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真夏の蜃気楼

13



「ありがとうございました」
 我に返ったスザクが真っ先にしたのはマリーベルへ礼を述べることだった。
「殿下が来てくださらなかったらちょっと厄介なことになっていました」
 言葉とともに彼は頭を下げる。
「気にしないで。貴方なら自力でなんとか出来るとわかっていてもついお節介をしてしまいました」
 マリーベルはそう言い返してきた。
「それに、そろそろ戻らないと先生に何か言われるわよ」
 彼らが告げ口をするのではないか、と言外に彼女は続ける。そうしたいのは自分としても山々だが、と思いながらスザクは言葉を返した。
「いえ……今日はユーフェミア殿下がおいでだそうで……出来るだけ遅く帰ってくるようにと言われています」
 スザクの言葉にマリーベルはため息をつく。
「あの子は……どこからか貴方の噂を聞いたのね」
 興味を持っただけならばいい。最悪、ナナリーから取り上げようとするだろう。マリーベルはそう付け加える。
「オズ。学校側への根回しを」
「わかったわ。でも、マリーはどうするの?」
「彼と一緒にアリエスに行くわ」
 なんとしてもそれだけは止めないと、と彼女は言い切った。
「ナナリーが元気にしていられるのはルルーシュと彼がいるからよ? それを取り上げるなんて絶対に反対よ」
 でも、それを悪気なくやるのがユーフェミアだ。だから反対する人間がそばにいないと、と続ける。
「……ナナリーから断ってもらうことは出来ないのですか?」
「ナナリーの場合、継承権があの子の方が高いから難しいわ」
 体のこともあるし、とマリーベルが教えてくれた。
「周囲もナナリーの方を怒るでしょうね」
 本当に困ったわね、と彼女はさらに口にする。
「だから、私が行くのよ」
 皇位継承権はユーフェミアよりは低い。だが、自分は彼女の姉だ。口を挟むことは出来るだろう。そう言って微笑む。
「……コーネリア殿下にもお声をかけておきましょうか?」
 オルドリンがこう声をかけてくる。それにマリーベルは首をかしげた。
「お姉様はユフィを溺愛しているからどうかしら」
「……シュナイゼル殿下の方がよろしいかと」
 言葉を口にするマリーベルにスザクはそう言い返す。
「あの方が僕たちの面倒を見てくださっていますから」
 知らせない方が怖い。言外にスザクはそう付け加える。
「珍しいけど……それだけ大切にされていると言うことでしょうか」
 オルドリンがマリーベルに問いかけた。
「ルルーシュを買っていらしたから」
 十二分に考えられる、とマリーベルはうなずく。
「では、貴方は学校側に先ほどの報告を。それからシュナイゼルお兄さまに連絡を取ってから追いかけてきて」
 自分達は一足早くあちらに向かう、とマリーベルはそう言いきる。
「護衛は……」
「スザクがいるから大丈夫よ。目的地はアリエスだし」
 ユーフェミアの護衛もいるでしょう、と冷静に告げた。ただ、その言葉の裏に多少の嫌悪感が見え隠れしている。
「かまわないわよね?」
「Yes,Your Highness」
「ここにいる限りは普通にしてくれていいのよ。アリエスに戻ってからは多少の礼儀は必要でしょうけど」
 スザクの言葉にマリーベルが笑う。
「今から慣れておいた方がいいかと思いまして」
 スザクはそう言葉を返した。
「だよね?」
 そのまま視線をオルドリンに移動して問いかける。
「確かに。でないとぼろが出るかも」
「私はしょっちゅうだ」
 母上に怒られている、とオルドリンはため息をつく。
「……そうなんだ」
 母親とはそんなに怖いものなのか、と思う。だが、スザクはそのことを口に出さなかった。そして、それは正解だったらしい。
「まったく……士官学校は平等だというのに。もっとも、皇女の特権を使っている私が言うことではないのかもしれないが」
 マリーベルも苦笑を浮かべるとそう告げた。




20.12.20 up
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