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真夏の蜃気楼

02


 あれはいったい誰なのか。
 それよりも、とスザクは前に飛び出そうとする。
「来るな!」
 だが、それをルルーシュが止めた。
「ナナリーをつれて逃げろ!」
 さらに彼はこう告げる。
「でも!」
「いいから! あの子が捕まる方がまずい」
 あの子は女の子だ、とルルーシュは叫ぶ。その言葉にスザクは足を止めた。
 こういうとき、捕まった女の子がどのような運命をたどるか。
 そのくらいスザクだって知っている。本当に年齢なんて関係ないのだ。まして、ナナリーは自分一人では逃げることも出来ない。
 しかし、ルルーシュを見捨てるなんて、と言う気持ちも否定できないのだ。
「いいから、行け!」
 厳しい声が奥から飛んでくる。
「でも……」
 君をおいてはいけない。スザクはそう続けようとした。しかし、その前にルルーシュは奥へとかけ出していく。
「ルルーシュ!」
「お兄さま!!」
 意識を取り戻したナナリーも何かを感じ取ったのか。それとも恐怖を感じているせいかもしれない。ルルーシュを呼ぶ。
 しかし、彼は足を止めることすらなかった。
「スザクさん、お兄さまは?」
「……わからない。柱が倒れてきて分断されてしまったから……」
 とっさにこう口にしたのは彼女を少しでも不安にさせないためだ。
「さっきまで声が聞こえていたから無事だとは思うんだけど……」
 この火の勢いでは向こうに行くことも出来ない。そう続ける。
「外から回るしかないから、ナナリーも一緒に行こう?」
「ですが、私は……」
「大丈夫。俺が背負ってく」
 二人でルルーシュを探そう。そう口にしながらもそれは不可能だろうと考えていた。
 おそらくルルーシュは今頃捕まっているだろう。
 追いかけていたのはブリタニア人ではなかった。これはスザクのカンだが日本人でもないだろう。
 おそらくだが、中華連邦の人間ではないか。
 澤崎があちらの人間と会っていたらしいと聞いたことがあったからの推測だ。正確には、推測したのはルルーシュで、そこからの連想だ。
 そんなことを考えている間にナナリーが背中に体重を預けてくる。
「ナナリー、しっかりとつかまったな?」
「はい」
「じゃ、行くぞ!」
 そう声をかけるとスザクは走り出す。
 とりあえずナナリーを安心して預けられる人間を探そう。それからルルーシュを助けに戻るしかない。それも出来るだけ早く、だ。
 問題は、とスザクは続ける。
 いったい誰を頼ればいいのか。それが自分では判断できないことだ。
 顔見知りの人間だっていつ裏切るかわからない。
 ルルーシュならきっとすぐに判断するだろうし、と唇をかむ。
 自分なら二人を守れる。そう思っていたのはルルーシュの判断があったからだ。その事実を目の前に突きつけられた様な気がした。
 それでも、と前を見つめる。
 任された以上、ナナリーだけは守ってみせる。
 ただそれだけをつぶやいていた。

「ナナリー様!」
 目の前に現れた人物は信頼していいのだろうか。
「ナナリー……知り合い?」
「この声は……お姉様の騎士ではないかと」
「信用していい?」
「たぶん」
 ナナリーに問いかければこんな答えが返ってくる。
「わかった。ナナリーをお願いします」
「スザクさん!」
「俺はルルーシュを探しに戻る。ナナリーは安全なところにいてくれ」
 自分では二人も守れない。だから、とスザクは続けた。
「スザクさん、ですが……」
「約束したし」
 無駄かもしれない。それでも、自分の目で確認しなければ納得できないのだ。だから、とスザクは告げる。
「では、私も!」
 即座にナナリーがこう言い返してきた。
「ダメだよ。ナナリーは安全なところにいて」
 そう言うとスザクは彼を見つめる。
「お願いします」
 その言葉に目の前の彼は少し考え込む。
「ナナリー様を預かるのはかまわない。しかし、君も一緒に連れてくるようにと言われているのだが……」
「ルルーシュを迎えに行かないと行けないんです!」
 ナナリーを降ろしながらスザクは言い切る。
「だから、後はお願いします」
 そう告げるとスザクはきびすを返す。そしてさっさと走り出した。
「君! 誰か彼についていけ!!」  ナナリーを保護しなければいけない。しかし、スザクを放っておく訳にもいかない、と彼は葛藤したのだろう。次善策として彼は周囲にこう命じた。
 しかし、初動で遅れた彼らがスザクに追いつける訳がない。さっさと振り切るとスザクはまっすぐに自分達がいた屋敷を目指した。

 しかし、そこにルルーシュはいなかった。



20.07.13 up
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