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真夏の蜃気楼

12



「イレヴンのくせに!」
 言葉とともに石を投げつけられる。当たればけがですまない可能性があるそれをスザクは身軽によけた。
 それが相手の怒りをさらにかき立てたのか。
「お前ら! かまわん。ぶつけろ」
 一瞬、取り巻きはためらうように動きを止める。だが、次の瞬間、雨あられのように石が投げつけられた。
 しかし、それらは一つもスザクに当たらない。
「貴様!」
 それが気に入らなかったのだろう。相手はこう言うと地団駄を踏む。
「当たったらけがをするだろう?」
 自分がけがをしたらナナリーが悲しむ、とスザクは付け加えた。
「石をぶつけられたら最悪死ぬかもしれないんだけど?」
 人殺しと言われる覚悟があってやっているのか、とさらに問いかける。もちろん、当たるつもりはさらさらなかったが。
「ナンバーズなんてどうなってもかまわないだろうが」
 しかし、貴族の男の子だけはこう言ってくる。
「お前がここにいるのがいやなんだよ!」
 やめればいい、とさらに付け加えられた。
「僕が希望してここにいるわけじゃないんだけどな」
 ため息交じりにそうつぶやく。
「命令だから自分じゃやめられないし」
 本当がこんな所に帰宅はなかった。だが、ルルーシュを探すためには必要だと言われて入学したのだ。
 もちろん、ある程度のいじめは予想していた。しかし、ここまで本格的に手を出してくるとは思わなかったと言っていい。
 このままだとナナリーを悲しませることになりかねない、とスザクは心の内でつぶやく。
 本当にどうしようか。
 もちろん、このくらいの実力なら簡単に形勢を逆転できる。しかし、それはそれで問題が出てくるだろう。
 一番いいのは彼らよりも上の立場の人間が止めてくれることだ。
 だが、そんな都合のいい相手がいるだろうか。いてくれレ葉一番話が早いのだが……と心の中でつぶやきながら石つぶてをよけていたときだ。
「何をしている!」
 スザクの背後から声が響く。それに一瞬だけ連中の手が止まった。
「何をしている、と聞いているのだが?」
「うるさい!」
 リーダー格の男がそう怒鳴る。そのまま視線を向けて凍り付いた。スザクも誰かを確認するために視線を向ける。それで男が凍り付いた理由がわかった。
「うるさいですって」
 自分のしていることを棚に上げて、とため息をついてみせる相手はブリタニア第三皇女マリーベル・メル・ブリタニアだった。そばには筆頭騎士候補のオルドリンもいる。
「バカなのでしょう」
 呆れたような口調で彼女はそう言いきった。
「スザクは陛下のご命令でここに入学しているのに、その彼をおいだそうだなんて実家がどうなってもいいと言うことなのでしょうか?」
 さらにオルドリンは言葉を重ねる。
「確かに。スザクの実力はコーネリアお姉様がお確かめになったのですもの。士官学校に通ってもおかしくはないわね」
 マリーベルが静かな声音でそう告げた。
「彼はナナリーの騎士候補よ。そんな彼を傷つけようとした以上、あなた方は皇族に対する不敬罪が適応されるわ」
「わ、私は……そんなつもりは……」
「ではなんなのかしら?」
 笑顔で相手を追い詰めていくところはさすがルルーシュの妹だと思う。どんどん逃げ道をふさいでいくのだ。
「そもそもナンバーズが区別されるのは、ブリタニア人より弱いと言われているからよ?」
 弱いモノヲ守るのはブリタニア貴族の義務であろう。彼女はそう告げる。
「彼の場合、十二分にわたくしたちと渡り合えるとわかっているからお父様の許可をいただいて入学させただけ。それを翻させるだけの実力があなたにあるのかしら?」
 微笑みながらそういえば男達は腰が引けていた。泣き出しそうな子もいる。
「そうでないのでしたらおとなしく謝られた方がよろしいかと」
しかし、この言葉に男がマリーベルをにらみつけた。
「お断りします。イレヴンに謝るなんて……絶対にいやです」
「そうですか。では、その旨をお姉様方にお伝えしておきますわね」
 マリーベルはそう言って微笑む。
「ですが、二度とこのようないじめは禁止させていただきます。先生もよろしいですね?」
「承りました」
 言葉とともに教師が進み出てくる。それに男達は本気で凍り付いていた。
「お前ら……殿下のお申し出を受けていれば内々に納めるようクルルギに言ったのだがな」
 そうで着なかった以上、諦めろ。その言葉とともにリーダーの腕をつかむ。
「とりあえず説教だな」
 身分をかさにあれこれ言おうとも軍には関係ないから、と口にしながら歩き出す。その後ろ姿をスザクは呆然と見送っていた。




20.11.20 up
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