、近くで指示を出している者がいるはずだ。言外にそう告げる。
『わかったよぉ! だから、もう少し頑張ってねぇ。あぁ、できるだけ無傷で残しておいてね』
「何なんですかぁ、そんな無茶ぶり!」
 この状況でハードルあげるな! とスザクは叫ぶ。
 同時に何か鈍い音がスピーカーから響いてきた。
『スザク君、ごめんなさい。とりあえず、スザク君の無事が最優先だから』
 その後に続いたのはセシルさんの声だ。それでだいたいの状況が飲み込めた。
「わかりました。でも無人機なら命令を受け取る場所さえ壊せばいいんですよね?」
 頭かあるいはこちらのナイトメアフレームと同じで背中だろう。そう思いながら聞き返す。
『そうだと思うよぉ』
 さすがはロイド。もう復活している。そうつぶやいている声はルルーシュの者だろうか。
「わかりました」
 とりあえずアニメの定番、頭上のアンテナもどきをたたき折ってみよう。そう考えるとどうにスザクはランスロットを動かす。
 どうやらここ数日の特訓でなんとか思い通りに動かせるようになっているらしい。それでも、手足のようにとは行かないのがもどかしいところだ。
 ジノあたりならもっとうまく動かせるのかもしれないが。そのあたりは経験の差だから仕方ないのだが、と思う。
「それでも、ルルーシュを傷付けさせないことはできる」
 言葉とともにソードを振るう。
「しまった!」
 どうやら狙いが甘かったらしい。アンテナではなく頭部を半分切り飛ばしてしまった。
 次の瞬間、無人機は動きを止める。
「……頭部を破壊すれば止まるか」
 それならば無駄な時間を省けるな、と倒れていく機体を見つめながらスザクはつぶやく。
「と言うことで、次!」
 獲物を探さなくても次から次と襲いかかってくる。
 おそらくだが、近くに指揮官がいるのだろう。
「ったく……ジノはいつ帰ってくるんだよ!」
 そうすれば指揮官の機体を見つけてもらえるだろうに、とつぶやく。
「マンフレディ卿でもいいんだけど」
 新たな機体を切り伏せながらそう続けた。
「しかし、真っ赤だな」
 敵味方の識別信号を確認しているのだが、モニターに映るそれは見事に真っ赤だ。
 だからといってここを逃げ出すわけにはいかない。
 この場にいた他の護衛の機体はすでに敵に囲まれて身動きがとれなくなっている。ここで自分まで動けなくなれば、ルルーシュ達のいるG─1ベースが危険にさらされるのはわかりきっていた。
 だから、と思いながらスザクはソードを振るい続ける。
「本当にゴキブリみたいだ」
 そんなことをつぶやいたときだ。今までとは微妙に装備の違う機体が確認できた。
「あれが指揮官機かな?」
 なぜそう思ったのかはわからない。それでも、あの機体は有人だと思えたのだ。
 ならば、あれを早々に片付ければ無人機の動きが阻害されるはず。
 しかし、ここからではすぐに攻撃できない。
 どうするべきか。
 そう考えたときだ。別にソードで攻撃しなくてもいいだろうと思い当たる。
 幸か不幸か、ランスロットには遠隔攻撃できる装備もつけられているし、と続けた。
「ロイドさんのことだから、使わないと後であれこれやらされるし」
 口の中でそう付け加えると、スザクは片腕をその機体に向かって差し出す。そのままスラッシュハーケンを打ち出した。
 それに気がついたのだろう。相手の機体はその場を離れようとする。
 スザクは反射的にスラッシュハーケンのブースターを操作して軌道を変えた。
 予想外の動きだったのか、相手の機体の反応が遅れる。同時にスラッシュハーケンのワイヤーが相手の足に絡みついた。
「今だ!」
 スザクはそのままワイヤーを巻き取り始める。
 ランスロットの機体を持ち上げることはもちろん、それによって跳躍させることすら可能だと言うそれは、あっさりと機体を引き寄せた。
 だが、それをさせじとドローンが押し寄せてくる。
 もっとも、それは味方の機体との戦いを中断させることと同義だ。
 そして、戦いなれているパイロット達がそれを見逃すはずがない。即座に攻撃を加えていた。
『スザク君! 背中がコクピットだから、パイロットを引きずり出して』
 ロイドの声は耳に届く。
 反射的にそれに従っていたのは失敗したかもしれない。
「……ロイドさん、こいつ……」
 引っぺがしたハッチの下にいたのは、自分たちとそう年齢の変わらない少女だった。



15.02.28 up
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