真夏の蜃気楼
16
ルルーシュが静かに本を読んでいた。
そんな彼の元に女官が近づいてくる。
「麗華さまがお呼びです」
そしてこう告げる。
「麗華様が?」
「はい。ブリタニアのお話をお聞きになりたいとのことです」
ナナリーよりも年下の彼女は、この朱禁城から出たことがない。ある意味、かごの鳥だ。その姿がナナリーと重なってルルーシュはどうしても邪険にすることが出来なかった。
「……今すぐ、でしょうか」
せめて着替えをしたい、と言外に告げる。
「お着替えぐらいでしたらかまわないかと」
そう言い返してくる女官の顔をルルーシュは顔を上げてみた。その瞬間、どこかでみた覚えのある顔が飛び込んでくる。
髪の色は違う。だが、変装だと言われれば納得できる。しかし、その特徴的な瞳の色だけは変えようがないようだ。
呼びかけようとして彼女の名前を知らないことにルルーシュは気づく。
そして、相手も笑みを作ると『内緒だ』と言うように唇に人差し指を押し当てた。承諾の意味をかねて小さくうなずく。
「では、私は外でお待ちしております」
ぺこり、と彼女は頭を下げる。その瞬間、彼女の手から何かがひらひらと落ちた。
当然、彼女はそれに気づいているはず。しかし、何事もなかったかのように部屋を出て行く。
「おい!」
呼び止めるよりも先にドアが閉まった。
「ったく……」
だらしのない女だな、とつぶやきながらそれを拾う。そうすれば何か文字が書かれていることに気づいた。反射的に内容を読めばきょうだい達が自分を探していること。居場所の見当はついているがなかなか手出しできないこと。そして、スザクは今ナナリーの元にいることが書かれてあった。
そして、一番怖いのはあの伯父が動いていると言うことだろう。
「……終わったな」
何が、とは言わない。
それでも彼が動いている以上、足下からじわじわと崩されていくのはわかっている。自分に向けられたものではないとわかっていても、やはり考えるだけで恐怖だ。
「とりあえず麗華さまをお待たせするわけにはいかないな」
思考を切り替えるためにそう口にする。
「名目とは言え口にしてしまった以上、着替えるか」
そうつぶやくとルルーシュはクローゼットへと向かった。
「とりあえず、接触できたぞ」
呆れたことに、と言いたげな声音でC.C.が告げる。
「元気だった、と言いたいがあれこれと気を張っているのだろう。ストレスがたまっているようだった」
服を脱ぎながら彼女は続けた。
「C.C.……少しは人目を気にしなよ」
V.V.はため息とともにそう注意する。
「ここにはお前しかいないだろうが」
今更V.V.相手に気を遣っても仕方がない。彼女はそう言いきる。
「今更お前に裸をみられたぐらいで騒ぐか」
さらに彼女がそう続けた。
「君、本当に女?」
「とうとう老眼か?」
この曲線美がわからないとは、とC.C.が哀れんだ目を向けてくる。
「君の行動について言っているんだけど」
V.V.はそう言ってため息をつく。
「僕、マリアンヌが非常識なのは性格のせいだと思っていたけど、それ以外の理由もあったんだね」
絶対にこの女が関わっている、とV.V.は確信する。
「あいつのあれは全部あいつの性格のせいだぞ?」
しかし、C.C.は平然とそう言ってきた。
「そういうことにしておいてあげるよ」
これ以上何か言っても無駄だ、とV.V.は判断する。
「これからもルルーシュと定期的に連絡を取りたいね」
「信者を使えばいいだろう」
この国の人間がいるだろうが。C.C.の言葉にV.V.はうなずく。
「それしかないね」
誰がいいか。V.V.は脳裏で人選を始めた。
21.03.20 up