僕らの逃避行
33
「敵には逃げられたがこちらの推測が当たっていたとわかっただけでも十分だろう」
ルルーシュがそう告げる。
「新型も入手できましたし、我々の面目も立ちましたな」
マンフレディが何処か安堵したような声音でそう言ってきた。
「そう言ってもらえてなによりだ。私も本国に戻って母上に怒られずにすむ」
苦笑と共にルルーシュがそう言い返す。
「確かに。僕も殺されずにすみそうだよね」
スザクもそう言ってうなずいてみせる。
「お前は大丈夫だろう?」
何を言っているのか、と言うようにルルーシュが首をかしげて見せた。
「結局、ルルーシュを危険にさらしちゃったからね」
最低でも特訓が待っているだろう。少し遠い目でスザクはつぶやく。
「それは……」
「……死にそうだな、確かに」
同じ目に遭ったことがあるのか。ジノとマンフレディが同時に視線をそらす。
「大丈夫だろう。一番最初にロイドが〆られるだけだ」
苦笑を浮かべながらルルーシュが割って入ってくる。
「その間にお前は日本に戻ればいい。あぁ、私も一緒に行った方がいいか。神楽耶様達に謝罪せねばならんからな」
スザクを危険にさらしたことで、と彼女は続けた。
「それは最初から覚悟の上だから」
自分だけではなく周囲の者達も、と笑い返す。
「ルルーシュを見捨てたりしたときの方が怖いくらいだ」
それこそ、社会的に抹殺される。そう付け加える。
「でも、お前は私を見捨てなかっただろう?」
「当たり前じゃん。ルルーシュを守るのは僕の権利で義務だから」
ランスロットを押しつけられるのは予想外だったが、と続けた。
「まぁ、それは……」
「ロイドが来た時点であきらめるしかないな」
「……マリアンヌ様に気に入られた時点であきらめるべきだろうな」
口々にこう言われてしまう。
「毎回毎回思うんだけど、マリアンヌさんってみんなに愛されているよね」
同じくらい怖がられているけど、とスザクは心の中だけで付け加えた。
「ブリタニアではすでに伝説の方だからな」
「あの方ほどブリタニアの国是を体現されている方はいない」
ジノとマンフレディはうなずきながら言葉を綴る。
「そうでなければ、ただのはた迷惑だ」
ルルーシュは辛辣なセリフとは裏腹な柔らかい表情を浮かべていた。
「振り回されるのも楽しいんでしょう?」
「程度によるな」
本当に素直ではないんだから、とスザクは思う。
「まぁ、矛先が自分に向かなければいいだけだし……」
シャルルを人身御供に差し出せばいいだけだ、と言うセリフは問題だろうが。
「あぁ、気にするな。あのロールケーキはそれも喜んでいるからな」
それはそれで問題ではないのか、とスザクは苦笑を浮かべる。
それに気付いたのだろう。ルルーシュが口を開く。
「それ以外は有能らしいからな。多少の瑕疵は気にならないらしい」
何よりも、と彼女は言葉を重ねる。
「シュナイゼル兄上とコーネリア姉上を筆頭にそんな母さん大好き同盟が皇族内で発足しているからな」
誰もストッパーになってくれない。ルルーシュはため息をつく。
「甘いですよ、ルルーシュ様」
「軍の中にはもっと大きな組織があります」
さらに二人が追い打ちをかける。
「それにユーロにも、だっけ?」
本当、マリアンヌが皇帝の座に座ってシャルル以下がその補佐、と言うのが一番いいのではないか。そうなればユーロも無条件で見方をしてくれるような気がする。
「……本当、最強だよね、マリアンヌさん」
それを指摘する代わりにスザクはこう言って曖昧な笑みを浮かべた。
「そうだな」
もっとも、とルルーシュはため息をつく。
「その代わり、女性として最低限の才能も与えられなかったが」
せめて自力でお茶ぐらい入れてくれ、と彼女はそうつぶやいた。
「……いいじゃん。代わりにマリアンヌさんには下僕がたくさんいるんだから」
あの調子なら、おそらく小学校に通い始めてからすぐにお世話係という名の下僕が生まれていたに決まっている。似たような実例を見ているから推測は難しくない。
「あまり良くない。おかげで母さんがグレードアップするんだぞ」
自分たちの教育までマリアンヌから取り上げようとしているのではないか。そう考えることもある。ルルーシュはまた深いため息をつく。
「そのあたりはルルーシュが頑張るしかないんじゃない?」
ナナリーでは役者不足だから、とスザクは言う。
「……仕方がない。体力仕事は請け負うよ」
死なない程度に、と苦笑と共に続けた。
「すまない」
「他に人身御供を出せればいいんだけどね」
謝るルルーシュの肩をたたきながらスザクはさりげなくジノへと視線を向ける。
「付き合ってよ、ジノ」
「……すまん、パス」
「友達だろう?」
「マリアンヌ様の特訓を耐えきれる自信がない」
そう言われて苦笑を浮かべるしかできない。しかし、こちらとしても死活問題なのだ。
「ルルーシュ。陛下に頼んでみてよ」
一人よりは二人の方が一人あたりの被害が少ない。そう思いながらスザクはルルーシュに声をかけた。
「そうだな。少し鍛え直した方がいいかもしれんな、ジノも」
ルルーシュが嗤いながらそう言う。
「良かったな、マンフレディ。ユーロに移籍していて」
「……確かに」
深いため息と共に彼はうなずく。
「もしラウンズのままでしたら、しばらく寝込む羽目になったでしょうな」
それに比べれば今後の書類仕事の方が楽だろう。彼はそう続けた。
「その前に、ルルーシュ様方には一度、大公主催の夜会に出ていただかないと……」
どうあっても、彼は視線で告げてくる。
「早々に逃げ出すからな。それでもいいなら妥協しよう」
深い深いため息と共にルルーシュがそう言い返す。
「十分です」
とりあえず夜会の会場周辺の地図がほしいな。二人の顔を見つめながらスザクはそんなことを考える。でも、そこから逃げ出すような羽目にはならない方がいいのだろうけどとも付け加えていた。
15.05.02 up