PREV | NEXT | INDEX

真夏の蜃気楼

25



「……ルルーシュの居場所がわかったのですか?」
 低い声でスザクは問いかける。
「あぁ。厄介なところにとらわれている」
「……中華連邦、ですか?」
「そうだ。最近、ようやくあれの足跡を見つけた」
 コーネリアはそう告げる。
「そうですか」
 その言葉の裏に隠されているものに気づかないスザクではない。ナナリーもおそらくそうだろう。
 しかし、それよりも喜びの方が大きいのだ。
 ようやくルルーシュに手を伸ばすことが出来る。うまく行けばその手をつかむことも可能だろう。
「今しばらくは準備期間だな」
 ルルーシュの安全を考えれば、今すぐ攻め入ることは難しい。コーネリアの言葉にナナリーはがっくりとした。
「仕方がないよ。一番重要なのはルルーシュと無事に再会することだし」
 ルルーシュに何かあればそれはかなわない。
 そして、ルルーシュの身柄は今、あちらにあるのだ。今は良くても、万が一の時の保証がない。
「クルルギの言うとおりだ」
 そう言ってコーネリアはうなずく。
「今のお前がすべきことはここでルルーシュが戻ってくるこの場所を守ることだ」
 そして彼女はこう続ける。
「わかっています。私では足手まといにしかなりませんもの」
 ナナリーが寂しそうに微笑むと言葉を口にした。
「そんなことを言うな。お前の存在があるからこそ、ルルーシュはまだ頑張っていられるのだぞ」
 だからバカなことは考えるな、とコーネリアは彼女の髪をなでる。
「お前は笑っていろ。それだけでクルルギだけではなくルルーシュも他の人間も安心できる」
 お前がすべきことはミナを安心させることだ、とコーネリアは続けた。しばらくためらってからナナリーは小さくうなずく。
「いい子だ」
 コーネリアは微笑むと視線をスザクへと向けてくる。そこにはナナリーに向けていた優しさはない。
「お前もだ、クルルギ」
「わかっているつもりです。殿下のご指示があるまでナナリーを守ります」
 もっとも、今回のようなことがあれば難しいだろうが……と心の内でつぶやく。
「それでいい。後は……お前自身が力をつければいいだけだ」
 それが一番難しいことではないか。スザクは心の中でそう付け加えた。

「……と言う状況です」
 女官の服装をした少女がルルーシュにそう報告をしてくる。
「そうか。出来ればその男と会いたいが……不可能だろうな、今は」
 監視が緩まない以上、とルルーシュはつぶやくように付け加えた。
 ルルーシュが《ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア》でいられる場所は本当に少ない。
 今も浴室で監視カメラの目を盗んで彼女の報告を受けている。
「伯父上には手間をかけさせて申し訳ないな」
 ため息交じりにそう続けた。
 たとえ下級とは言え女官としてここに潜り込ませるにはそれなりの時間が必要だったはずだ。それをなしえた伯父の執念深さには感心するしかない。
「嚮主様はそのようなことは思っておられません」
 彼女は立ち上がったルルーシュにタオルを差し出しながら言葉を返す。
「殿下のご無事だけを案じておいでです」
 彼は皇室の呪いを一身に受けているが故に子供は出来ない。だから、と言うわけではないが自分とナナリーをかわいがってくれていた。それが父に対する愛情の延長だとわかっていても感謝するしかない。
「今は無理でも近いうちにくさびをすべて断ち切る。そうおっしゃっておりました」
「……そうか」
 伯父がそう言うならそうなのだろう。
「出来れば麗華様にはご無事でいてほしいが」
 彼女もやはりここに閉じ込められているだけだ。そう言った点では自分と同じだろう。
 もっとも、それすらも演技だというのであればそれを見破ることが出来なかった自分のミスだ。その後のことは責任をとるしかないが、と続ける。
「わかりました。お伝えさせていただきます」
 着替えを差し出しながら彼女はそう言う。
「頼む」
 そう答えるとルルーシュはそれに袖を通した。



21.08.20 up
PREV | NEXT | INDEX