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真夏の蜃気楼

14



「貴方がスザクさんですね」
 挨拶の言葉を述べるよりも先にユーフェミアがこう問いかけてくる。それにどう答えればいいのか、スザクは迷った。教えられた礼儀作法が通用しないからだ。
「はしたないわよ、ユフィ」
 助け手を出してくれたのはマリーベルである。
「ナナリー。急にごめんなさいね。士官学校でちょっと困ったことが起きたから彼と対策を話し合っておきたかったの」
 そのままナナリーへ視線を向けると彼女はこう言った。
「だから、少しの時間、彼を貸してくれるかしら?」
「……危ないことはありませんか?」
「今のところは。彼の安全を確保するためにも話し合っておきたいの」
「わかりました。スザクさん、マリーベルお姉様と一緒に応接間へ行ってください」
 でも、出来るだけ早く帰ってきてくださいね、と彼女は続けた。
「わかっている」
 行ってくるよ、とそう付け加えると同時にそっと彼女の頬をなでる。
「はい」
 ほっとしたようなくすぐったいような微妙な笑顔でナナリーはうなずく。それにもう一度彼女の頬をなでるとマリーベルの方を振り向いた。
「こちらです」
 声をかけると彼女を先導するように歩き出す。
「ちょっと待ってよ!」
 だが、それを引き留める声がする。視線を向ければナナリーと話をしていた少女がこちらをにらみつけていた。
 おそらく彼女が《ユーフェミア》なのだろう。そう推測する。
「マリーだけずるいわ!」
 自分だけ彼と顔見知りだったなんて、と少女が続けた。
「士官学校で同期だもの。当然のことではなくて?」
 しかも、とマリーベルは言葉を綴る。
「彼を紹介してくれたのはコーネリアお姉様ですわ」
 貴方に紹介しなかった理由を考えればいいわ、とマリーベルはユーフェミアに微笑む。
「行きましょう」
 その笑顔を見て彼女はルルーシュの妹だと改めて認識する。なんというか、ナナリーと同じくらいルルーシュのそれによく似ていたのだ。
「Yes,your highness」  スザクはそう言うと今度こそ歩き出す。その背中をユーフェミアの視線が追いかけてきた。

「あの子にも困ったものね」
 ため息とともにマリーベルがこう言う。
「日本人が珍しいからでしょう」
 見慣れれば忘れるに決まっている。スザクはそう言いきった。
「だといいのだけど」
 だが、マリーベルはその意見に懐疑的らしい。
「あの子の悪いところは誰かの大切なものでもかまわずほしがるの。確かに最初は大切にするわ。でも、飽きたら見向きもしなくなる」
 それでも手放そうとしないのだから厄介なのだ。そう続ける。
「貴方がナナリー達のものだってわかっていてもほしがるでしょうね」
 そして、それを取り巻きに話すのだ。そうすれば彼らが勝手に動いてくれる。
 スザクやナナリー達は拒めばこちらの方が悪いことになるはずだ。
「本人に悪意がないというのが困りものですね」
 ため息をつくとスザクはそう口にする。
「ルルーシュに頼まれている以上、僕としてはナナリーから離れるわけにいかないのですが」
 それは彼との約束であるし、とスザクは続けた。
「……ルルーシュは今、お兄さまの命令でユーロの方に行っているのよね?」
「はい」
「その間に動こうという理由ではないと思うけど……」
 本当に厄介なこと、とマリーベルはため息をつく。
「お兄さまが釘を刺してくだされば一番丸く収まるんだけど」
「コーネリア殿下ではダメなのですか?」
「……お姉様はユフィに一番甘いから」
 弟妹には普通に甘いが、同母の妹は特別なのだろう。
「私もユーリアは特別だもの」
 どうしても同母の妹には甘くなるわね、とマリーベルが付け加える。
 だから、とスザクは心の中でつぶやく。
 早くルルーシュを取り戻さなければいけない。
 そうすれば、きっとすべてが良くなるはずだ。少なくともナナリーをだましいていると言う罪悪感からは抜け出せる。
 そのときにはきっと、皆心から笑えるだろう、と。

 ともかく、しばらく士官学校ではマリーベル達と行動を共にすることになった。
 それはもちろん、虫除けだ。
「私の方もうるさいのがいるし、ちょうどいいわ」
 庭へ戻りながらマリーベルはそう言う。
「オズがいるけど……やっぱり男手もほしいのよ」
 だからといって下手な人間を選べば後々厄介なことになる。スザクであれば、そんなことはない。
「そう言うことであれば」
 自分とっても都合がいいし、とは思う。だが、そのせいでマリーベルに不利益はないのだろうか。そう聞き返す。
「こき使わせてもらうわね」
 それに笑顔で彼女は言葉を返してきた。




21.01.21 up
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