真夏の蜃気楼
08
ブリタニア語と礼儀作法の勉強は思ったよりも苦ではない。日本にいたときはあんなにいやだったのに。
これは相手の教え方がいいからだろうか。
そんなことを考えながらノートをとる。
「……あれ?」
ふっと自分の知識と今説明された部分の際に気づいてスザクは首をかしげた。
「あの方々がこちらに来ていたのは知っているけど、こちらだと微妙に理由が違ってる」
こちらでは攫われたブリタニアの皇女を追っ手と言うことになっている。日本では徳川政権の手から逃れるため、と言うことになっていた。
いったいどちらが本当なのだろうか。
それとも、どちらも真実なのか。
それはわからない。でも、こう記されていると言うことは何か理由があるのだろう。
「どうかしたのか?」
そんなことを考えていればジュリアスが声をかけてくる。
「いや。俺が知っている歴史と違うなって……そう思っただけだよ」
ため息とともにスザクはそう告げた。
「……たぶん、ブリタニアの方が正確だと思うんだけどさ」
日本側の歴史の裏に隠されている者も気にかかる。スザクはそう付け加えた。
「どうしてそう思う?」
「日本の歴史は勝者の歴史だから」
ブリタニアもそうかもしれないが、少なくとも日本のことを改ざんする必要はないはずだ。だから、信用できる。スザクはそう告げる。
「なるほどな」
「と言うことは、やっぱりブリタニアの皇女を追いかけてきたんだろうな、と思う」
恋人だったのか。それとも武士道精神だったのか。それを考えるのも楽しい。そう言って彼は笑った。
「確かにそうかもしれないな」
何か思い当たるものがあったのか。ジュリアスもうなずいてみせる。
「個人的にはこの《灰色の魔女》っていうのが気になるけどな」
魔女っていったいどんなことが出来るのだろう。スザクはそうつぶやく。
「……ひょっとしたら会えるかもしれないな」
ジュリアスが意味ありげに笑う。
「もっとも、その前に君が自由に出歩けなければいけないが」
そのためには騎士として認められなければいけない。だから、せめて士官学校に入学できる程度の頭は必要だ。そう告げられてスザクは思わず頭を抱えたくなった。
はっきり言えば日本人である自分が士官学校に入学できるとは思えない。それでもジュリアスは何か確証を得ているのか、意味ありげに笑っている。
「まぁ、頑張れ」
そう言うと彼は離れていった。
しかし、日々勉強をしていればそれなりの成績はとれるものらしい。スザクとしては冗談で受けた士官学校の入学試験と同じテストで合格ラインを超える点数をたたき出してしまった。
「……マジ?」
その報告を受けてスザクはそう口にする。
「言葉遣いを気をつけたまえ」
ジェレミアがため息交じりに注意をしてきた。
「すみません。予想外でしたので」
自分を制御できなかった、とスザクは素直に謝罪する。
「その気持ちはわからなくもないが、これが君の実力だと言うことも事実だ」
ジェレミアがかすかに表情を和らげながらそう告げた。
「ただ、どこにも革新を望まないものもいる」
良い成績を修めたとしても必ず入学できるとは限らない。ジェレミアの言葉にスザクは素直にうなずく。
「それでもお前に士官学校に入学できるだけの実力があると公的に残しておかなければいけない」
お二人をお守りするために、と彼は言い切る。
「わかっています」
二人の笑顔を守ることが自分の望みだから。そう告げればジェレミアが大きくうなずく。
「我らも同じだ」
だから、これからもびしびししごくぞ。その言葉にスザクは望むところだ、と笑った。
20.09.20 up