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真夏の蜃気楼

06



「これは驚いた。今までばれたことはないのに」
 目の前の相手はそうつぶやく。
「だって全然違うじゃん」
 見た目はともかく気配とか、とスザクは言い切る。
「なるほど。野生の勘というやつか」
 苦笑とともに目の前の相手はそう告げた。
「あの方のまねは得意だと思っていたがそうでもなかったようだな」
 まだまだか、と彼はため息をつく。
「ナナリー様と陛下以外はだいたいだまされてくれるのだが」
 特にバカな貴族をからかうのが楽しい、と口にしてもいいのだろうか。
「ルルーシュから聞いたシュナイゼル殿下はわかっていてだまされている振りをしていると思うんだけどなぁ」
 あの人は確信犯らしいし、とスザクはつぶやく。
「……それは否定できない意見だね。まぁ、それでも協力してくださるだけましか」
 本当に、と彼はうなずく。
「まぁ、それは脇に置いておいて、だ」
 今までのことは彼にとっては前座だったらしい。
「僕は君を迎えに来たんだ」
 きっぱりと言い切る彼にスザクは目を眇める。
「その前にお名前を伺ってもかまいませんか?」
 名前を知らない相手についていくわけないだろう、とスザクは心の中だけで付け加えた。ついでに、彼がどのような反応を見せるかも確認したかったのだ。
「あぁ、これは失礼」
 だが、相手はすぐに謝罪の言葉を口にする。
「殿下の名前出来ているからね。自分の名前を名乗ると言う考えがなかった」
 彼はそう言って苦笑を浮かべた。
「ともかく、内緒でね」
「あぁ」
 貴族の間ならそう言うこともあるのか。そう判断してうなずく。
「僕の本名はジュリアスだよ。ジュリアス・キングスレイ。お二人の従兄なんだ」
 母親同士がきょうだいの、と言われて納得する。
「それでよく似ているんだ」
「あぁ。目の色はコンタクトで変えているしな」
 さすがにあのロイヤルパープルは皇族でなければでない色だし、と彼は続けた。
「当面はこれでごまかせるはずだ。あの方の不在を知るものは少ない方がいい」
 もしばれたときのことはそのとき考えればいい。ジュリアスはそう言って笑う。だが、彼はすぐに真顔に戻る。
「そう言うわけで、君にもブリタニアに来てもらう」
「……日本人──あぁ、もうイレヴンか。イレヴンは外国に行けないんじゃなかったっけ?」
 自国でおとなしく暮らしている分にはブリタニア人の平民並みの生活を手に入れることが出来る。しかし、外国に行く権利はなかったはずだ。
「皇族の希望なら何も問題はない」
 ブリタニアで何よりも優先されるのは皇帝の意思だ。そして、皇族はその下に来る。
「ナナリー様が君が無事かどうかを心配されているからな」
 入院している彼女を安心させる意味でもブリタニアに来た方がいいと彼はそう言う。
「それにブリタニアなら見張っていると言い切れるからな」
 日本人がいない以上、君を利用するものはいないだろうから。その言葉には納得しかねる。
「……ブリタニアの貴族は?」
 ルルーシュの話だとかなりえぐいことをしてくれるらしいが。
「まぁ、大丈夫だろう」
 苦笑とともにジュリアスは言う。
「ヴィ家は当主であるマリアンヌ様が亡くなられている。今は陛下に任じられた執事が指揮を執っているからな。そんな家にちょっかいを出してくる人間はいないだろう」
 少なくともルルーシュが成人するまでは、と彼は言葉を重ねた。
「それまでにルルーシュ様を見つけられればいいのだが」
 確かに、とうなずく。
「覚えている限りのことでいい。落ち着いたら聞かせてもらうぞ」
「わかった」
 むしろ望むどころだ。そう告げてスザクもまたうなずいた。



20.08.20 up
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