真夏の蜃気楼
09
庭にお茶が用意されていた。
「もう起きても大丈夫なのか?」
ナナリーに向かってスザクはこう問いかける。
「はい。ご心配をおかけしました」
「と言うより、元気になってくれて良かったな、かな?」
彼女からは見えないだろうが、と思いつつもスザクは口元に笑みを浮かべた。
「こちらに来て『入院している』って聞いたときは驚いたよ」
たぶん緊張の糸が切れたんだろうね、とスザクはことさら明るい口調で告げる。
「そうなのでしょうか」
「襲撃されたんだし、当然のことだよ」
だからナナリーは何も悪くない。言外にそう告げた。
「……お兄さまは……」
だからだろうか。ナナリーはこう問いかけてくる。それにどう答えるべきなのか、とスザクは悩む。
真実を告げるのは簡単だ。だが、それでルルーシュの不在が誰かにばれたらまずいような気がする。
第一、一番ルルーシュのことを知っているのはナナリーだ。ジュリアスがどれだけ演技してもばれるに決まっている。
本当にどうしようか、と本気で悩んでいた。
「まだ、見つからないのですね」
しかし、次ぎに彼女が口にした言葉に少しだけほっとする。
「とりあえず俺が思い当たるところは皆伝えたけど……」
一番厄介なところだけ確認が取れていない、とため息とともに告げた。
「それはいったい……」
「紫禁城。中華連邦の中枢部だよ」
いくらブリタニアの情報局とはいえ、おいそれと中を探れない。だからこそ厄介なのだ。
「お兄さまは……ご無事でしょうか」
「無事じゃないかなぁ」
そうでなければ人質の意味がない、とスザクは続ける。
「どうしてそう言いきれるのでしょうか」
「連中がほしいのはブリタニアの血だからだよ」
第三の声が割り込んできた。
「脅かさないでください」
お従兄様、とナナリーがため息交じりに苦情を言う。
「別に気配は消していなかったが?」
「それでもです。スザクさんとの会話にいきなり割り込まないでください」
ジュリアスの言葉にナナリーはさらにこう言い返す。その反応の早さはやはりルルーシュの妹だと思う。
「悪かったって」
そんな彼女にジュリアスは苦笑を浮かべながらそう言った。
「だが、戻ってきてみれば二人でお茶をしているし、声をかけようと思えばあんな会話を交わしていたから、思わず口にしてしまっただけだよ」
陛下も気にしておられたから、と少しだけ声を潜めると彼は付け加える。
「お父様もですか?」
「あぁ、そうだよ」
きちんと心配しているらしい、と彼は伝えてくれた。
「おそらくほしいのはルルーシュの子供だろうね」
自分の身内の女性との間に生まれるであろう、と付け加える言葉にスザクもうなずく。
「ルルーシュとナナリーが日本に来てすぐの頃、そんなセリフを言っていた奴がいる」
澤崎という奴だが、と心の中だけで付け加える。気持ち悪いことに、あいつは自分の妻子がいるにもかかわらず、ナナリーにそう言うことをしようとしていたことだ。さすがに父さんが反対したみたいだけど、と付け加える。
「お兄さまは手込めにされるのでは……」
「当面は大丈夫じゃないかな。まだ子供だし」
第一、あのルルーシュが素直にやられるとは思えない。スザクはそう言いきる。
「確かに」
ジュリアスもそれに同意をしてくれた。
「だから我々がすべきことは、まず、ルルーシュの存在の確認。それから本人の意思の確認。最後に身柄の確保だろう」
不本意だが洗脳されている可能性も考えておかなければ、と告げるジュリアスの言葉にナナリーが唇をかむ。
「大丈夫だよ、ナナリー」
そんな彼女を力づけるかのようにスザクは彼女の手を握りしめた。
20.09.30 up