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真夏の蜃気楼

17



 マリーベル達と行動を共にすることによって直接的な嫌がらせは減った。しかし、暴言は減らない。
「女のスカートの影に隠れるなんて……」
 ある意味侮辱のセリフなのだろう。しかし、スザクには意味がわからない。
「スカートの影に隠れられるほど小さくないけど?」
 真顔でそう言い返す。
「……お前は……」
「皇女殿下の影に隠れるなんて卑怯だろう! そう言いたいんだ」
 笑いながら相手はそう言ってくる。
「だから?」
 それの何が悪いのか、とスザクは首をかしげた。
「第一、僕は隠れていない。誰も傷つけないように最善の方法を模索しているだけだ」
 素手ならば誰にも負けない自信がある。剣と刀ならどうだろうか。少なくとも学生よりは使えるつもりだ。
 だからといって、自信過剰になるつもりはない。
 むしろ臆病な方がいいだろう。
 臆病であれば無謀なことはしない。その方が生き残る可能性が高いのだ。もちろん、すべては状況次第だろうが。
 ルルーシュを見つけたらどんな無謀な行動をとろうと助け出そうとするに決まっている。
 もっとも、ナナリーが危険にさらされるようならそちらを優先することになるのか。それがルルーシュの命令だから、と心の中でつぶやく。
「……俺たちが何も出来ないと言いたいのか?」
「出来ないと言うより……君たちはまだ人を殺したことがないでしょう?」
「……お前は殺したことがあると?」
「ルルーシュとナナリーを守るために、ね」
 日本人もブリタニア人も襲ってきた人間は全員、とスザクは告げた。
「それは……」
「当然だろう? あいつらを殺そうとしたんだから、悪いのはあっちだよな」
 違うのか、と真顔で問いかければ彼らはそろってうなずいてみせる。
「そう言うことだから、俺としては今更何を言われても怖くないんだよ」
 最期に一瞬だけさっきを飛ばしてみた。
「……ひっ」
 それだけで彼らは地面にへたり込んでしまう。そんな彼らに一瞥をくれるとスザクはその場を離れた。

「まぁ、いい気味よね」
 オルドリンがそう言って微笑む。
「貴方も彼らを傷つけていないから、誰も文句は言えないだろうし」
 その言葉で自分の選択が間違っていなかったのだとスザクは判断した。
「傷つけるとやっぱりまずかったか」
「一応は、貴族だから」
「君もそうだろう?」
「でも、私の場合、マリーが一番だからね」
 彼女に危害が加えられたなら、たとえ相手が皇族でも剣を向ける。オルドリンはきっぱりと言い切る。
「僕だってそうだよ」
 ルルーシュとナナリーに危害を加えようとする相手はただではおかない。
 もっともルルーシュはなかなか守られてくれないのだが、とスザクはため息をつく。
「そうよね。マリーもおとなしく守られてくれないのよ」
「困ったものだね」
「確かに」
 素直に守られてくれるなら命をかけてでも守るだろう。
 しかし、二人はそうではない。
 その事実が悔しくもあり誇らしくもある。
 そんな会話を交わしながら二人は歩きだした。




21.03.30 up
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