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真夏の蜃気楼

05



 どれだけの時間放置されていただろうか。
 そろそろ尻が痛くなってきたな、と思ったときだ。ドアが開かれる。
「なぜ、床に……あぁ、いすもないのか、この部屋は」
 先ほどの兵士の上官らしき男が室内を見回すとこう口にした。
「ブリタニアは子供を虐待していると言われても仕方がないぞ」
「ですが……」
「マスコミは怖いからな。それを利用されては厄介だろうが」
 特にハイエナのような連中に、と彼は続ける。そんなことを自分の前で口に出していいものなのだろうか、とスザクは首をかしげる。
「このくらいは誰でも知っているからね。君が聞いてもかまわない」
 スザクの表情を読み取ったのか。彼はこう告げる。
「普通の子供には隠すがね。君は普通の子供ではないと判断した」
「俺は異常なのか?」
「と言うより、年齢より大人だと言い換えればわかるかな?」
 普通の子供は一人でここに行けと言われて素直に来ることは出来るだろう。しかし、その後であれこれと言い切ることは出来ない。そう告げる。
「君のように自分の立場をしっかりと認識している人間は珍しいのだ」
 そうなのだろうか、と思う。
「それに、君はブリタニアに保護を求めたが特別扱いにしろと言ってきたわけではないしね」
「普通のことではないのですか?」
「そうではないから言っている」
 むしろ特別扱いを求める人間の方が多い。だから、スザクの言葉もすぐには受け入れられなかったのだ。彼はそう続けた。
「だが、安心しなさい。君の身柄に関しては私が保証しよう」
 決して日本軍が手出しを出来ない場所にスザクをかくまう。彼はそう言い切る。
「ただ、準備に少し時間がかかるからね。少しの間、政庁内の一室で過ごしてほしい」
 その間、申し訳ないが外出禁止だ。そうも付け加えた。
「……それはかまいません」
 トレーニングさえ出来れば、と心の中だけで吐き出す。どこであろうとそれができるのであれば十分だ。
 体さえ鍛えていれば、いずれルルーシュを探しに行けるだろうし。そんなことも考える。
 もっとも、すべてが机上の空論という可能性もある。それでも可能性を与えられただけでもいいとつぶやく。
「それで、この部屋にいればいいのですか?」
「まさか。さすがに何もない部屋で生活するのは難しいだろう。別の部屋を用意させた」
 迎えが来るまでそこにいろと言うことだろう。別に拒むことはないとスザクは首を縦に振って見せた。

 連れてこられた新しい部屋はホテルのようだった。
 部屋から出なくても風呂とトイレが備え付けられている。
「ホテルだな、まるで」
 食事は後で誰かが運んできてくれるらしい。運んでこられなかったとしても携帯食が与えられている。十分すぎる対応だ、とスザクは思う。
「テレビが見られれば最高なんだけど……」
 それは高望みというものだろう。ならば、せめて本が欲しい。
 あと何日、ここにいればいいのかわからないけれど学力が落ちるとルルーシュに怒られるし、とそうつぶやく。
「体力作りには文句ない環境なんだけどね」
 することがないから筋トレばかりしているし、と苦笑を浮かべた。
 そのときだ。外からノックをする音が聞こえる。
「メシ?」
 昨日よりも早いような気がするけれど、とスザクは首をかしげた。
 何か厄介事でも起きたのだろうか。そうつづける。
「本国から迎えの方が来ている。開けても良いか?」
 だが、そうではなかったらしい。予想よりも早く迎えとやらが来たようだ。
「はい。どうぞ」
 今、トレーニングをしていなくて良かった。そんなことを心の中でつぶやきながら言葉を返す。
 それに応じるようにドアが開かれる。
「どうぞ」
 士官らしい人物がそう言って相手を中へと招き入れた。
 その相手の顔を見てスザクは目を眇める。
「久しぶりだな」
 だが、相手は気にする様子を見せない。どうやら自分の姿に自信を持っているようだ。
「……アンタ、誰?」
 しかし、スザクから見れば明確に彼ではないとわかる。
「ルルーシュじゃないよな? ルルーシュならそんなににやけた表情はしない」
 きっぱりと言い切れば彼は目を丸くした。



20.08.10 up
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