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真夏の蜃気楼

04



 ブリタニアの政庁の前には日本人が並んでいる。その多くがみすぼらしい姿をしていた。
 それも当然か、と思いながらスザクもその列に並ぶ。彼らの多くが着の身着のままで避難していたのだ。
 表情が暗い者も多い。
 これからどうなるのか、誰にわからない。だから不安なのだろう。
 だが、仕方がない。
 日本は負けたのだ。
 これが仕組まれた戦争だったとしても、その事実は変わらないだろう。
 そんなことを考えながら徐々に前へと進んでいく。
 やがて列の先頭に出た。そこにはふたりのブリタニア人がいた。その服装から判断して、一人は軍人だろう。後の一人は文官か。同じような組み合わせがそれぞれの列の所にいるから、彼らがこれからのことを処理してくれるのだろう。
「名前は?」
 もっとも、嫌がらせだろう。ブリタニア語で話しかけてくる。
「枢木スザクです」
 ルルーシュ達と暮らしていたことでブリタニア語での会話離れていた。遊びで一日日本語の日とかブリタニア語の日を作っておいて良かったと思う。
「……クルルギ?」
「ゲンブの息子です」
 それが何か、と首をかしげてみせる。
「命の危険があるからブリタニアに保護してもらえ、と言われてここに来ました」
 正直にぶちまければ二人とも困ったような表情になった。
「ダメならば日本軍の旗頭にされるだけです」
 だが、次ぎにぶちまけたセリフで表情がこわばる。
「それは……」
「桐原からそう言われました。そのときに自分達が泥をかぶらないようにするためでしょうね」
 捨てられた以上、桐原達に気兼ねする必要はない。そう思ってぶっちゃけた。
 本当。父さんが死んでルルーシュがいなくなってからどんどん性格が悪くなっていく様な気がする。それでも最低限の礼節だけは捨ててないからまだマシなのだろうか。
 そんなことを考えながら相手の出方を見る。
 さすがに自分達だけでは判断できなかったのだろう。他の兵士を呼んで二言三言話をしている。
「すまないが我々だけでは判断できない。こちらに来てくれないか?」
 結論が出たのか。後から来た兵士が手招きをしながらそう告げた。
「はい」
 これはまたどこかにたらい回しにされるな。そう思いながら立ち上がる。
「ご迷惑をおかけしました」
 後ろを向いて列に並んでいた人達に向かって頭を下げた。これは時間をとってしまったことに対しての謝罪だ。
「いや……気にしなくていい」
「そうだぞ。坊やが悪いわけではないだろう?」
「こればかりはねぇ……」
「むしろ厄介払いをした人間の方を怒るべきだろう?」
 道場なのか。そんな声が聞こえてくる。
「子供が悪いわけではないのにねぇ」
 おばあさんの言葉に皆がうなずいていた。そんな彼らにスザクはもう一度頭を下げる。
「……行こうか」
 ブリタニア兵が申し訳なさそうにこう声をかけてきた。
「はい」
 逆らっても意味はない。だから素直にうなずくと彼の方へと歩み寄っていく。
 目の前で彼はきびすを返すと奥の方へと歩いて行った。当然、そこには政庁がある。
 いったいどこに向かうのだろう。
 そう考えながら後をついていく。と言うより、それ以外出来ることはなかったと言った方が正しいのかもしれない。
「ここで待っていろ」
 やがて一つの部屋の前でそう告げられた。
「はい」
 言われたとおりにするしかないからうなずくと中に入る。
 ひょっとしてここは牢屋じゃないだろうかと思うくらい何もない部屋だ。座るいすもない。仕方がないから適当に床に座った。
「ルルーシュとナナリーは無事かな?」
 考えることがないからこうつぶやいてしまう。
「会えるといいけど……無理だろうな」
 少なくともナナリーは、とそう口にする。それでも会いたいと思うことはいけないことじゃないだろう。
「俺には大切なものはあの二人しか残ってないから」
 そうつぶやいた声は壁に吸い込まれていった。



20.08.01 up
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