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僕らの逃避行

32


『スザク! 避けろ!』
 一瞬、思考が停止していたのだろう。周囲への警戒が甘くなった。
 それを叱咤するようなルルーシュの声が耳に届く。
 反射的にそばにあった機体を振り回すようにして位置を変えた。
 同時に今まで自分がいた場所に砲弾が撃ち込まれる。
『狙撃用のナイトメアフレームが近くにいるねぇ』
 ロイドがどこかのんびりとした口調でそう言ってきた。
「わかってます!」
 銃弾が飛んできた方向と角度から大まかな一は推測できる。だが、一機だけとは限らない以上、うかつな行動はとらない方がいいだろう。
 実際、と思いながらスザクはランスロットがつかんでいた敵の機体を放した。
 その瞬間、コクピットにいた少女が転げ落ちるように抜け出る。
「あっ!」
 そのまま銃弾が飛んできた方向へとかけだした少女に向かってスザクはマニピュレーターを伸ばす。それを遮ろうとするかのように白い機体が現れた。
 ランスロットと同じ色を纏っているはずなのに、なぜか昏い印象を与えるそれにスザクは目を細める。
 この機体から伝わってくるのは間違いなく殺気だ。
 それが昏い印象を与えるのだろう。
 つまり、とスザクは言葉をはき出す。
「……これにはパイロットが乗っている……」
 それもかなりの手練れだ。
 自分とは違って戦場を経験している。
「勝てる、かな?」
 自分にそう問いかけた。
 相手から伝わってくる気配や何かと言った目に見えないものを探る。
「……最低でも相打ちには持って行けるな」
 そして、こう結論を出す。
 もっとも、うかつに動けないと言うことも否定できない。
 勝敗を決するのは一瞬だろう。
 剣道の試合をしているような緊張感に包まれる。
 同時に、自分の精神が高揚していくのを自覚していた。
 すでに周囲の雑音は脳裏から排除されている。
 逆に相手の動きに意識を集中させていく。
 ただ、相手が生身でないだけに気配がつかみにくい。これに関しては経験を積めばなんとかなるのだろうか。
 なんとかなってくれないと困るな、と心の中だけで付け加える。
 こんなことを考えているのは、そうでもしていないとこの緊張感に耐えられないからだ。本当にぎりぎりのところに自分たちはいる。
 もし、ここで何か──本当に小さな昆虫でもかまわない──邪魔者が入ったならば、この場は崩れるだろう。
 それがいつなのか。
 そんなことを考えたからだろうか。
「っち!」
 ランスロットと敵の機体の間を一発の銃弾が切り裂く。
『スザク!』
 ルルーシュの悲鳴のような呼びかけが耳に届いたときにはもう、スザクはランスロットを後方へと移動させていた。
 先ほどまでランスロットがいた場所にはまるで雨あられのように銃弾が降り注いでいる。その間に、敵機はあの少女を保護すると撤退していく。
「追いかける?」
 やはり彼女は重要人物だったか。そう思いながら問いかけた。
『いや、いい。後はマンフレディに任せておけ』
 と言うことは、彼らも近くまで来ているのだろう。その事実に、少しだけ肩から力が抜ける。
『それよりもぉ、スザク君。それ、持ってきてよぉ!』
 安定のロイドの声が耳に届く。
『お前は黙っていろ! まだ、戦闘が終わったわけではない』
 そんな彼をルルーシュがしかりつけている。
「とりあえず、近くにはいないようだけど……」
 もっとも、どこからか狙われているかもしれないが。そう思いながら周囲を確認する。しかし、ランスロットが確認できる範囲内に敵はいない。それでも、まだ自分たちを狙っている目があるのが感じられた。
 ただ、今すぐそれは自分たちをどうこうする気がないのは事実だろう。
 あるいは、仲間達が安全圏まで退避するのを待っているのかもしれない。
 どちらにしろ、うかつには動けないと言うことだ。
『わかっている』
 ルルーシュの声も低くなる。
「ここにジノがいればよかったんだけどね」
 いない以上、そうぼやいても仕方がない。
『一応、先ほど狙撃してきたと思われるポイントは指示しておいた。後は自分で判断するだろう』
 それにルルーシュはこう言い返してくる。
「だといいけど……」
 スザクは小さなため息とともに言葉を綴った。
「その前に敵襲だね。今度はパイロットが乗っているか」
 先ほどまでの機体とは違う。データーの中にあったEUのナイトメアフレームだ。しかも、あの動きから判断して、パイロットとしての練度も彼らに劣る。
「とりあえず、片付ければいい?」
 勝手に行動するのはまずいだろう。そう判断をして問いかけた。
『無理だけはするな』
「わかっているよ」
 言葉とともにスザクはまたランスロットを出撃させた。

 結論から言えば、二度目の戦闘を終えるまでさほど時間はかからなかった。マンフレディとともに出撃していた者達が戻ってきたからだ。
 その事実にほっとしたのは自分だけではないだろう。スザクはそう思う。
「とりあえず、疲れた」
 コクピットから降りながらそうぼやく。
「ご苦労様。コーヒーを用意してあるわ」
 セシルがそう声をかけてくれる。その気持ちはうれしい。うれしいのだが、うかつに喜べないのは、彼女の創作料理の威力を知っているからだ。
「私が淹れようと思ったんだけどルルーシュ様に用意させてしまったわ」
 この言葉にほっとしたことは内緒にしておいた方がいいだろう。
「ロイドさんは?」
 そういえば、真っ先に押しかけてくると思われた相手の姿がない。その事実に不審を覚えて問いかける。
「あちらが残した機体を分析しているわ」
 それこそ喜んで、とセシルは続けた。
「そうですか」
 こう言い返すしかない。
「ともかく、ルルーシュのところに行ってきます」
 だからセシルはロイドの監視を、と言外に付け加える。
「その前にランスロットのチェックね。ロイドさんがあれこれ言い出す前に終わらせておくわ」
 小さな笑いとともにセシルが言い返してきた。それよりも、と彼女は言葉を重ねる。 「体調がおかしくなったらすぐに誰かに言ってね?」
 初陣であるスザクを心配してくれたのだろう。
「はい」
 素直にうなずくとスザクはその場を後にした。



15.03.15 up
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