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真夏の蜃気楼

24



 予想通りというか、アリエスはものすごいことになっていた。至る所が破壊されていたのだ。それでも落ち着いてみれば被害はほとんど庭だけだ。ナナリーがいる建物の方は無事らしい。
 だからといって安心は出来ない、と心の中でつぶやく。
「顔を見ないと安心できない」
 その言葉のままスザクはナナリーがいると思われる場所へと足を向けた。
 途中で数名の侍女とすれ違う。
「ご無事だったのですね」
「良かった。ナナリー様が心配されておられましたよ」
 そのたびにこんなセリフを投げつけられる。
「ありがとうございます。それで、ナナリーはどこに?」
「ご自分のお部屋だと思いますよ」
「そうですか」
 なら、すぐに顔を見せないと。そう考えて彼女たちに頭を下げると足を速める。
「お気をつけて」
 クスクスと笑いながら彼女たちは言葉を返す。その様子でナナリーは無事だと理解する。それでも顔を見ないと安心できないのは日本でのあれこれがあったからだろう。
「いやぁ、ここの使用人はきっちりと教育されてるねぇ」
「ロイドさん! 黙っていてください」
「どうしてぇ?」
「ここがアリエス離宮だからです!」
 高位の継承権保持者とことを起こしたいのか。そうなれば特派はお取りつぶしだ、とセシルは脅しをかける。その瞬間、ロイドがどのような表情をしたのか、想像に難くない。
「それは困る」
「ならば、余計なことを言わないように口をつぐんでいてください」
 セシルにそう言われてロイドは慌てて口を押さえた。
 これで少しはおとなしくなってくれればいいけれど、とスザクは胸の内でつぶやく。ナナリーは騒がしいのが苦手だから、とそう付け加える。
 実際、ロイドの声が聞こえないだけでほっとしている自分に気づいた。
 実際、まだ疲れは抜けきっていない。ナナリーの無事を確認したら少し休ませてもらおう。そう思いながら足を進める。
 すぐにナナリーの部屋のドアが目に入ってきた。
 その位置で足をいったん止める。そして振り向いた。
「僕が呼ぶまで入ってこないでくださいね?」
 にっこりと笑いながらそう声をかける。
「え〜! 何で?」
 心底驚いているという表情でロイドが言い返してきた。
「ナナリーは皇女ですよ? 許可もなく私室に足を踏み入れるつもりですか?」
 年が若いとはいえ女性だ。万が一にでも寝間着で客に会えるはずがないだろう。そう言い返す。
「スザク君だって……」
「僕はナナリーにとって身内扱いですから。ルルーシュもそれを許可してくれています」
 ロイドとは違う、と言外に告げる。
 いくら何でも伯爵家の人間にそんな姿を見せられるはずがない。だから、ナナリーに身支度を調える時間を与えてほしい。冷静にそう続けた。
「そうですよねぇ」
 さすがに身内でもない男性にそんな姿を見られたらショックで寝込みかねない。そうなったら本当に特派が取りつぶしになるのではないか。セシルが真顔でそう告げる。
「はいは〜い……わかったよ」
 さすがに取りつぶされるのはいやだ、とロイドは肩を抱いて体を震わせる。
「ナナリー、入ってもかまわないかな?」
 そんなロイド達を放置してスザクは中にいるであろう彼女に呼びかけた。
『スザクさん!』
 すぐにナナリーの声が返ってくる。それを聞いた限りでは彼女は元気そうだ。
『どうぞ』
 言葉とともにドアが開く。
「スザクさん、ご無事でなりよりです」
 そして咲世子が出迎えてくれた。
「咲世子さんも。ナナリーを守ってくれてありがとうございます」
「当然のことですから。それよりも中にお進みください。外のお二方は此方でお待ちを」
 咲世子にうなずき返すとスザクは室内へと足を踏み入れる、そうすればベッドの上にいるナナリーが確認できた。
「ナナリー?」
「皆が大げさなのです」
 頬を膨らませながら彼女がそう訴えてくる。
「仕方がないよ。君は皇女ざまだし、ルルーシュがいないから君がここの要だ。そうである以上、我慢するしかないね」
 皇帝ですら同じような状況にあればベッドに突っ込まれるだろうし、とスザクは微笑む。
「その通りだぞ、ナナリー」
「コーネリアお姉様?」
「無事で何よりだ」
 そう言いながらコーネリアが歩み寄ってくる。
「何かあったのですか?」
「……あったと言うべきか……それとも見つかったと言うべきかもしれん」
 その言葉にスザクとナナリーは表情を引き締めた。



21.07.22 up
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