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真夏の蜃気楼

10



「……中華連邦のどこだろうな」
 ルルーシュはそうつぶやく。
 あの後、薬で意識を奪われた。そして目覚めたときにはもう、日本の国土ではない場所に運ばれていたのだ。
 それから数回、移動したと思う。回数が定かでないのは、何度も意識を奪われていたからだ。目を覚ますまでに数日たっていたとしてもおかしくはない。
 その間に移動したとするならば、かなりの距離になるだろう。
 だが、とルルーシュは心の中でつぶやく。ここにいるもの達の大半が日本人と同じ系統の人種に見える。
 つまり、ここはアジア圏だと言うことになるのではないか。
 それがルルーシュがここが中華連邦だと考えた根拠だ。
 しかし、正確な場所がわからなければ逃げ出すことも難しいだろう。
 そんなことを考えていたときだ。鍵が開けられるような音が聞こえる。次の瞬間、見覚えのある男が数名の侍女とともに踏み込んできた。
「……澤崎、だったな」
 ルルーシュが警戒をしながらも相手の名を呼ぶ。
「ご存じでしたか」
「不本意ながらな」
 そう言いながら相手をにらみつける。
「貴殿がクルルギ首相が死ぬきっかけになったと記憶している」
 もっと正確に言えば、貴様が日本を滅ぼしたのだ。そう続けた。
「それは誤解です!」
 澤崎がそう言い返す。
「どこが、だ? 貴殿の記憶と僕の記憶の間に随分と差異がありそうだな」
 少なくとも今回のことに関して、とルルーシュは口にした。
「先に宣戦布告をしたのは日本であろう?」
 ブリタニア側がそのようなことをするはずがない。そう言いきれるだけ父や一番目と二番目の異母兄は信頼している。
 何よりも戦争となれば国力が関係してくる。日本とブリタニアが戦争をした場合、どう考えてもブリタニア側に軍配が上がるはずだ。
 それなのに、なぜ、ゲンブがそのようなことをしたか。
 誰かにそそのかされた以外にない。あるいは洗脳状態だったのか。それから逃れたとき、選択肢がそれしかなかったのではないだろうか。
「……さて、どうでしょうね」
 意味ありげなセリフとともに澤崎は笑みを浮かべる。それがものすごく気持ち悪く思えた。
「……気分が悪い。すまないが一人にしてくれないか」
 こいつらの顔を見ていたくない。そう思ってそう告げる。
「それはいけませんな。今すぐに医者を……」
「お前の顔を見ていると具合が悪くなる、と正直に言わないとダメか?」
 日本人は空気を読むと聞いていたが、お前もスザクと一緒で空気が読めない人間だったか。それで政治家をやっていられたな。立て板に水とばかりに言葉が口からあふれ出す。
「これから何があろうと、僕はお前の言葉を信用しない。そして耳も貸さない」
 一息にそう告げるとルルーシュは視線を澤崎からそらした。そのまま読みかけの本を取り上げると視線を落とす。
「殿下はお若いから世の中の道理をわかっておられないのですよ」
 澤崎が何か話しかけてくるが耳を素通りしていく。
「そもそも、このようなときにでも貴方を探そうとしないブリタニアに忠誠を示しても意味はないのでは?」
 ルルーシュの心を揺さぶろうというのか。澤崎はさらに言葉を重ねる。
 だが、それもルルーシュが予想していたセリフのうちの一つだ。
 そして、と心の中で続ける。
 自分を嫌っている異母兄たちはともかく、少なくとも上位の皇位継承権を持つ異母兄姉達は自分を探しているはずだ。そして、それに従うものも多いはず。
 自分の存在を見つけられないのはお前が隠したからだろう、と胸の内でそう吐き捨てる。
 おそらくスザクも今は彼らの元にいるはずだ。あるいは、自分がどこにいるかも推測できているのかもしれない。
 ただ、居場所を絞り込めていないだけだろう。
 ここを見つけ出すまでにいったいどれだけの時間が必要とするだろうか。出来れば自分が飽きるまえに見つけ出してほしい。ここの本をすべて読み終わってしまったら暇になるだろうし、とそう付け加える。
 それにしても、この男はいつまでここにいるのだろうか。
 いくら話しかけても無駄なのに。
 小さくため息をつくとまたページをめくった。




20.10.20 up
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