真夏の蜃気楼
21
スザク達が味方と合流できたのはそれから一時間近くたってからのことだった。
なぜ彼らが《味方》と判断できたか、と言えばその隊の隊長がオルドリンの叔父だったからだ。
「叔父様!」
彼の姿を見かけた瞬間、オルドリンがこう叫ぶ。
「無事だったようだね。皇女殿下も……おけがだけでいらっしゃいますか?」
「えぇ……彼のおかげで襲撃者を撃退できましたから」
青白い顔でマリーベルが微笑む。
「そうですか」
彼は一瞬だけ視線をスザクへと向ける。
「オズ。皇女殿下を病院へ」
そして一言、こう告げた。
「わかっているけど……」
「彼への無礼な行為は禁止します。彼はルルーシュとナナリーの騎士だから」
皇族の騎士である彼には礼儀を持って接するように、とマリーベルがきっぱりという。
「……僕は気にしないけど」
士官学校に入ったときのあれこれを思い出せば多少のことは我慢できる。苦笑とともにスザクはそう言う。
「わたくしが気にするの」
お友達でしょう? と言われればそれ以上反論は出来ない。
「わかりました」
そう口にすればマリーベルは満足したようだ。
「貴方もいいわね、オイアグロ」
マリーベルが視線を移動するとこう問いかける。
「Yes,Your Highness」
さすがに彼女には逆らえないらしい。どこか渋々といった様子でオイアグロは頭を下げた。
「マリー……病院に行こう」
話し合いが終わったと判断したのか。オルドリンがこう告げる。
「そうだよ。早くしないと傷が残るよ」
それは困るだろう、とスザクも続けた。
「マリー! すぐに行くわよ」
言葉とともにオルドリンが彼女を抱き上げる。そして、輸送機へとかけだした。
「オズ、転ばないようにね」
「そんなドジ、するわけないでしょう!」
「ごめん、そうだよね」
大切な皇女様を抱きしめているんだから、とスザクは声をかける。
「当たり前よ! 貴方も気をつけるのよ」
何に、とは彼女は言わない。それはスザクがわかっていると信じているからだろう。
「……それで、僕のどこが不満なんですか?」
二人の姿が完全に見えなくなったところでスザクは切り出す。
「日本人だからですか?」
こう問いかければオイアグロは小さくため息をついた後でうなずいた。
「そうだ。君がナナリー殿下をたぶらかして日本のために動こうとしているのではないか。そう考えている人物がいる」
「ばかばかしい。なんで俺を捨てた人間のために動かなきゃないんだよ」
吐き捨てるようにそう告げる。
「あぁ、桐原のじいさんから手紙が来たからか?」
本当に疫病神だよな、と付け加えた。
「いっそ、死ねばいいのに」
そう口にする。
「日本のために動く気はないと?」
「あるわけないでしょう? 一方的に放り出されて、そんな俺を迎えに来てくれたのはジュリアスですからね」
たとえ親戚であろうとあの時にすべて切り捨ててきた。自分にとって大切だと言い切れるのはルルーシュとナナリーだけ。後はジュリアスぐらいだろうか。
アリエスにいる者達は共犯者であって守るべき存在ではない。
マリーベルはナナリーと仲がいい皇族だから、側にいる間ぐらいは守ってもかまわないだろう。
そう告げればオイアグロは納得したのか──あるいは納得したふりだろうか──小さくうなずく。
「姉にはそう告げるよ。少なくとも君はナナリー殿下を裏切る予定はないだろうとね」
もっとも、と彼は続ける。
「姉が信じるかどうかは別問題だろうが」
「……それは覚悟している」
全員が全員、受け入れてくれるとは考えていない。そう言うスザクにオイアグロは「そうだね」とつぶやいた。
21.05.20 up