真夏の蜃気楼
23
ロイドが自分に目をつけたのは体力テストの一環で受けたナイトメアフレームとの相性チェックらしい。
しかし、だ。
自分がイレヴンである以上、ナイトメアフレームに乗ることは出来ないはず。それも彼にはわかっているはずだ。
「とりあえず、体力検査だけでいいからぁ」
だが、そんなことを気にする様子もなく彼はこう告げる。
得てして、こういう人はしつこい。ストーカーもかくやと言うほどつきまとわれてしまう。
「……ナナリーの許可がもらえたなら」
それならば条件付きで許可を出した方がいいに決まっている。そう思ってこう告げた。
「ナナリー様かぁ……」
「あら、珍しい。あなたにも苦手なものがったんですね」
ハンドルを握りながらセシルがこう言う。
「だってぇ……あの方の前で嘘をついてもすぐにばれるしぃ、だからといって本音を話せば今度はシュナイゼル殿下に怒られるんだもん」
三十路近くの男が『だもん』と言ってもかわいくないと思うのだが、とスザクは心の中だけでつぶやく。
「気持ち悪いからその語尾はやめてください」
良かった。そう思っていたのは自分だけじゃなかった、とスザクはほっとする。
「セシル君、ひどいよ」
気持ち悪いって、とロイドはぶつぶつ言い始めた。
「ロイドさんは研究以外からっきしなんですから」
いわゆる『専門バカ』と言う奴だろうか。日本にもそういう人間はいたな、と思い出す。そういう人間があれこれと成果を出していたこともだ。
しかし、積極的に付き合いたいとは思えないんだけど、と胸の中だけで付け加える。
「でも、僕はナナリーの護衛ですから」
ナナリーの許可がなければ側を離れることが出来ない。そう続けた。
「そうなんだよねぇ」
と言うことはやはり話をしに行かないとダメか、とロイドはため息をつく。
「その前にスザク君を無事にアリエスに送り届けなければいけませんよ」
「でもぉ」
「何よりもスザク君が疲れています。休ませてあげるのが大人というものでしょう!」
まったく権力がある分、子供よりもたちが悪い。セシルが吐き捨てるようにそうつぶやく。
「まったく……それで何度研究費を凍結されたか、覚えていらっしゃいます?」
「それを言われるとねぇ」
「茶化さないでください!」
ドン、とセシルはハンドルを叩く。その瞬間、車が蛇行した。反射的にスザクは座席にしがみつく。
「あぁぁぁ!」
ロイドの声が響いた。視線を向ければ彼がシートベルトに絡まっている姿が確認できる。しかし、いったいどうすればああなるのかは疑問だ。
「ご、めん……ごめんってぇ」
スザク君助けてぇ、とロイドが声をかけてくる。
「……詳しくはわかりませんが……ロイドさんが悪いのでは?」
「ひどぉい!」
僕の味方はいないのか、と彼は口にした。
「うるさいですよ!」
セシルがそう告げる。
「……セシルさん」
彼女が怒るのはいいのだが、と心の中でつぶやきつつスザクは口を開く。
「何かしら?」
「もう少し穏やかな運伝をお願いしてもいいですか? 振り落とされそうなんですが」
「あぁ、ごめんなさい! 口で怒るだけにしておくわ」
だから、ゆっくりと眠ってね。そう言われては『はい』というしかない。
「怒られたねぇ」
にひひひと笑いながらロイドが言う。
「貴方は口をつぐむと言うことを知らないのですか?」
少しは黙りなさい、とセシルが言い返す。
「そもそも、今回のことだって……」
そう続けるセシルにロイドが謝り続けている。それをBGMにスザクは目を閉じた。
21.06.22 up