真夏の蜃気楼
03
呆然としていたスザクを保護してくれたのは桐原の手の者だった。そのまま彼は桐原の所へと連れて行かれた。
「ルルーシュが……俺たちを逃がすために……」
「……そうか」
スザクの言葉に桐原は小さくうなずく。
「だが、儂らには何も出来ぬ」
残念だが、と彼は続けた。
「今我らが動けば神楽耶を危険にさらす。それは許されることではない」
何よりも、と桐原がため息をつく。
「おぬしにはブリタニアの矯正施設に行ってもらわなければならぬ」
申し訳ないとは思うが、と言われてスザクは唇をかんだ。
「俺が父さんの息子だから?」
この戦争の責任を押しつけられたのは父だ。しかし、父は死んでいる。だから自分が償わなければいけないと言うことだろう。
ばかばかしいとは思うが仕方がない。
今まで好きかってさせてもらったと言う自覚はあるのだ。
「そうじゃ」
桐原はそう言ってうなずく。
しかし、目の前の人間からあっさりと告げられると微妙な感じがするのはなぜだろうか。
「結局、アンタも身内がかわいいと言うことか」
自分と神楽耶はいとこ同士だ。自分の母が神楽耶の父の妹だから当然だろう。しかし、桐原とは違う。神楽耶の母が来いり腹の娘なのだ。だから自分の孫でもある神楽耶がかわいいのだろうと思う。
「神楽耶とアンタは祖父と孫だけど、俺とは違うもんな」
ため息交じりにそう告げる。
「そう言うわけではない」
慌てて桐原はそう言い返してきた。
「ゲンブの息子であるお前の命が心配だからだ」
さらに彼はこう付け加える。
「意味がわからない。父さんの子供だとどうして命の危険があるわけ?」
今更なんの心配があるというのか、と相手をにらみつけた。
「……大人の世界のことだ」
お前に話しても理解できないだろう。その言葉にスザクはますます怒りを覚える。
「わかるかわからないか、聞かないと判断できないだろう」
第一、とさらににらみつけた。
「子供だからって何でも『はいはい』と聞くと思うな!」
そしてこう口にする。
「もういい。矯正施設とやらに行けばいいんだろう! あんたらは枢木を切り捨てて自分達だけは助かると。そういうことかよ」
矯正施設がどんなところか。スザクの耳にも届いていた。
そこで子供一人が生きていけるかどうか。そのくらいは彼もわかっているはずだ。
「それでも、だ。反逆者として死ぬよりは万が一の可能性にかけた方が良かろう」
あそこならば、少なくとも処刑されることはない。桐原は先ほどの暴言を聞かなかったように静かに告げる。
「お前を担ぎ上げて日本を取り戻そうとするもの達がおる」
それらの手からお前を逃がすにはそれしかない、と桐原は言う。
「それに、ブリタニアの手の中におる方が安全だろうて」
だからといって切り捨てられたことには変わりがないだろう、とスザクは心の中でつぶやく。
「大人達の勝手な都合で振り回さないでほしいよな」
スザクはそう言うとさっさと立ち上がる。
「ともかく、あんた達は自分のために俺を切り捨てた。それだけは変えようのない事実だろう? なら、後は勝手にするさ」
そう告げると彼はきびすを返す。
「とりあえず、ブリタニア政庁に言っておとなしく矯正施設に行ってやる。後は俺に接触するなよ」
こう言い残すとさっさと桐原の前から離れる。
もうここに来ることもないだろう。いや、絶対に来ない。心の中でそうつぶやく。
自分にとって大切なのはルルーシュとナナリーだけでいい。そう付け加える。
そのまま振り向くことなく屋敷を後にした。
20.07.20 up