真夏の蜃気楼
18
「ナナリー。お茶飲むよね?」
スザクは室内の彼女に向かってこう声をかける。
「はい、スザクさん」
そうすれば、彼女はすぐに車いすで出てきた。そんな彼女の車いすを押してリビングへと向かう。
「……そういえば、スザクさん」
「何?」
「お兄さまのお仕事はいつ終わるのでしょうか」
その問いかけに一瞬ぎくりとする。
聡い彼女のことだ。自分達の嘘に気づいているのではないか。
しかし、本当のことを告げるわけにはいかない。
「残念だけど……僕は聞いていないよ」
軍事上の機密が関わってくるから、とスザクは口にした。
「お兄さまはどこかの戦線に行かれていると言うことでしょうか」
「正確には違うかな?」
「ではどちらに?」
さて、なんといったものか。
「後方支援、でわかる?」
「……一応は」
「勉強のために後方支援部隊にいるって。ジュリアスと一緒に」
「ジュリアスお従兄様と?」
「あぁ。だから、連絡はジュリアスから来るよ」
ルルーシュはいろいろ忙しいらしい。そう続ける。
「では……帰ってきてほしいとお願いするのはわがままになりますね」
「ナナリー……」
「久々にお兄さまともお茶をしたかったのですが……」
「ごめん、ナナリー」
自分が謝るのもおかしいのではないか。そう思うがスザクはそう口にする。
「いえ。いいのです。スザクさんがいますから」
お兄さま達とはお仕事が終わった後でじっくりとお茶を楽しませてもらおう。ナナリーはそう言って微笑む。
「……そうだね」
いつまでごまかしておけるだろうか。そんな疑問がわき上がってくる。同時にジュリアスと口裏を合わせておかないとと思う。
少しでも長く彼女には気づかないままでいてほしい。
「じゃぁ、ジュリアスに言っておくね」
スザクは明るい声音でそう告げる。
「二人が戻ってくるまでは僕だけで我慢して?」
「はい、スザクさん」
ふわりとナナリーが微笑む。少なくともこの笑顔だけは守ってみせる、とスザクは心の中でつぶやいていた。
小さなため息とともに目の前のノートを閉じる。
「本当に厄介だな」
そうつぶやくとルルーシュは机の棚を開く。ある順番で開けると小さな隠し扉が出てきた。そこから鍵を取り出すとノートを手に立ち上がる。
本棚の隅。そこに立ててある本を操作して鍵穴を出す。そこに鍵を差し込むとロックを外す。
そこまでしてようやく本棚の下の床の物入れに通じる隠しぶたが開く。そこにそっとノートを入れると逆の手順で鍵をかけた。
「どう考えてもこの国の政治は終わっている」
もちろん、中には民衆のことを考えている者もいるだろう。しかし、上に立つ大宦官が自分の私腹を肥やすことしか考えていない。そして、その上に立つ天子は大宦官の傀儡だ。
そいつらのせいで自分はここに閉じ込められている。そう考えれば好意なんてあるはずがないだろう。
「外にいる人間に連絡が取れればいいんだが」
あれからC.C.は来ない。叔父の手の者もだ。
どこかで引っかかっているのか……最悪、気づかれてしまったのではないか。
「本当に厄介だな、この国は」
中枢にいるのはこの国の人間だけだ。他国人は一目でわかる。その結果、排斥されてしまうのだ。
その点では、日本も同じだった。でも、日本ではある程度まで中に入り込むことが出来た。それだからこそ、自分達は生き残ることが出来たのではないか。一番の原因はスザクの存在だろうが。それでも事前の襲撃情報のリークはありがたかった。
「会いたいな」
ナナリーとスザクは元気だろうか。そんなことを考えながら立ち上がる。
「絶対に会いに行ってやる」
ここを抜け出して、とルルーシュは決意を新たにした。
21.04.20 up