アリエス宮襲撃事件で足にケガをしたのはナナリーではなくルルーシュという設定になっています。
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始まり

『日本で、友達が出来たんだ』
 嬉しそうにこう報告をしてくれたのは、つい先日のことだった。
 それなのに、とビスマルクは拳を握りしめる。
「もう一度、言ってくれないか?」
 今の報告を、と彼はそのまま側にいた士官へと命じた。
「は、はい……」
 自分では冷静なつもりだったのだが、実はそうではなかったのか。その士官は表情を強ばらせながら、頷いてみせる。
「テロリストがアリエス宮を襲撃。マリアンヌ様が逝去なされました」
 ルルーシュはナナリーをかばって重体だ、と痛ましそうに彼は告げた。
 いや、彼だけではない。この場にいる者達がみな、悲嘆にくれた表情をしている。
「……まさか……」
 彼等の表情から判断して、それが嘘だとは思えない。
 貴族や皇族には疎まれることが多かったマリアンヌだが、軍人や平民の人気は高かった。この場にいる者達の中には、彼女にあこがれて軍に入ったものも少なくない。
 何よりもこの状況でそのようなことを口にする愚か者がこの場にいるとは考えられなかった。
「……ともかく、その情報はこの場だけでとどめておけ」
 今は、とビスマルクは続ける。
「Yes,My lord」
 この一言で表情を引き締めるのは流石、と言うべきだろうか。
「早々に片を付けて、戻るぞ」
 そして、自分の目で状況を確認したい。特に残されたルルーシュとナナリーの様子をだ。
 最大の庇護者であったマリアンヌがいなくなってしまった以上、あの二人がどのような状況に置かれているか。
「……陛下がおられるから、心配はいらぬ、と思いたいが……」
 しかし、彼も表だって動けない立場だ。
 何よりも、マリアンヌを失って心細く思っているに違いない。だから、とビスマルクは真っ直ぐに前を見つめた。
「私も出る」
 今までは、他の者達に経験を積ませるために指揮を執るだけにとどめていたが、もう、そうも言っていられない。
 それに、と彼は敵陣をにらみつける。
 理不尽と言われるかもしれない。だが、この感情を誰かにぶつけずにはいられないのだ。だから、諦めて貰おう。
 そのまま、彼はきびすを返した。

 数時間後、その場には破壊の痕だけが残された。

 宮殿内を足早に進んでいく。目的地は、もちろん、シャルルがいるであろう場所だ。
 もちろん、それをとがめるものは誰もいない。邪魔されることなく、ビスマルクはシャルルの前まで進み出た。
「……陛下」
 そして、その場に膝を着く。
「あれが身罷った……」
 虚無に満ちた声。
 おそらく、それが彼が《マリアンヌ・ヴィ・ブリタニア》と言う存在を惜しんでいるからだろう。それが愛情なのか、それとも別の感情なのか。できれば、前者であって欲しいと思う。
「……存じております……」
 口惜しさを隠すことなくビスマルクは言葉を返す。
「お前がおらぬ時期を見計らってのことか」
 それとも、と彼はため息をつく。彼の体が一回り小さくなったような気もする。
「陛下」
 あるいは、疲れているのかもしれない。そう思いながらビスマルクは彼に呼びかけた。
「此度のことの後始末。私めにお任せ頂けますでしょうか」
 そして、こう続ける。
「いや、その必要はない。既にシュナイゼルとコーネリアが動いておる」
 あれらのプライドのためにも、傍観しておくのがよいだろう。そういわれては反論も出来ない。
「それよりも……」
 珍しいことに、シャルルが悩むようなそぶりを見せた。
「何でございましょう」
 自分に出来ることか、と口にすることで、彼に次の言葉を促す。
「……ルルーシュの様子を見てくるように」
 彼も、ビスマルクが側に行けば、安心するかもしれない。その言葉は願ってもないことだ。しかし、それだけではないように思える。
 いったい、彼は自分に何を望んでいるのか。
 そう考えて、ある可能性に行き着く。
「陛下」
 間違っていたとしても、それはそれで構わない。己の言葉で不快になるような事はないはずだ。そう考えて、ビスマルクは口を開く。
「恐れながら、お願いしたきことがあります」
「言うてみよ」
 ナイト・オブ・ワンであるビスマルクにはその権利がある。そう彼は続ける。
「では……ルルーシュ様とナナリーさまのお二人を、私にお預け頂けますでしょうか」
 マリアンヌが生きていればそのようなことは考えなかった。だが、今、彼女はこの世にはいない。アッシュフォードにしても、彼女がいなくなった今、あの二人にどれだけ援助の手を差し出してくれるだろうか。
 そのことで心配するよりも自分で二人を守った方が安心だ。
「……よかろう。好きにせよ」
 こう告げるシャルルの表情に安堵の色が見え隠れしているのは錯覚か。
「御意」
 だが、それは自分も同じだ。安堵の気持ちを抱えながら、ビスマルクは深く頭を下げた。

 退院したルルーシュを出迎えてくれたのは、兄でも姉でも……もちろん、父でもなかった。
 それは覚悟していたと言っていい。
 己の足で立つことが出来なくなった彼を庇護しようとするものなど、いるはずがない。増して、自分たちは母を失ったのだ。
 だから、よくて皇籍剥奪。最悪の場合、捨て駒とされるのではないか、とルルーシュかは考えていた。
「……僕たちは、一体どこへ?」
 せめて、ナナリーだけは守らなければ。そう考えながら迎えに来た兵士に問いかける。
「お二方の新しい保護者となられる方の所へ、です」
 即座にこんな言葉が返ってきた。と言うことは皇族ではなく、どこかの貴族に養子として預けられるのだろうか。
 しかし、とルルーシュは車窓の外に広がる光景を見ながら考える。この光景は、見覚えがあるなどと言うものではない。しかし、自分たちは滅多に足を踏み入れることを許されない場所のものでもあった。
 しかし、車は真っ直ぐにその場へと向かっていく。
「……お兄さま……」
 ナナリーもそれに気付いたのだろう、不安そうな表情を隠せずにいた。
「大丈夫だよ、ナナリー」
 自分がいるから、と口にするものの、ルルーシュ本人も不安を隠し切れていない。しかし、ここで自分が不安を顕わにすれば彼女の精神状態がさらに不安定にしなってしまうだろう。だから、とルルーシュは必死に自制をする。
「僕はここにいる」
 だから、と口にしながら、妹の体をそっと抱きしめた。
 その間にも車は進んでいく。そして、それは太陽宮にほど近いところで止まった。
「……ここは……」
 確か、ラウンズが使用している離宮ではないか。そこに何故……とルルーシュは首をかしげる。
「お待ちしておりました、ルルーシュ様、ナナリー様」
 不意にドアが大きく開かれた。そして、そこからビスマルクが顔をのぞかせる。
「ビスマルク……」
「これからは、私めがお二人の後見をさせて頂きます」
 ですから、と付け加えられて、ルルーシュは思わず目を丸くした。
「本気で、そういっているのか?」
「もちろんでございます」
 だから、安心してくれ。そう告げる彼の表情に嘘はない。だから、それが真実なのだろう。
「僕たちを後見しても、何の益にもならないだろうに」
 思わずこう告げれば、彼は苦笑を浮かべる。
「私には、お二人の存在は必要なのですよ」
 だから、と付け加える彼の手に、ルルーシュは自分のそれを重ねた。
「苦労をしても、知らないぞ」
「望むところです」
 言葉とともに彼はルルーシュの体を軽々と抱き上げる。そして、それとは反対の手をナナリーへと差し出した。
「ご案内致しましょう」
 その言葉と、抱き上げる腕の力にルルーシュは安堵のため気を付く。そして、おずおずと彼の肩に自分の腕をのせた。




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08.09.29up