真夏の蜃気楼
20
しかし、これは想定外だ。
ルルーシュがこの場にいればそう告げただろうな、とスザクは心の中だけでつぶやく。
「オズ……マリーベル様のけがは?」
スザクは外の気配を探りながら問いかける。
「大丈夫よ……」
「じゃないでしょう! まぁ、玉は抜けているし……でも、失った血は戻らないのよ!」
何を言っているの、とオルドリンが彼女を怒鳴りつけた。
「マリーベル様……無理はされないでください」
スザクは言葉を綴る。
「あなたに何かあれば……ご家族はもちろん、ナナリーも悲しみます」
そう告げればマリーベルは体から力を抜いた。
「わかったわ……私もフローラを悲しませたくないもの」
素直にこう告げるマリーベルにオルドリンもうなずく。
「しかし、どうして……」
こんなことになったのか。そう言いたいオルドリンの気持ちもわかる。しかし、理由は明白だろう。
「……私を排除したい人間が動いたのでしょう。おまけでスザク君かしら」
そんなことをして皇位が手に入ると思っているのかしら、とマリーベルが吐き捨てるように口にした。
「国力を大きく阻害することになりますね」
主に軍の、とスザクは言葉を返す。
「それが目的ならば何も言えませんが」
「……バカね」
オルドリンが一言こうつぶやく。
「と言っても、今はこの場をなんとか切り抜けないとダメなんだけど……」
マリーベルを連れて、とオルドリンは眉根を寄せる。
「動かせるの?」
「大丈夫だと思うけど……出血が多すぎたから」
「あぁ」
途中でダウンする可能性もあると言うことだろう。そのくらいならばここに立てこもっている方がいいのかもしれない。
「……援軍が来るなら立てこもっていてもいいんだけど……」
時間がかかったり来ないようならばここでは危険だ。出入り口が一つしかないから、とスザクは続けた。
「ちっ!」
「どうしたの?」
「爆弾を投げ込むつもりらしい。ちょっと行ってくる」
脇に置いておいた刀をつかむとそう告げる。
「……気をつけてね」
それだけでスザクが何をするのかわかったのだろう。オルドリンがこう言ってくる。
「あぁ」
一瞬だけ笑顔を向けるとそのまま外へと飛び出した。
まさか出てくるとは思わなかったのだろう。相手が目を丸くしている。しかし、反撃に出ようと動き出した。
「遅い!」
だが、それよりも早く相手の腕を切り飛ばす。
「皇女殿下を害しようとするとは……その命、いらないものと判断する!」
そう叫ぶと次の人間へと刀を振るった。と言っても、最低限命だけは取らない。誰の命令か聞かなければいけないと思ったのだ。
別段、人を殺すことが好きなわけではない。だからといって積極的に殺したいと思うのは自分の大切な存在を奪おうとする者達だけだ。
ルルーシュが側にいない以上、自分にとって守らなければいけないのはナナリーだけである。そのナナリーが大切にしているマリーベル皇女は保護対象だ。と言うより、単に自分がナナリーの悲しむ顔を見たくないと言うだけかもしれないが。
そんなことを考えつつ、次々と敵対している人間を無力化していく。
「……とりあえずはこれで終わりかな?」
念のために縛り上げてまとめておいた方がいいのかもしれない。
そんなことを考えながら、一度二人がいる場所まで戻る。
「ナナリーが無事だといいんだけど」
いやな予感がするが、今はどうしようもないか。そう考え直すと中へと入る。
「大丈夫ね」
その瞬間、マリーベルが声をかけてきた。
「僕はね。ところで、外の連中、どうしたらいいと思う?」
「放っておいていいわ」
「わかった。じゃ、今のうちに移動しよう」
「えぇ」
そう言うとオルドリンがマリーベルに手を貸して立ち上がらせる。
「背負った方がいいかな?」
「貴方は自由に動ける方がいいわ。マリーのことは任せて」
「了解」
それではさっさと移動をしよう。そう告げるとスザクは周囲を警戒しつつ歩き出した。
21.05.10 up